SpiMelo! -Mie Ogura-Ourkouzounov

L’artiste d’origine Japonaise qui mélange tout sans apriori

音楽家からみた小説の映画化。

2011-05-22 22:01:41 | Essay-コラム
やっと多忙だったアクティヴィティーも少しずつ間引き運転になってきた六月。
人間らしい生活を取り戻すべく、序々にやりたかったことに着手中。手始めにず~と行きたかった、「ノルウェイの森」(トラン・アン・ユン監督)観てきました。
遅いって?そうですよ、フランスでは5月が封切りだったんですねえ。

最初映画化の話を聞いた時は(随分前ですが)ものすごく不安を感じたものである。
だって、あまりに自分のなかで、この小説のイメージができあがってるから、なんか下手にぶち壊されそうで怖い。。
しかも、このような偉大な小説を映画化なんて、できるの??勇気あるな~。それとも傲慢?!
あの恐ろしく芳醇なイメージを孕んだ物語を映像に置き換えるなんて
ベートーベンの壮大なシンフォニーを木管五重奏に編曲するようなものではありませんか。

結論からいうと、観てがっかり、とか自分のイメージがぶち壊される、ということはありません。

というのは、自分のイメージとこの映画を比べて、自分のこの小説に対する解釈を深めるいい機会になったからです。

前半いくつかのシーンは自分のイメージ以上に美しくシーンが描き出されていて、これぞ映画の醍醐味、という感じでした。

ワタナベくんの、あの薄い存在感、ある意味での平凡さ、すごく絶妙だし、自分が生まれる直前の日本の雰囲気。。。あのなにかが起こりそうでかつ重苦しい雰囲気は、あの時代に生きられなかったことに嫉妬しそうなほど、美しく描き出されています。

しかし、それも直子が登場するまで。。。!!直子さんのイメージは、残念ながら私のものとは一光年程掛け離れておりました。

なんというか。。。現実的すぎる。。。

村上文学は、「死(架空)の世界」と「現実の世界」の2声のフーガが素晴らしいわけで。。。もしその「架空」のほうが現実味を帯びてしまうと。。。この物語での2声「直子」と「緑」のバランスが崩れてしまう。これでは直子が死んだときの、悲しさが響いて来ない。
最後にワタナベくんが泣き叫んでいるシーンが長く感じてしまうのは、この辺に問題ありかも。

私が監督だったら、直子さんには、「真迫のヒステリー演技」じゃなくて「壊れた絶世の美女感」が、欲しいなあ!

逆に、緑さんは、ほとんど小説中よりある意味魅力的になっていたのでは?
小説中のエキセントリックで、俗っぽさのなかにピュアさを内包した感じを残しつつ、それよりは人間的な品や深みが前面にでていて、その繊細な表現に釘付けでした。

そう、繊細さ。この物語の、なんたる繊細さよ。これを映像で表現するのは、思った通り、難しそうです。

もうひとつ思ったのは、主人公を描くのに手間取りすぎて他の登場人物をあまり描いてないこと。
(永沢さんと、特にハツミさんはとてもよかったけど)
小説のなかでは具体的な描写が価値を与えている官能シーンも、映像にすると、すごく平凡になっちゃうからもっと少なくして、その分割愛されていた同室の突撃隊や、緑のお父さんや、レイコさんのことを描くのは、実は主人公をもっと生き生きと描くために必要だったのでは?と思ってしまう。

私としては、ここまでものの見事にレイコさんのストーリーを割愛してきたんだから、どうせなら割愛していただきたかったレイコさんとの最後の再会シーン。。。
祝祭的なすきやきのお葬式がないで~その代わり向き合ってしょぼくラーメン食べてるで。。。!!でしかもシャワー!しかもトドメは「まだやりたいですか。。。」これじゃあまるでワタナベ君慈善赤十字状態じゃないか

このシーンは私に取って、死より生を選んだ希望を示唆するラストを目前に、死者を共有した過去を浄化する通過儀式のようなもの。解釈次第ではスケベストーリーになってしまうこのシーン、心配通りこのようになってしまっていたのは大変遺憾である。

それにしてもこのレイコさん、私のなかのイメージと10億光年かけ離れてます。ギターを弾いてるシーンは出てくるだろうとは思って前もって心配していたが、ちょっとこれはいか~んと~っても非音楽的。だって、レイコさんはもともとピアノ教師でギターでバッハのフーガだって弾けるんだよ。。。ギターはフォークギターよりクラシックギターが気分だし。あと、弾けないのは仕方ないけど雰囲気だけでももうすこし音楽的で温かくしてほしかった。。。なんかこれじゃレイコさんの弾き語りがあまりにひどいから直子が発作起こしたみたいだよ

季節感の欠如もあるなあ。。。あの春の深まりとともに深まって行くどうしようもない主人公の苦悩感。あの強烈な季節の匂いは直子が死ぬまでの課程ですごく大事なのに、なんで冬のままだったんだろう?

最後の文章「僕はどこでもない場所のまん中から緑を呼びつづけていた。」

一体どこの誰がこんな素晴らしく広がりのある文章を映像にできるんだっ!天才でもない限り。
でも、ああだこうだといろいろ楽しめるし、面白い映画だと思います。

雨がちで暗かった今日、映画館から出ると、時間自体は遅くなってるのに、空が少し明るくなっていました。
本当に、「ノルウェイの森」ってこういう物語ですね。

追記1/個人的理想キャスト:「直子」水原希子 「緑」10年前位の広末涼子 「レイコ」若い頃の樹木希林

追記2/
村上春樹さんが9日、カタルーニャ国際賞受賞式にて「核にノー」のスピーチをされました。

http://mainichi.jp/select/world/news/20110610k0000e030063000c.html

私は村上ファンだからとかそういうことではなく、ここに彼のスピーチの一字一句への賛成を表明いたします。

そう、「夢を見ることを恐れてはならない」のです!!!