何はともあれジャズはベースだ、といわせる一枚。
ベースを弾いているのはリロイ・ヴィネガーだ。どちらかといえばあまり目立たないベーシストである。デリカシーも足りないし、テクニックもそれほど感じない人だ。
しかし彼はウォーキングベースを弾かせたらナンバーワンのウェストコースターである。重いゴムのような弾力を持つベースの弦を強靱な指ではじき飛ばす。その迫力が安定したリズムを生み出している。この単調さが何ともいえない快感なのだ。ジャズのリズムはこうでなくてはいけない。
難しいベースソロなど彼には一切必要ない。
他の楽器が一休みしても彼だけは指を休めることをしない。ただただリズムを刻むことが彼の仕事なのだ。それでいい、それでいいのだと聴きながら頷いてしまう。そんなことを思わせるミュージシャンは少ない。だから私は彼の大ファンなのだ。
このアルバムはケニー・ドリュー初期の作品である。
考えてみれば後期にはニールス・ペデルセンという強力なパートナーを持った彼らしく、ベーシストとの相性が彼の生命線だったともいえる。いいベーシストと出会うと持てる力を100%発揮する、ケニー・ドリューとはそんな人なのだ。
8曲目の「Minor Blues」を聴いてほしい。複雑なテーマが終わってアドリヴが始まると彼のブルース魂に火がつく。彼ならではのフレーズも随所に出てくるが、暗闇をまっしぐらに突き進むがごとくだ。ジョー・マイニのサックスもドリューの魂に引きずられて好演を見せる。そしてリロイ・ヴィネガーの地を這うようなウォーキングベース。完璧だ。
これがジャズだといえる作品があるとしたら、私はこれもその内の一つに加えたいと思う。
地味だけれどもこんな演奏に本物のジャズを感じるのだ。