ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

子宮内膜症について

2006年01月18日 | 健康・病気

●子宮内膜症はどのような病気か?

子宮内膜症とは、もともと子宮の内側にしか存在しないはずの子宮内膜あるいはその類似の組織が、子宮の内側以外の場所(異所性)に発生し、そこで増殖する疾患です。つまり、子宮内膜が子宮筋層、卵巣、卵管など、腹腔内を中心に入り込み、そこで増殖してしまう病気です。特殊なものとしては臍や膣、外陰部、帝王切間の手術の傷などや肺などにも発生することがあります。

近年、子宮筋層に発生したもの(内性子宮内膜症)は子宮腺筋症とよぶこととし、別途に取り扱うようになりました。従って現在では、子宮内膜症とは子宮外に発生したもの(外性子宮内膜症)のことをさします。

子宮内膜症の発生メカニズムについてはいろいろな説があり、まだはっきりわかっていないのが現状です。なぜ子宮内膜症が発生するのか?その謎は今もって未解決の問題です。

●子宮内膜症の好発年令、発生率

10歳代後半には子宮内膜症の発生が認められ、性成熟期に向かってその発生頻度は加速度的に増加し、40歳代後半の閉経期を迎えるとその発生頻度は減少します。子宮内膜症の正確な発生頻度は不明ですが、多くの疫学的調査の結果から、生殖年齢層にある女性の5~10%が本症に罹患していると考えられています。

特に、通常の検査では不妊の原因がわからない原因不明不妊患者においては、およそ50%の症例が子宮内膜症を合併するという成績が多くの施設から報告されています。このように、子宮内膜症と不妊症との関連性が明かとなり、現在、本症は不妊因子として重要視されるようになりました。

●子宮内膜症の自覚症状

子宮内膜症の自覚症状で最も頻度の高いものが月経痛です。月経のたびにだんだん症状が悪化します。症状がひどくなると、月経時以外にも腰や下腹部に鈍い痛みがあったりします。排便痛、性交痛の訴えも多くみられます。

子宮内膜症の30~40%は不妊症を合併し、現在では子宮内膜症が不妊症の主要な原因の一つとされています。無症状の軽度の子宮内膜症でも不妊症の原因となります。ですから、妊娠を望む人は、月経痛などの症状を放置して子宮内膜症を悪化させることのないように気をつけて下さい。

●子宮内膜症の診断

問診、内診、超音波検査、血液検査、CT検査、MRI検査などをすることにより子宮内膜症であるかないか、ある程度わかります。また進行度などの詳しいことを知るには腹腔鏡検査などで調べます。

問診では、月経に伴う痛みの症状や不妊症を主訴とするものは、子宮内膜症を疑う有力な根拠となります。内診所見では、圧痛を伴う硬結の触知、子宮の可動性の制限、子宮頚部移動時の圧痛、癒着による子宮後屈などが特徴的です。

卵巣は、子宮内膜症の好発部位で、卵巣内に出血を繰り返し血液が貯留し、チョコレート嚢胞とよばれる状態となります。チョコレート嚢胞は経膣超音波検査で特徴的なエコー像として認められます。これを卵巣癌と区別するために、血液検査で腫瘍マーカー(CA125,CA19-9など)を測定し、さらに必要に応じてCTやMRIを行い総合的に診断することが大切です。

●子宮内膜症の治療

子宮内膜症の治療には、いくつかの薬物療法と手術療法とがありますが、患者さんの症状と年齢、進行度、妊娠を望むかどうかで対処方法が大きく変わってきます。また、妊娠によって病変の改善が期待できますので、妊娠希望のある方の場合はまず妊娠成立を助ける治療が先行する場合もありえます。

子宮内膜症の薬物療法には、痛みに対する対症療法、偽妊娠療法、ダナゾール(ボンゾール)、GnRHアゴニスト(スプレキュア、ナサニール、リュープリン、ゾラデックス)、低用量ピル、漢方薬などがありますが、いずれも子宮内膜症の病変を根治できるものではありません。これらの薬剤で、症状を軽減し、進行を一時的に止めることができますが、現在使われている治療薬はいずれも、肝機能障害、骨量低下などの副作用があり長期間は使えません。またいったん治っても薬をやめるとまた再発ということもありえます。

手術療法には、根治手術と保存手術とがあります。根治手術は病変を起こした子宮や卵巣を全部摘出する手術で、保存手術は病気のところだけを取り除き、子宮や卵巣は温存する手術です。この病気は保存手術では再発する率が非常に高いため、今後妊娠を望まない患者さんでは根治手術が多く行われますが、妊娠を希望する患者さんに対しては保存手術が選択されます。最近は、腹腔鏡下手術も多く行われています。

子宮内膜症は、死に至る病ではありませんが、薬物治療の無効例や治療後の再発例も多く、痛みや不妊などの症状で多くの女性を長期間苦しめています。それぞれの患者さんの置かれた状況によって治療法が異なりますので、貴女の場合はどの治療法を選択すべきか?担当の医師とよくご相談下さい。


胞状奇胎について

2006年01月17日 | 健康・病気

胞状奇胎(ほうじょうきたい)とは、胎盤の構成組織である絨毛(じゅうもう)が異常に増殖したもので、小さな袋状の粒がたくさんできて、ぶどうの房のように見えます。日本や東南アジアの胞状奇胎の発生頻度は欧米の2~4倍と推定され、日本では出生339例に1例の発生率と言われています。

正常の妊娠では、一つの卵子と一つの精子が一緒になって受精が起こりますが、受精時に卵子の核が消失して精子の核だけが卵子の細胞質内で分割していった場合(雄核発生)や、一つの卵子が二つの精子を受精した場合(2精子受精)に、胞状奇胎になります。

妊娠初期には、胞状奇胎と正常の妊娠とを明確に区別できるような特徴的な症状はあまりありませんが、近年の超音波診断法の進歩によって、妊娠の非常に初期の段階で胞状奇胎と診断されることも多くなりました。胞状奇胎では、超音波検査で子宮内に無数の袋状の粒が充満している像が観察され、正常妊娠とは容易に区別できます。

胞状奇胎の治療は、まず子宮内容除去術を行って、子宮内の胞状奇胎の細胞を完全に取り除きます。挙児希望のない40歳以上の患者さんでは子宮を摘出する場合もあります。その後は外来での定期検査が必要です。絨毛は絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンを分泌します。胞状奇胎や絨毛癌が存在すると、hCGが尿中に排泄されるので、hCG値を定期的に測定することで異常の早期の診断が可能となります。胞状奇胎後の定期検査中に、hCG値が順調に低下しなかったり、再上昇するような場合は、胞状奇胎の残存(侵入性胞状奇胎)や癌化(絨毛癌)を疑います。

胞状奇胎後の1~2%に絨毛癌が発生すると言われています。絨毛癌は非常に進行が速く、発生後すぐに肺や脳などに転移して全身に広がってしまいますので、できるだけ早期のうちに抗癌剤の治療を開始する必要があります。絨毛癌は適切に抗癌剤の治療を実施すれば、現在ではほぼ100パーセント完全な治癒が期待できる疾患です。絨毛癌の治癒後の患者さんが無事に妊娠出産した例も少なくありません。

しかし、胞状奇胎後の定期検査中に新たに妊娠してしまうと、hCG値が上昇して尿中に排泄されてしまうので、定期検査が全く無意味となり、絨毛癌の早期発見がきわめて困難となってしまいます。そこで、胞状奇胎後の患者さんには、通常6か月から1年間の避妊指導が行われます。胞状奇胎の細胞が完全に消失したと証明する方法はありませんが、hCG値が十分に低下して、一定の基準を満たせば新たな妊娠が許可されます。

以上述べましたように、胞状奇胎は決してそんなに怖い珍しい病気ではなく、一定期間の治療や定期検査の後には妊娠も必ず可能となるはずです。早期診断と術後の定期検査が非常に大切ですから、主治医の先生ともよく相談し、自己判断で管理の途中に受診をやめることなく、きちんと正しい管理を受けるようにしてください。


子宮体癌(子宮内膜癌)について

2006年01月17日 | 健康・病気

子宮体癌子宮内膜癌)は、子宮体部の内膜にできる癌で、従来は日本人には少ない癌と言われていましたが、食生活の欧米化にともなって、近年増加傾向にあります。子宮体癌は、食生活やその人の体質に深く関係があります。高脂肪・高カロリーの食事を好む人、肥満体質の人や糖尿病、高血圧のある人は注意が必要です。また、出産経験のない人や、若い頃排卵障害、ホルモン異常のあった人も危険性が高いことが知られています。年齢的には、45歳以上から増えはじめ、50歳以上の閉経後に多く発生します。

子宮体癌の症状としては、閉経後の不正性器出血月経の異常が重要です。子宮体癌を早期発見するには閉経期前後の検査が大切です。症状が気になる場合は、自己判断せずに産婦人科でしっかり検査してもらいましょう。

子宮体癌のスクリーニング検査としては、子宮内膜細胞診が一般的です。子宮の内部に細い器具(エンドサイト、エンドサーチetc.)を入れ、子宮内膜の細胞をとって調べる検査で、簡単にでき痛みもほとんどありません。この検査で異常が発見された場合、今度は子宮内膜の組織を一部とって調べます(子宮内膜生検)。経膣超音波検査で、子宮内膜が厚くなっているかどうか?も非常に重要な情報です。

子宮体癌の治療法は手術療法が中心です。手術方法としては、腹式子宮全摘・両側付属器切除(場合により,骨盤~傍大動脈リンパ節郭清術など)が行なわれる場合が多いですが、癌の進行度、糖尿病や高血圧の有無、年齢や肥満の程度など、患者さんそれぞれに最適な手術方法を正確に見きわめることが重要になります。子宮体癌の進行度を正確に見きわめるために、手術前にCTやMRIなどの検査も行なわれます。

手術摘出物の病理検査結果(癌の組織型、筋層浸潤の深さ、癌の広がり具合、リンパ節転移の有無など)によっては、術後の追加治療(化学療法、ホルモン療法、放射線治療など)が必要になる場合もあります。


卵巣がんについて

2006年01月16日 | 健康・病気

●卵巣がんの疫学

卵巣癌は日本で増加傾向にあり、1998年度中に4,173人の女性が卵巣がんで亡くなっています。日本で毎年新たに卵巣がんと診断される人は約6500人程度と推定されます。卵巣がんの約90%は,卵巣の表層を覆う細胞に由来する上皮性のがんです。日本人が卵巣がんにかかるリスクは欧米人に比べると半分以下ですが、この差は最近縮まっています。また、母親や姉妹が卵巣がんである場合は、卵巣がんにかかるリスクが3倍くらい高くなることも知られています。

●卵巣がんはどのように広がってゆくか?

卵巣がんの初期には自覚症状がないので、ほとんどの場合、転移した状態で初めて病院を訪れます。卵巣がんに最もよく起こる転移形式は腹膜播種(種を蒔くように癌細胞が腹膜を広がってゆく転移)です.腹膜播種が進むと腹水が貯まってきます。横隔膜から更に胸腔内に癌が拡がると胸水が貯まってきます。リンパ節転移は、まず、腹部大動脈の周りや骨盤内のリンパ節に転移し、次第に胸部や首のリンパ節にも拡がっていきます。

●卵巣がんの症状

初期の卵巣がんのほとんどは無症状です。なかには、婦人科検診で偶然発見される場合や、下腹部にしこりが触れるとか圧迫感があるなどの症状で婦人科を受診する場合も時にありますが、腹水のために腹部全体が大きくなるとか、胸水で息切れがするなど、癌の転移による症状で初めて異常を自覚する場合が多いのが卵巣がんの特徴です。

●卵巣がんの診断

いかにすれば卵巣がんを初期の段階で発見できるか?
何か効率の良い卵巣がんの検診方法はないか?

婦人科の診察(内診)で骨盤内の腫瘍が疑われる場合は、超音波検査CTMRI等の画像診断によって、子宮の腫瘍か卵巣の腫瘍か、腫瘍の内部構造、転移の有無などを詳しく調べます。検査によって、腫瘍の発生部位、良性か悪性かを推定することができます。血液中のCA125 という腫瘍マーカーを測定することは良性、悪性の判定に役立ちます。転移のある卵巣がんではほとんどの人がCA125陽性で、多くは非常に高い値になります。しかし、早期癌では陽性率は低く、また癌がなくても軽度陽性の人もいるので、CA125は卵巣がんの早期発見にはあまり役立ちません。

そこで、無症状の卵巣がんを早期発見する検診方法の研究(腫瘍マーカーでのスクリーニング、経膣超音波による検診など)が、世界中で多く試みられてますが、現在のところ有効な卵巣がんの検診方法は確立されていません。そのため、いまだに初期で発見される卵巣がんは非常にまれで、卵巣がんのほとんどのケースでは、かなり広がった状態で初めて診断されているのが現状です。

子宮筋腫などで開腹手術を行った際に、本人の希望で正常と思われる卵巣も同時に切除して、たまたま偶然に、摘出物の病理検査で卵巣の表層に微小な卵巣がんが発見されることがあります。そのような初期の卵巣がんと考えられるような場合であっても、すでに腹膜播種や少量の癌性腹水が認められることが少なくありません。また、不妊治療などで毎日のように産婦人科で超音波検査による卵巣の観察を実施している患者さんにたまたま卵巣がんが発生したようなケースでも、診断時にはすでに進行した卵巣がんとなっていて腹腔内に広く播種病巣が認められる場合が多いです。従って、『卵巣がんの多くは、卵巣の表面の腹膜を含めた骨盤腹膜の広い領域で同時多発的に発生する』と私は考えています(私見)。

●卵巣がんの治療

治療方法には手術療法、放射線療法、化学療法があります。

卵巣癌の手術方法は、転移の状態(病期)、年齢などによって異なりますが、標準的な手術方法では,両側の卵巣、卵管、子宮を含めて切除し、さらに大網切除(+後腹膜リンパ節郭清)などが行われます.また,腹腔内の転移巣をできる限り切除します。ただし、挙児希望のある若年婦人で癌が片側の卵巣だけに限局し、組織学的にも悪性度が低い場合(分化型腺癌など)は、片側の卵巣および卵管のみ切除して、子宮および健側の卵巣を温存する場合もあります。

卵巣がんでは手術後の残存腫瘍に対して、以前はよく放射線治療が行われましたが、最近では化学療法の方が主に行われています。

抗癌剤を使う治療を化学療法といいます。化学療法は、手術で取りきれなかった癌に対する治療として使われます。卵巣がんは抗癌剤が比較的よく効きます。抗癌剤は、内服されるか、静脈注射、あるいは直接腹腔内に注入されることがあります。抗癌剤を繰り返し使うことによって癌細胞が完全に消滅することもありますから、効果がある限り、ある程度副作用が起こるまで使用します。卵巣がんによく使われる抗癌剤の副作用として、血液中の白血球と血小板の減少、貧血、吐き気や嘔吐、食欲の低下、脱毛、手足のしびれなどがおこります。

初回手術で切除できずに残った癌が化学療法によって縮小し切除可能となった場合には再手術(セカンドルック手術)が行われます。

化学療法と組み合わせて徹底的に実施される手術療法と、卵巣がんに有効な抗癌剤の開発とその副作用対策の進歩などによって、卵巣がんの治療成績は近年飛躍的に向上しつつあります

上皮性卵巣がんの初回化学療法の標準レジメンは、現在、パクリタクセルとプラチナ製剤の組み合わせとされています。以前と比べると完全寛解率や生存率はかなり改善されてきましたが、卵巣がんの長期生存率は依然として不良であり、5年生存率が約30%、10年生存率が約10%であり、治療成績は現在でも決して良好とは言えません。


性器クラミジア感染症

2006年01月15日 | 健康・病気

性器クラミジア感染症は、クラミジア・トラコマチスという病原体による性感染症で、世界中で最も多い性感染症と考えられています。わが国でも性感染症の中で一番頻度の高い病原体です。

クラミジア・トラコマチスは、ウィルスよりやや大きい病原体で、ウィルスと同じように細胞内寄生体です。泌尿生殖器、眼、肺などに感染します。わが国の生殖年齢の婦人の子宮頚管からクラミジア・トラコマチスが分離される頻度は5~10%といわれ、血清抗体からみると20%前後の婦人が感染しています。

一般に女性では子宮頚管がクラミジアに感染しても無症状であることが多く、帯下感が唯一の症状で、時に子宮腟部が発赤し易出血性となることもあります。子宮頚管炎のみのときは症状は軽いことが多いのですが、ここよりクラミジアが上行し、卵管炎、骨盤内感染症、さらには肝周囲炎まで発症すると、激しい痛みの原因となります。若い女性で、急激な下腹部痛で救急車で運び込まれる人の中に、このクラミジア感染症の人が少なからずいらっしゃいます。卵管炎の後遺症として、不妊症や子宮外妊娠の原因ともなります。また、妊婦が感染していると、分娩時の産道感染によって児に結膜炎や肺炎を発症しますので、多くの産科施設で妊婦検診時にクラミジア検査を実施しています。

クラミジアの検査にはクラミジアそのものを検出する方法(PCR法など)と、血清抗体を検出する方法とがありますが、前者の方が直接的で診断的意義は高いとされています。

治療はクラミジアに対して感受性のある薬剤を服用します。例えば、尿道炎、子宮頸管炎に対して、成人にはアジスロマイシン(商品名:ジスロマック)として1000mg(力価)を1回経口投与します。腹膜炎などの場合は入院・点滴治療を要する場合もあります。性感染症なのでパートナーと同時に治療することが大切です。