コメント(私見):
『総合周産期母子医療センター』は、各県に最低1カ所の設置が求められています。総合センターの位置付けは、県の周産期医療の「最後のとりで」であり、総合センターから急変患者の受け入れ要請を断られた場合は、その患者さんの収容先として県外の施設も考慮しなければなりません。
『地域周産期母子医療センター』は、その地域(広域医療圏)における周産期医療の「最後のとりで」という位置付けであり、その施設から急変患者の受け入れ要請を断られた場合は、地域内にその患者さんの収容場所がもはや存在しないということを意味します。
現状では、『地域周産期母子医療センター』と県から指定されていても、制度的に財政的なメリットは何もありません。負担と責任ばかりが非常に大きく、何のメリットもない現行の制度下で、多くの地域センターにおいて、その機能の維持が難しくなっています。それどころか、最近では、地域センターの中にも、産科休止に追い込まれている施設が珍しくありません。
今、全国的に、多くの『総合・地域周産期母子医療センター』が重大な機能不全に陥りつつあります。センター機能維持のためには、国や県からの人的、財政的な支援も必要だと思います。
****** 毎日新聞、2007年9月3日
<周産期センター> 受け入れ要請3分の1を断る 05年度
切迫早産などハイリスクの出産に対応する全国の総合・地域周産期母子医療センターで、05年度にあった受け入れ要請のうち、約3分の1は満床などのため対応できなかったことが、毎日新聞の調査で分かった。受け入れできなかった件数は、判明分だけで約3000件に達する。地域センターの中には、産科の休診などで機能していない施設があることも判明。医師不足の中、周産期医療(出産前後の母子への医療)の「最後のとりで」が十分に機能を果たせていない実情が浮かんだ。
調査は、総合周産期母子医療センターと地域周産期母子医療センター計272カ所(2月現在)を対象に実施。05年度の搬送要請件数などについて尋ね、149カ所(55%)から回答を得た。
その結果、記録が残っていた分だけで、母体の搬送要請が延べ9932件あったが、2916件は受け入れできなかった。要請のうち700件は都府県境を越えた要請で、半数を超える370件は受け入れできず、19病院に断られた昨年の奈良・大淀病院のようなケースが各地で発生していることをうかがわせる。
受け入れできなかったケースで最も多い理由を尋ねたところ、「新生児集中治療室(NICU)が満床」が75カ所。「母体胎児集中治療室(MFICU)が満床」は16カ所、「診療できる医師がいなかった」は14カ所だった。
受け入れ数を増やすために最も優先度が高い対策については、▽医師の増員60カ所▽NICUの増床56カ所▽後方支援施設を作る18カ所――の順。医師以外のスタッフ増員を求める回答も5カ所あった。
また、地域センターの中に、ハイリスク出産を受け入れていないなど、事実上機能していない施設が16カ所あった。理由は「大学病院へ産婦人科医が引き揚げられていなくなった」(北海道立紋別病院)、「産科医が大学病院への引き揚げなどでいなくなり、産科を休止しNICUも閉鎖した」(東北厚生年金病院)、「小児科の常勤医が05年6月退職し、休診している」(天草中央総合病院)などだった。
総合センターはMFICU6床以上、NICU9床以上などを備えた施設で、都道府県が指定。国は08年3月までに全都道府県で最低1カ所の設置を求めている。地域センターは、24時間体制で緊急帝王切開手術などに対応できる施設で、都道府県が認定する。 【五味香織、田村彰子】
(毎日新聞、2007年9月3日)
****** 毎日新聞、2007年9月3日
◇医師確保厳しく、機能不全
人けのない分娩(ぶんべん)室の片隅に、へその緒を留めるクリップや薬剤が封を切られることなく置かれていた。国立病院機構舞鶴医療センター(京都府舞鶴市)は、緊急帝王切開手術など比較的高度な周産期医療(出産前後の母子への医療)に対応する「地域周産期母子医療センター」に認定されているが、昨年4月から産科を休診している。産科の常勤医がいなくなったためだ。
以前は50代の男性医師と、小さな子どものいる30代夫婦の医師の計3人が勤務していた。だが、リスクの高い患者の来院が多いうえ、3日に1回は当直で、勤務は過酷だった。
女性医師は、我が子を集中治療室に寝かせながら夜間の緊急手術にも対応していたが、一昨年夏に辞めた。夫の男性医師も一昨年暮れに退職。残った50代の男性医師も疲れ果て、昨年3月にセンターを去っていった。
同センターは、京都府北部の周産期医療の中核を担うはずの施設。常盤和明副院長は「はっきり言って異常事態。だが、医師は確保できず、再開の見通しは立っていない」と力なく語る。
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厚生労働省は96年に定めた周産期医療システム整備指針で、リスクの高い母体の搬送など高度な医療に対応する「総合周産期母子医療センター」を、各都道府県で1カ所以上設置するよう求めた。地域周産期母子医療センターも、全国を358地域に分けた「2次医療圏」ごとに1カ所以上設けるよう勧めている。
厚労省によると、総合センターは現在、41都道府県で67施設が指定され、地域センターも33都道府県で210施設(4月現在)が認定されている。しかし、舞鶴医療センターのように、名ばかりの施設も少なくない。
京都府が地域周産期母子医療センターに認定している綾部市立病院もその一つだ。同病院産婦人科の上野有生主任医長は「1年半ほど前に突然、うちの病院が認定されると新聞に出てびっくりした。全く寝耳に水だった」と振り返る。
認定されると、他病院からの母体搬送を受け、緊急手術などに対応しなければならない。当時、産婦人科の常勤医はわずか2人。小児科医も2人で、受け入れられる体制にはなかった。
上野医長は「この人数で母体搬送を受け入れなければならないのかと府に問い合わせたが、『これまで通りのことをしてくれたらいい』との返答だった。母体搬送は今も受け入れていないが……」と困惑気味に話した。
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舞鶴医療センターは現在、近くの産科から未熟児などの受け入れを要請されると、センターの小児科医が救急車で駆け付け、センターに運んで治療する。周辺地域に高度な新生児医療ができる施設がないためだが、搬送に危険を伴わないことが条件のため、運用は限られているのが実情だ。切迫早産など母体搬送が必要なリスクの高い患者の多くは、遠く京都市や兵庫県に搬送されている。
京都府健康・医療総括室の松村淳子総括室長は「舞鶴医療センターの機能を早く取り戻すことが緊急の課題と認識しているが、産婦人科医は簡単には見つからない。どこにいるのか、知っていたら教えてほしい」と頭を抱える。
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奈良県橿原市の女性が救急搬送中に死産した問題で、改めて周産期医療の不備が浮かんだ。現状と課題を追う。
(毎日新聞、2007年9月3日)
飯伊地区のように、正常も異常も出産を限られた施設に集約化した場合、医師をはじめスタッフが相当充実しているならば何とかなるでしょうが、もし十分なスタッフが確保できなければ(もちろん24時間365日対応で)一気に崩壊してしまいます。
そのあたりをどれだけ理解してもらえるかですね。
また、総合周産期センターについては本当に地域の最後の砦です。こういう施設の場合、余力を保つための財政的な保障が必要でしょう(例えば一定数の空床にも診療報酬をつけるなど)。
救急医療もそうですが、最後の砦的な施設に対しても病床稼働率100%近くを要求し、数字が下がれば「赤字となって倒産するような診療報酬」とするのでは、当然そんな余力を保つことは出来ません。
厚生労働省にはそのあたりの配慮もお願いしたいですが、予算にはもう間に合わないかな~。
当たり前ですが、総合周産期センターに対して「正常分娩もやって、もっと施設の赤字幅の減少に貢献せよ」というのは、長い目で見れば県全体の地域医療の破壊に他なりません。先日の奈良県立医大産婦人科と同じ状況が当県においても発生するだけのことです。特に、一般の方・マスコミ関係者にご理解をいただきたいものです。そのために税金を投入することは(額はともかく)、医療システムを守るためには当然のことと思います。
(もちろん、県民が「税金がもったいない。他に使え。」というならやめればいいですが、その結果県外に搬送になっても仕方がないと割り切るべきです。)
私達が大学の人事を受け入れるのは大学が自分たちの将来を考えてくれていると信じているからです。しかし大きく隔たりがあるならば自分たちの将来は自分で決める必要があるのでしょう。
正直なところ将来について悩んでいる産科医は相当いると思います。
他の地域の周産期医療は崩壊するかもしれませんが、上手く立ち回れば産科医を集めることができるかもしれません。