SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

ANAT FORT 「A Long Story」

2008年12月07日 | Piano/keyboard

いかにもECMの音だ。
ある程度ジャズをかじった人なら、それだけで「そうか~」と思うはず。
はるか遠くから聞こえて来るようなナチュラルな感覚と、そこはかとなく寂しいイメージ、これがECMの音である。

このアナ・フォートという女性、どうやらイスラエルのテルアビブ出身らしい。
全体にヨーロッパ的な雰囲気はあるものの、どことなく国籍不明な感じがするのはそうした彼女の生い立ちによるものかもしれない。
タイプとしては私の好きなトルド・グスタフセンに近い静穏なピアノを弾くが、アルバム全体としてはトルド・グスタフセンよりも表現方法に幅がある。
表現を3度変える静かな「just now」という曲の印象を軸にしながら、時にはクラシカルに、時にはフリースタイルで演奏を繰り広げている。中にはクラリネットやオカリナが登場する曲もあるが、ひょっとするとこのへんが好き嫌いの分かれ道になるのかもしれない。但しこうしたストーリー仕立ての作品は一曲一曲を取り上げて云々いうより、アルバム全体の印象を通じて評価すべきであろう。

彼女に大きな影響を与えているのは、師匠ともいえるポール・ブレイだ。
彼女のインプロヴィゼーションは正しくポール・ブレイから受け継がれたもので、このアルバムもところどころでポール・ブレイ的な表現方法が顔を出す。そうした意味でベースやドラムスとの感覚的な掛け合いも良好だ。
特に大ベテランであるポール・モチアンの知的なドラムには一聴の価値がある。アルバムのイメージを決定づけているのは、このポール・モチアンかもしれない。やっぱり一時代を築いた人の底力は計り知れないものがあるのだ。
これは明らかにベテランと若手のコラボレーションが成功している一枚だ。聴いてほしい。