SpiMelo! -Mie Ogura-Ourkouzounov

L’artiste d’origine Japonaise qui mélange tout sans apriori

音楽のサンクチュアリ

2023-03-25 09:40:00 | Essay-コラム

パリは受験の季節真っ只中。


うちの娘も、音楽やスポーツ、演劇などを集中して勉強したい子供たちの集まる、半日制の小学校に願書を出した。


今の小学校は良いところだし、なにもこんなに早くからわざわざ受験させなくても、ともちろん思うのだけれど、フランスにはこうせざるを得ない理由がバックに山積みにある。


例えばこのまま中学校に進学すれば、引っ越し先の郊外の学区に戻ることになり、そこには「学区の音楽科」しかない。この学区の音楽科と呼ばれるところは、基本的にこれから音楽を始める初心者のために設けられた場所であり、本格的に音楽をやりたい子供には不向きなのだ。


じゃあ普通科で良いじゃないか、と思うのだけれど、フランスは学校での拘束時間が異常に長い。自分の生徒たちを見ている限りでは、普通科に行っている子供たちは音楽を練習する時間がない。学校に行くだけでくたくたになってしまうからだ。その上フランスは宿題も多い。


だからその上で音楽院に規定通り週3回通ってくる子というのは、かなり厳格で、経済的にも時間的にもある程度の余裕がある家庭の子。それだけでも大変なのに、練習してレベルを上げるところまで行くのは至難の業だ。


北欧のフィンランドなんかの話を聞くと、こういうシステムと全く逆なのだけれど。


、、、と、ここまでは前置き。


ところで私の教えているパリ19区の小学校の学区では、先述した「学区限定の音楽科」がある。


私の勤める19区音楽院と提携していて、私自身も開設時に関わった、馴染み深い音楽科である。


小学校の私のフルートのアトリエで勉強している子たちは、みんなこの音楽科に進学することを心から夢見ている。


これまでは、ほぼ私のアトリエで勉強した子供達のほぼ全員がこの音楽科に進学している。小学校側もそれを大変誇りに思っていた。しかし先述したように、このような中学校の音楽科の政治的信条はあくまで「初心者向け」であり、この信条を厳守する為に、今年からついに、「楽器経験者は優先入学させない」という通達が音楽院側から出されたのである。


それを聞いたアトリエの生徒たちと親御さんたちは、パニックに陥った。


音楽科に入りたいが為に楽器を始めたのに、楽器を練習したが為に音楽科に入れないなんて。こんなバカバカしい本末転倒がこの世界にあって良いのだろうか?!誰が聞いてもおかしな話である。


政治家らは、「初心者向け」という看板を掲げることで、貧しい地区の音楽未経験者を救う民主的で開かれた音楽科、というポーズを取りたい訳。凄いぞ我ら。我らに投票せよ。


で、「初心者でやる気のある子供」を優先させるそうだが、じゃあ一生懸命音楽科に入りたくて楽器を練習している子供達はやる気がないのか?この子たちは学区の音楽科に入る以外には、エリート校やら音楽院やらに入るような余裕もレベルもないんやで?



うちの小学校は、ヴィレットの音楽都市に隣接しているという事情で、児童の半分以上が小学校の段階でなんらかの楽器をやってる。それでも音楽が出来なかった子たちを私が受け持ってるんやで。そんな現実も知らずに、その一番恵まれてない子たちに対して、なんちゅう上から目線や!(怒ってるうちにだんだん讃岐弁になってきた!)


泣いている子供たちを前に怒りマックスに達した私は、学長宛に長いメールを書き、数回やり取りのバトル。しまいにはこれを是正しないなら小学校を辞任するとまで脅迫。翌日音楽院に直接談判に乗り込んだ。


その騒動を見て事態の深刻さを理解した私の同僚たちは、すぐに手を打ってくれ、政治的信条に汚染された言い方がどれだけ子供たちを傷つけていたかを理解し、すぐに是正することを約束してくれた。


政治的圧力に一緒に抵抗することを約束してくれた理解と勇気ある19区チームを、私はとても誇りに思う。


その足で小学校に行き、音楽院が「初心者も経験者も同等に音楽科に受験できると約束した」と伝えると、不安そうだった子供たちが一気に笑顔を爆発させた。


「音楽院の人たちはあなた達が上手だから、初心者に混じって退屈しないか、心配してただけだよ。」って言うと、


「心配しなくて良いよ!私たちがみんなに教えてあげるから」だって。()


私たちの音楽のサンクチュアリは、なんとか難を逃れた。良かった😅


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