紫のオルフェ~何でもかんでも気になる音楽、名曲アルバム独り言

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このヴォーカル・アルバムはすごい!屈指の名盤だ!…カサンドラ・ウィルソン~ニュー・ムーン・ドーター

2008-01-27 13:04:51 | ジャズ・ヴォーカル
この、アルバムは、ジャズ・ヴォーカル・アルバムの中でも、群を抜くクールさと、(器楽的な)ジャジーさが魅力です。
普通は、ジャズ・ヴォーカル・アルバムで、緊張感を覚える程、張り詰めた感覚って中々無いんだけど、このアルバムにはそれが有る。

異質かも知れないが、ジャズ・ヴォーカル・アルバム史上、屈指の名盤でしょう。

このアルバムでは、歌を歌う感覚ではなく、「カサンドラ・ウィルソン」の声が、正しく楽器と同化して…器楽セクションの一つとなっています。
しかし、歌い方は決して、器楽的では有りません。
むしろ、黒人ジャズ・ヴォーカリストらしく、声量、歌い回し、ヴィブラートの付け方など、第一級の歌唱をしています。

それから、私的には、このアルバムの編曲、雰囲気がすごく好きです。
一言で、カッコイイと言う言葉に尽きるんです。
インストを立たせたブルー・ノートの録音も、このアルバムのクールさを更に上げる原動力になっています。

アルバムタイトル…ニュー・ムーン・ドーター

パーソネル…カサンドラ・ウィルソン(vo)
      クレイグ・ストリート(pro)
      グラハム・ヘインズ(cor)
      ブランドン・ロス(g)
      ロニー・ブラキシコ(b)
      他

曲目…1.奇妙な果実、2.恋は盲目、3.ソロモン・サング、4.デス・レター、5.スカイラーク、6.ファインド・ヒム、7.泣きたいほどの淋しさだ、8.恋の終列車、9.アンティル、10.ア・リトル・ウォーム・デス、11.メンフィス、12.ハーヴェスト・ムーン、13.ムーン・リヴァー

1995年録音

原盤…BLUE NOTE  発売…東芝EMI
CD番号…TOCJ-5996

演奏について…まず、オープニング曲、「ビリー・ホリデイ」で有名な「奇妙な果実」が、スーパー・トップ・ヘヴィな名唱・名演で、いきなり度肝を抜かれる。
ベーシスト「ブラキシコ」の、野太いピッチカート奏法が、重厚な曲の礎を築き、
この曲のデュープな環境を的確に示してくれる。
所々で、「ヘインズ」が奏でるコルネットの、やや遠目から聴こえるサウンドが、黒人リンチ事件の不気味で哀れな雰囲気について語るアナウンサーの様だ。
そして、「カサンドラ・ウィルソン」の歌声は、どこまでも辛辣で、深い悲しみに満ちている。
叫ぶ様な怒りの絶唱ではなく、心の奥底に響いてくる、深い深い慈悲の、神への祈りの歌です。

2曲目「恋は盲目」…アコースティックの美しいサウンドに乗って、「カサンドラ」が、ここでも真に深い死の悲しみを表現した名唱を聴かせます。
ぼんやりとした音調で、この悲しさを色濃くしている、「ヘインズ」のコルネットが、ここでも一役かっています。

3曲目「ソロモン・ソング」は、「カサンドラ」の自作曲。
ジャズの曲とは思えない程、ゆとりや寛ぎ、そしてほのかな優しさに包まれた、癒し系の歌&楽曲。
分り易く、平たく言えば、「ユーミン」的なフォーク・ソングに近い感じがする。
楽器では、「ブランドン・ロス」のアコースティック・ギターの優しい調べが、「カサンドラ」の歌声と同化して、貴方の心に深く沁み込んで来ます。
しかし、全曲を彩る、アコースティック楽器群の編曲と、余す所なく録られた、録音が、より一層優しさを倍加させています。

4曲目「デス・レター」…死の知らせが書かれた手紙を受け取って、歌うブルーズ曲で、ここでの「カサンドラ」は、前3曲とは違って、ハードさと怒りの気持ちを込めた、迫力有る歌い方で押して行く。
バック陣のリズムとブルーズ演奏は、泥臭い中にも、かなり都会的なエッセンスを加味していて、あくまでも現代のブルーズで攻めています。

5曲目「スカイラーク」…とてもアンニュイな曲調で、曲が進行して、「カサンドラ」も気だるい雰囲気で、語りかける様に歌います。
スチール・ギター?が、ひばりを包み込む風の役目を表現していて…このひばりの行き着く先はどこなのか?
平和の世界なのでしょうか?

6曲目「ファインド・ヒム」…この曲もフォークソング、いや、あまり臭くない、カントリー&ウェスタンの感じの曲なんですが、しかし演奏&曲とは対照的に、情感タップリに「カサンドラ」が、素晴らしいヴォイスで歌ってくれます。
「カサンドラ」…やはり半端じゃなく歌は上手いねぇ。
バック陣では、「ロス」のギター演奏が聴かせてくれます。

7曲目「泣きたいほどの淋しさだ」…この歌も激しくディープできつい歌です。
「ハンク・ウィリアムス」が作曲した、ずばり…絶望の歌なんです。
しかし「カサンドラ」は、割と淡々と歌い上げて行き、演奏もヴァイオリン、ギターがメロディ・ラインを弾いて…比較的ライトに仕上げてくれてます。
あまりに悲しい歌なので、あえてそれ以上悲しみにくれない様に、軽めにしてくれたのかぁ?

8曲目「恋の終列車」は、皆が良く知る「ザ・モンキーズ」の歌った有名曲。
勿論、ここではジャズ曲として「カサンドラ」が歌い、仕上げているだけに、原曲のポップスとは一転して、全く違う雰囲気の曲になっています。
「カサンドラ」は、低音域をメインに歌っており、ドラムスとギターも低音重視に重厚的な編曲と演奏をしていて、重々しいと言うよりは、軽くない演奏曲にしているんです。
ここで歌われているのは、正しくジャズです。
決してポップスでは有りませんよ。

9曲目の「アンティル」は、「カサンドラ」自作曲で、アコーデオンがメイン伴奏をするセンスが、とてもgoodだと思います。
「カサンドラ」の実直で真摯な、そして上手いヴォーカルが、このパリジャン風のアコーデオンと、リズムを司るパーカションとのコンビネーションにマッチしていて、とにかくハイセンスで○ですね。
大人二人の愛を見つめる、好トラックです。

10曲目「ア・リトル・ウォーム・デス」は、題名通り、死についての歌なんですが、曲調がとても明るいんです。
演奏的には、ヴァイオリンをメインに押し立てて、明るく振舞うジプシーのイメージなんでしょうか?
曲調はメジャーだけど…このアコースティックな響きによって、演奏と歌が全然ライトじゃないんです。
「カサンドラ」の意図する物は…いたって「モーツァルト」的なのかもしれないですね。
メジャー曲に認めれた、心の奥底に眠る悲しさなんでしょう。

11曲目「メンフィス」も「カサンドラ」の自作曲です。
この曲は、アルバム中では最もロック&ポップよりの演奏・編曲がなされていて、ソウルフルなオルガンや、指パッチン、ギターなどが、「カサンドラ」の歌声に装飾を付けてくれます。

12曲目「ハーヴェスト・ムーン」…「ニール・ヤング」が書いたラヴ・バラード。
ここでの「カサンドラ」は、鳥のさえずりをバックに、朝日溢るる高原で気持ち良く、しっとりとバラードを歌い上げます。
サイドで爪弾く、バンジョーいや、シタール?(エキゾティックな弦楽器)が、より深く幻想的な効果を生んで、「カサンドラ」の名唱をサポートしてくれます。

日本盤のみのボーナス・トラックであるラスト曲の「ムーン・リヴァー」ですが、この曲もアルバムのコンセプトを全く損なわないばかりか、上位に位置できる出来栄えです。
ゆったりとして、ややハスキー・ヴォイスの「カサンドラ」のヴォーカルが、原曲の映画音楽から、この曲を完全にジャズ・ヴォーカル曲に、ステージ移行させています。
ここでも、シタール?か、東洋的でエキゾティックな弦楽器が、バックでソロを取るんですが、イリュージョンを思わせる程、不思議な気持ちにさせてくれて…「カサンドラ」のヴォーカルとの融合が最高です。


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