SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

PHINEAS NEWBORN Jr 「Harlem Blues」

2007年10月05日 | Piano/keyboard

フィニアス・ニューボーン・ジュニアはテクニシャンだ。
あのオスカー・ピーターソンと双璧だった。
但しピーターソンほど吹き込みが少ない。バド・パウエル同様にこれが精神病に悩まされ続けた男の結果なのだ。故に希少価値がある人だといってもいい。少ない作品だからこそ、彼の吹き込みの一枚一枚に何かズシリとした重みを感じるのだ。
この重みは彼特有のブルースフィーリングも大いに関係しているように思う。
これは明らかにアート・テイタムから受け継いだオスカー・ピーターソンの表現方法とは違う。
彼の演奏には深い心の底から這い上がってくるような情念を感じる。
とはいっても彼が演奏するブルースは周りが想像するほど暗くない。1曲目の「Harlem Blues」を聴くといい。初期のキース・ジャレットを彷彿とさせるようなポップなリズム感だ。但しこれは一歩間違うと危ない方向に進みかねない類の明るさだ。この何ともいえぬ緊張感が彼の持ち味であり真骨頂なのだ。
彼のブルースフィーリングは続く「Sweet and Lovely」で最も色濃く出ている。
思いっきりためを効かせたフレーズにはタイトル通りの優しさが溢れている。ブルースでこれだけの優しさが表現できるのもニューボーンならではのテクニックだといえる。これはすばらしい演奏だと思う。

このアルバムにはもう一曲すごい演奏があった。「Stella by Starlight」である。
ピアノソロで始まるこの曲は、いかにもニューボーンらしい音の連続で、聴く者を否が応でも彼の世界に引きずり込んでいく。途中から出てくるエルヴィン・ジョーンズのドラムスも恐ろしいくらいの迫力だ。レイ・ブラウンのベースといい、脇役がこれくらいしっかりした人たちでないとニューボーンと同格に渡り合うことは不可能だろう。そうした意味でもこの布陣は理想的である。
本物のブルースを聴きたければこれを聴け、といいたくなるくらいの名作だ。