ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

産科医療補償制度、すべての分娩機関に加入を呼び掛け

2008年09月06日 | 出産・育児

コメント(私見):

多くの場合、脳性麻痺の原因の特定は非常に難しく、分娩機関側に過失があったかどうか?の判断も非常に困難です。一般に『出産は正常が当たり前』と思われていますが、現実には、どの分娩機関であっても一定の確率で脳性麻痺などの不幸な結果も起きています。この一般の認識と現実とのギャップが、産科訴訟多発の原因の一つともなっています。

産科医療提供体制を立て直すために着手すべき課題は多くありますが、産科医療補償制度の創設はその中でもまず最初に着手しなければならない非常に重要な課題です。いよいよ来年1月1日から産科医療補償制度の運用が開始されます。

この産科医療補償制度では、分娩機関が支払う掛け金(1分娩当たり3万円)が補償金の財源になります。運営組織である日本医療機能評価機構は、契約先の民間損害保険会社(東京海上日動火災保険など6社)に保険料を支払います。事故発生時には、分娩機関が運営組織を通じて保険金を受け取り、脳性まひ児と家族に補償金として計3000万円を支払う仕組みです。来年1月以降の分娩に適用し、補償対象は年間で500~800人と見込まれています。

この制度では分娩機関が1分娩あたり3万円を負担することになるので、妊産婦が医療機関の窓口で支払う出産費用がその分増額されることが予想されます。そのため、厚生労働省は「出産育児一時金」の支給額を、現行の35万円から3万円引き上げ、38万円とする方向で検討に入ったとのことです。

分娩機関が制度に加入していないために補償を受けられない事態を防ぐため、厚生労働省や同制度を運営する日本医療機能評価機構では、すべての分娩機関に加入を呼び掛けてきました。しかし、全国3345か所の分娩機関のうち同制度に加入しているのは、9月3日現在2319か所で、加入率は69.3%(病院・診療所:72.5%、助産所:50.2%)にとどまっていることが判明しました。加入は8月にいったん締め切られましたが、加入率が低いため期間を延長。来年1月の制度創設に間に合うよう、9月中の加入を引き続き呼び掛けています。

産科医療補償制度の加入に関する問い合わせは、
日本医療機能評価機構 03(5800)2231 まで。
詳しくは、同機構のホームページで。

参考記事:産科医療補償制度の開始

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日本医療機能評価機構のホームページより引用:

 我が国の産科医療については、過酷な労働環境や医事紛争が多いことなどにより、分娩の取扱いをやめる施設が多く、産科医療の提供が十分でない地域が生じています。

 さらに、産科医になることを希望する若手医師が減少していることなどの問題点が指摘されており、産科医不足の改善や、今後の産科医療提供体制の確保は、我が国の医療における優先度の高い重要な課題となっています。

 こうした課題を解決し、安心して産科医療を受けられる環境整備の一環として、産科医療補償制度の早期創設が求められております。

 本制度は、脳性麻痺となった児およびその家族の経済的負担を速やかに補償するとともに、事故原因の分析を行い、将来の同種事故の防止に資する情報を提供することなどにより、紛争の防止・早期解決や産科医療の質の向上を図ることを目的としています。また、原則として全ての分娩機関の加入が求められるなど、多くの関係者や社会のご理解によって支えられる制度であります。

(引用終わり)