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SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

JAY EPSTEIN 「Long Ago」

2008年12月09日 | Drums/Percussion

90年代を代表するピアノトリオの傑作である。
あちこちの本で紹介され、一頃はレア盤としてみんなが探し回っていたアルバムだ。
ただ単に稀少盤であるというだけでなく、内容もすばらしいので、こちらもぜひ聴いていただきたい。

とにかく全編に渡って爽快なグルーヴ感を楽しめる。
このグルーヴ感を具体的に説明するのは難しいが、何といっても歯切れがいいというか、ふやけたところが一つもなく、三位一体のインタープレイが聴く者を圧倒するのである。
実際、音もいい。
特にジェイ・エプスタインの叩き出すシンバルの音が鮮烈だ。続けざまに叩かれると、磁石のように身体がスピーカーに吸い寄せられていくようだ。
アンソニー・コックスが弾き出すベースの音も低くてばかでかい。こちらはスピーカーから溢れ出てくる感じだ。
そんな中でビル・キャロザースのピアノが一番中庸な音で響いてくる。出しゃばらず、引っ込みすぎず、全体を上手くコントロールしている。所謂バランス感覚が絶妙なのである。

私は現代のピアノトリオが大好きだ。
但し、最近はやたらと甘いだけ、軽いだけのピアノトリオが多すぎる。
加えて、テクニックをひけらかそうとする輩も多いし、斬新さを追求するだけのひねくれ者も多い。
2~3日前、日本の有名女性ジャズピアニスト(誰とはいわない)のコンサートに行った知人がこんなことを言っていた。
「テクニックはすごかったんだけど、終始目立つのは彼女だけだし、何だかどの曲も同じような組み立てになっていて、ワンパターンだと感じるんだよね」
これ、何となくわかる。
バド・パウエルならそれも許せるが、ピアニストだけが目立ちすぎるのもどうかと思う。アイドル性が高いというのも考え物だ。まぁ、ライヴはそれでいいのかもしれないが、もしそうだとしたら私は行かない。
要するに大切なのは、テクニックを超えたところにあるハートなのだ。
演奏者が思い描く世界に聴衆を引きずり込もうとしてはいけない。ジャズは聴衆と一体となった世界を創り出せるかどうかにあるのだ。

ANAT FORT 「A Long Story」

2008年12月07日 | Piano/keyboard

いかにもECMの音だ。
ある程度ジャズをかじった人なら、それだけで「そうか~」と思うはず。
はるか遠くから聞こえて来るようなナチュラルな感覚と、そこはかとなく寂しいイメージ、これがECMの音である。

このアナ・フォートという女性、どうやらイスラエルのテルアビブ出身らしい。
全体にヨーロッパ的な雰囲気はあるものの、どことなく国籍不明な感じがするのはそうした彼女の生い立ちによるものかもしれない。
タイプとしては私の好きなトルド・グスタフセンに近い静穏なピアノを弾くが、アルバム全体としてはトルド・グスタフセンよりも表現方法に幅がある。
表現を3度変える静かな「just now」という曲の印象を軸にしながら、時にはクラシカルに、時にはフリースタイルで演奏を繰り広げている。中にはクラリネットやオカリナが登場する曲もあるが、ひょっとするとこのへんが好き嫌いの分かれ道になるのかもしれない。但しこうしたストーリー仕立ての作品は一曲一曲を取り上げて云々いうより、アルバム全体の印象を通じて評価すべきであろう。

彼女に大きな影響を与えているのは、師匠ともいえるポール・ブレイだ。
彼女のインプロヴィゼーションは正しくポール・ブレイから受け継がれたもので、このアルバムもところどころでポール・ブレイ的な表現方法が顔を出す。そうした意味でベースやドラムスとの感覚的な掛け合いも良好だ。
特に大ベテランであるポール・モチアンの知的なドラムには一聴の価値がある。アルバムのイメージを決定づけているのは、このポール・モチアンかもしれない。やっぱり一時代を築いた人の底力は計り知れないものがあるのだ。
これは明らかにベテランと若手のコラボレーションが成功している一枚だ。聴いてほしい。

JELLY ROLL MORTON 「Red Hot Peppers,...」

2008年12月05日 | Piano/keyboard

ライナーノーツを見ると、ジェリー・ロール・モートンは1885年生まれというから、私が知っているジャズメンの中ではスコット・ジョップリンの次に古い人だ。
しかも亡くなったのが1941年だから、それからでも既に67年の歳月が流れている。
しかしこんな前の人が残した音楽にもかかわらず、今の時代の人間が聴いても充分楽しめる。これはこの上もなくハッピーなことだ。

私が今聴いているのは1927年吹き込みの「Wolverine Blues」。
曲はもちろん彼の自作だ。
このアルバムは全23曲も納められている。そのほとんどが彼のグループであるレッド・ホット・ペッパーズの演奏で占められているのだが、この曲と「Shreveport Stomp」、「Turtle Twist」がトリオでの演奏である。
しかし今のピアノトリオとは違い、ピアノ、ドラムス、クラリネットによるトリオ演奏だ。
主役はあくまでクラリネットかもしれないが、ここでのジェリー・ロール・モートンのピアノは生き生きしている。
ラグタイムピアノの神髄ここにありき、である。
この絶妙なスイング感は、いい時のドロシー・ドネガンの演奏にも通じており実に楽しい。

ジェリー・ロール・モートンはジャズメンとして決して恵まれた人ではなかったようだ。
時は折しも世界大恐慌時代。契約していたレコード会社ともうまくいかず、結局はひとり寂しく病に倒れ亡くなったと聞く。
考えてみれば、今も世界大恐慌になりつつある世の中。
せめて彼の演奏するディキシーランド・ジャズのように、暗いもやもやをハッピーに吹き飛ばしたいものだ。


Ken Peplowski Quartet 「Memories Of You」

2008年12月04日 | Clarinet/Oboe/Flute

実にハートウォームな演奏だ。
胸の奥にまで染み入るようなサックスとクラリネットの調べ。この季節にぴったりの一枚である。

ケン・ペプロフスキーはクラリネット奏者として有名であるが、テナーサックスを吹かせても超一流だ。
このアルバムは2枚組の大作だが、クラリネットとテナーサックスでの演奏がほぼ半々ずつ入っていて私たちを楽しませてくれる。
ズズズ....ススス....と跡を引くようなビブラートが特徴的な太いテナーと、ホロホロホロ.....と小鳥がさえずるような軽いクラリネットの対比が実に新鮮に響いてくる。
曲もその楽器に合わせてうまく選曲してあるのだが、タイトル曲の「Memories Of You」だけは両方収録されている。どちらも甲乙つけがたい出来だ。彼は曲のテンポを極端に変えたりせず、純粋に楽器の音色によって表現を変えている。このへんが何ともにくいところである。
個人的な感覚でいうと、クラリネットでの演奏では、A-2曲目の「I'll Be Seeing You」、B-1曲目の「Foggy Day」の出来がよく、テナーサックスでの演奏では、A-6曲目の「It Might As Well Be Spring」、B-6曲目の「But Not For Me」が特に際立っているように思う。ピアノを弾くテッド・ローゼンタール やベースのゲイリー・マッツァロッピ、ドラムスのジェフ・ブリリンガーとの息がぴったりと合っているからだ。

話は変わるが、昨日は3時間かけて山あいのある町まで出かけ、茅葺きの古民家に宿泊した。
地元の人と数名で囲炉裏を囲み深夜まで酒を飲みながら話をしたのだが、酔った勢いで外に出てみると、夜空には満天の星が輝いていた。天の川もくっきり見えるし、オリオン座の中にも小さな星がたくさん存在していることに驚いた。正に降ってくるような煌びやかさだ。
雪国の冬は厳しいが、冬ならではの楽しみもある。
季節を感じることのできる生活をしていたいとつくづく思う。

MATT RAY 「LOST IN NEW YORK」

2008年12月01日 | Piano/keyboard

お薦めのピアノトリオである。
決して派手な曲があるわけではないが、一曲一曲に品があり、マット・レイという人のセンスの良さを感じる。
洗練された都会のイメージだ。
特に印象的なのは、ラストの「Last Call on the Lower East Side」。
短い曲だがとてもおしゃれに仕上がっており、一度聴いたら忘れられない旋律だ。最後にこういうメロディアスな曲が入っていると、やっぱりアルバム全体のポイントが高くなる。何かグッとこちらに近づいてくるような気がして愛おしくなるのだ。
この他、抜けるような青空を連想させる「Where Were You When I Needed You ?」や、明るくテンポのいい「Pent-up House」、ゆったりとくつろげる「El Bosque」「Central Park West」「The Makings of You」なども忘れられない。

最近は私の周辺でもピアノトリオファンが増えている。
つい先日も友人が家に遊びに来て、「ねぇ、何か聴いていて気分がよくなるピアノトリオを聴かせて?」というのでこのアルバムを聴かせてやったら、とても気に入ってくれて、早速メモを取っていた。
こういう風に相手の要求にピタリとはまるとこちらも嬉しい。このアルバムを買ってよかったとも思う。
ついでにニューヨークつながりで、アキコ・グレースの「Manhattan Story」をかけたら、こちらにも感激してくれた。
お陰様で、その後も気分のいい夜を過ごさせてもらった。
めちゃくちゃ単純な性格だ。