SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

GERRY MULLIGAN MEETS JOHNNY HODGES

2007年08月14日 | Alto Saxophone

これも長年の愛聴盤、全くもって文句のつけようがない作品だ。
ジェリー・マリガンは「ミーツ~」と銘打った作品をいくつか残している。モンクやゲッツなどとのセッションは有名だが、このジョニー・ホッジスとの競演作は特別だ。何せ自分が憧れた大先輩との共演だから気合いの入れようが違うのだ。
ジョニー・ホッジスは言うまでもなくデューク・エリントン楽団の花形スターである。彼のアルトはあのチャーリー・パーカーも脱帽したくらいにそれ以後のサックスプレイヤーに大きな影響を与え続けた。
彼のアルトはその楽器の特性を超えて人間の身体の一部としての機能を持っていた。つまり彼のアルトはホッジスの人間性までも映し出す鏡のような存在だった。正しく彼の分身だといってもいい。
2曲目の「What's the Rush」でのホッジスを聴いてほしい。私の言っていることが決して大袈裟なことではないということがわかるはずだ。身体の底から絞り出すようなやるせなさが深い感動を呼ぶ。これは誰にも真似できない芸当だ。

このアルバムには決定的な魅力がもう一つある。
とにかく音がメチャクチャいいのだ。これが本当に50年代の録音かと思えるくらいだが、私の数あるアルバムコレクションの中でも10本の指に入る録音の傑作だといっていい。
ホッジスのアルトやマリガンのバリトンは色艶抜群だし、クロード・ウィリアムソンが弾く転がるピアノの高音域もきれいに録れている。またバディ・クラークのベースのゴリゴリ感も、メル・ルイスのシンバルワークも実に迫力があって嬉しくなる。
聴いていてこんなに快感を得られるアルバムも少ない。
やっぱりこれは名盤中の名盤だ。一人でも多くの人に聴いてもらいたい。

ERIK SMITH TRIO「FINGER MAGIC」

2007年08月13日 | Drums/Percussion

ジャケットだけを見て退いてはいけない。
何しろこのトリオ、メンバーがすごいのだ。ピアノは先日ご紹介したロイ・パウエル、ベースはヘルゲ・リエン・トリオのフローデ・ベルグ、リーダーはドラマーのエリック・スミス。それぞれの出身は違っていても今をときめくノルウェーの精鋭たちだ。
このメンバーなら何も躊躇することはない、東京のCDショップで速攻ゲットした。
演奏内容は「生きがいい」の一言に尽きる。ノルウェーだからといって暗く寒々しいイメージは感じられない。全員が自信を持った演奏をしている。
曲の構成はというと、全10曲中ロイ・パウエルが5曲、フローデ・ベルグが1曲、その他はアントニオ・カルロス・ジョビンやリチャード・ロジャース、マイルス・デイヴィスの曲をそれぞれ1曲ずつ取り上げている。
この中で特に印象に残るのがマイルスの「ALL BLUES」だ。エリック・スミスのドラムスがすばらしくいい。バスドラムからスネア、タムタム、ハイハット、クラッシュシンバルに至るまでそれぞれのパーツがくっきりと浮かび上がっている。スティックの太さや材質まで手に取るようだ。これはもうドラムによるオーケストラといっていい。

このアルバムはガッツ・プロダクションからの発売によるものだ。
このレーベルはシンプル・アコースティックトリオやコニー・エヴィンソンなど北欧モノに力を入れている日本のレーベルだ。音にもかなり迫力があって私の好きなレーベルのひとつである。デジパックが豪華なのもいい。
但し惜しいかなジャケットデザインが今ひとつなのだ(このアルバムは今ふたつ)。
せっかくいい内容なのにこれでは売れそうもない。下手な写真はやめて無地にした方がまだ救われる。

GEORGE WALLINTON 「JAZZ FOR THE CARRIAGE TRADE」

2007年08月12日 | Group

1955年~56年はモダンジャズが最も華やかだった頃だ。
当時は猫も杓子もハードバップに色めき立っていた。
人気グループとしてはマイルス・デイヴィス・クインテットやアート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャース、ローチ~ブラウン・クインテット等がその第一線で活躍していたが、このジョージ・ウォーリントン・クインテットも忘れられない存在としてジャズ史に燦然と残っている。
ここでのメンバーはジョージ・ウォーリントン(p)、ドナルド・バード(tp)、フィル・ウッズ(as)、テディ・コティック(b)、ビル・ブラッドレイ(ds)だが、彼らの第1作である「ライヴ・アット・ザ・カフェ・ボヘミア」では、フィル・ウッズの替わりにジャッキー・マクリーンが加わっていた。
この第1作と第2作のどちらがいいかは意見の分かれるところだ。
片やライヴ録音であり、片やスタジオ録音だから、当然好みが分かれて然るべきだが、臨場感はやはり前者にかなわない。ウォーリントンの突っ込んだピアノを聴くだけで嬉しくなるのだが、フィル・ウッズとジャッキー・マクリーンのどちらが好きかということ以前に、ここはドナルド・バードの出来に注目したい。
個人的には第2作のバードが好きなのだ。「カフェ・ボヘミア」の時は何となく存在感が足りなかったバードは、この「キャリッジ・トレード」で自信を取り戻している。見事な吹奏だ。この違いは決定的に思える。
音の響き方も違う。ライヴ版は音の厚みが足りないような気がするのだ。
但し、こんなハードバップは冷静に音を聴くことよりももっと大切な何かがあるといわれれば反論のしようがない。もともとハードバップは熱気溢れるライヴで聴くのが一番なのだ。

このところ連日の猛暑になっている。夜になってもじっとりと汗がにじんでくる。
私は今、団扇片手にこの2枚のアルバムを聞き比べている。
どちらも甲乙つけがたい。それでも私はやっぱりこの「JAZZ FOR THE CARRIAGE TRADE」が好きだ。

DODO MARMAROSA 「DODO'S BOUNCE」

2007年08月11日 | Piano/keyboard

1946年~47年という古い録音である。はっきりいって音は良くない。
しかし中身をじっくり聴くとドド・マーマローサの熱い情熱が伝わってくる快作だ。
彼の本名はMike Marmarosa。DODOというのはモーリシャス島の楽園で自由に暮らしていた愉快な鳥のことのようで、彼の愛称である。但し彼自身はそう呼ばれるのを嫌っていたようだが....。
この時代の録音は音に深みがないので、どんなピアニストの音も同じに聞こえてしまうかもしれない。しかし目を閉じて聴いてみればわかる、彼のピアノは実にモダンだ。品があるといっていい。
「YOU THRILL ME」や「I'M IN LOVE」「RAINDOROPS」等を聴いてほしい。驚くほどおしゃれな弾き方だ。
また「DODO'S DANCE」や「DODO'S LAMENT」ではバド・パウエルに負けない指さばきを見せてくれる。やはりこの人、ただ者ではない。

彼は幻のピアニストで有名だが、「DODO'S BACK」の人気も手伝ってかこのアルバムを探している人も多い。
共演しているバーニー・ケッセルやラッキー・トンプソンといった面々もいつも以上に熱がこもっている。しかもソロあり、トリオありとバラエティに富んでいる構成なので飽きさせない工夫が随所に感じられる。当時の人は本当にエンターティナーだったのだ。
このアルバムでは短い曲が30曲も詰まっている。そのほとんどが彼のオリジナルだからそれだけでも驚くべきことだ。今だったらこれだけの曲があれば4~5枚のアルバムができそうだなどとついつい打算的なことも考えてしまう。
数は多くても決して駄作はない。ドドは私と違ってまじめな人なのだ。

この時代の音を聴くとなぜかジャズが生き生きしているように感じてしまう。喜びに溢れているというか、演奏できることの幸せが伝わってくるのだ。それがこの頃のジャズの最も魅力的な点だ。やはり初心忘れるべからずか。

MARC JOHNSON 「THE SOUND OF SUMMER RUNNING」

2007年08月10日 | Bass

夏の爽やかな一枚をご紹介しよう。
ジャズなのにこんなに爽やかでいいのかと思えるくらいだが、これも立派なジャズなのだ。
メンバーはリーダーのマーク・ジョンソン(b)の他に、パット・メセニー(g)とビル・フリーゼル(g)、ジョーイ・バロン(ds)という布陣である。この顔ぶれだけを見ればECMかと勘違いしそうだが、これはヴァーヴからの発売によるものだ。
それにしてもパット・メセニーとビル・フリーゼルのツインギターというのは珍しい。ピアノレスアルバムにした理由はこの2本のギターの存在感をさらに高めるためだったのかもしれない。
マーク・ジョンソンが作りたかった作品には、この2人のギターがピアノよりも必要性が高かったのだ。

2人はどちらも澄んだ音色を夏空の彼方まで響かせている。こんなに広い大地を感じる音楽も少ないのではないだろうか。
月並みな例えだが、「車窓の旅」などのビデオクリップに合わせるとぴったりはまりそうな雰囲気だ。
2本のギターは、よく耳を澄ませていなければどちらがメセニーなのかフリーゼルなのかは判別しづらい。ツインギターといってもそれくらい自然なハーモニーが出来上がっているのでうるさい感じは一切ない。

主役のマーク・ジョンソンはビル・エヴァンス・トリオのベーシストとして名を馳せた男だ。
このアルバムでもビル・フリーゼルから2曲、パット・メセニーから1曲を提供されているものの、残り7曲は全て彼のオリジナル曲である。並々ならぬ意欲作だが、その全てをツインギターをイメージして書き下ろしているように聞こえる。
どの曲もメロディは優しく、夏ならではの若々しい躍動感とほんのちょっぴりの寂しさが全編に渡って広がっている。
こんなアルバムを聴きながら海岸通りを車で走り抜けたい、そんな気にさせるアルバムだ。

ANN BURTON 「BLUE BURTON」

2007年08月09日 | Vocal

5曲目の「IT'S EASY TO REMEMBER」、6曲目の「YOU'VE CHANGED」、この2曲が愛聴曲である。
他の曲が決して悪いわけではないが、私にとってこのアルバムはこの2曲が全てなのだ。
「IT'S EASY TO REMEMBER」ではベースが主軸のスローナンバー。
これまで多くのジャズマンに愛され演奏され続けてきたこの曲は、ここに一つの頂点があるといえる。この曲はさらりと歌うことがコツであり、粘っこく引きずっては台無しだ。多くの場合、感情過多になりすぎて失敗するケースが多い中、アン・バートンは何のためらいもなくサビの部分までさらりと歌いきる。この清涼感がたまらなくいい。
「YOU'VE CHANGED」では、ドラムスのブラシが全体のムードメーカーだ。
いかにも涼しげな彼女の歌声とルイス・ヴァン・ダイクのピアノに、ピエト・ノールディクのハスキーなアルトが優しく絡んでいく。この絶妙な取り合わせがこのアルバムのハイライトになっている。

ヴォーカルはバッキングの善し悪しで決まるというが、これは正にその典型だ。
とにかくルイス・ヴァン・ダイク・トリオが見事なのだ。
このアルバムを聴くとおそらく10人に9人までが彼らのピアノトリオアルバムを聴きたいと思うようになる。
ルイス・ヴァン・ダイクはブルージーな感性の持ち主だが、彼のピアノの響き方が実にいい。ツボを押さえたように、ここぞというところで、これしかないというような音を出す。
またジャック・スコルズのベースもジョン・エンゲルスのドラムスも、しっかり自己主張をしながら自分の役目を果たしている。録音がいいからそういう風に聞こえるのかもしれないが、どうやらそれだけではなさそうだ。

私にとってオランダという国はピュアなイメージがある国だ。
それは多分にピム・ヤコブス・トリオとこのルイス・ヴァン・ダイク・トリオのせいである。

GENE DiNOVI「SO IN LOVE」

2007年08月08日 | Piano/keyboard

この哀愁感をどう説明したらいいのだろう。
1曲目から死にそうだ。さわるとすぐにでも壊れてしまいそうな儚さが見事に表現されている。
私はジーン・ディノヴィが大好きだ。なぜこんなにすばらしいピアニストがこれまでマイナーな存在であったか不思議なくらいである。
彼はチャーリー・パーカーとも共演した経験を持つ大ベテランだ。
ペギー・リーの傑作「SEA SHELLS」にも参加しているから、よくよく探してみれば若いときの彼ともあちこちで出会えるかもしれない。
しかしトラサルディのロゴが入った白いシャツを几帳面に着こなし、ピアノの前で優しくほほえむこの老人を見るにつけ、彼の場合は今が絶頂期であることを感じさせる。
彼の音楽を聴いていると、決して若い人には出せない音があることに気づくのである。そう、彼には他の人にはない薫り高き品格があるのだ。ここが彼の最大の魅力である。

この作品はマシュマロというレーベルから出ている。
ここからはジーン・ディノヴィの他にもヤン・ラングレンやカーステン・ダールなど、今をときめく人たちが数多く発売されている。上不三雄さんというオーナーに感謝したい気持ちでいっぱいだ。
ジーン・ディノヴィは、このアルバムの他にも「GOLDEN EARRINGS」がすばらしい出来だった。
まだ聴いたことのない人はぜひにといいたい。こういうのを格調高い作品というのだと思う。
日本人の感性にも合っている。名盤だ。