『なでしこ力 次へ』
佐々木則夫著 講談社発行 1200円
澤穂希の鮮やかなボレーシュートが決まってから、約3分が経過していた。
相手のシュートチャンスをスライディングタックルで防いだ岩清水梓に、ドイツ人女性主審のビビアナ・シュタインハウスさんはレッドカードを提示した。一発退場。重すぎる判定だ。それでも岩清水をはじめ、なでしこジャパンの面々は誰一人、審判にクレームをつけようとはしなかった。
男子の大会だったら、間違いなく一悶着ありそうなシチュエーションだ。頭に血がのぼって、審判に暴言を吐き、新たな退場者が出るようなシーンを、僕はたくさん男子サッカーの試合で見てきた気がする。
なでしこジャパンは違った。文句を言っても判定は覆らない。やるべきことは、次のプレーに備えることだ。彼女たちはそれを分かって、落ち着いて行動した。勝負を諦めていなかったからこその行動だった。
潔く判定を受け入れ、ピッチの外に引き上げる岩清水の頬に、肩に、頭に、仲間たちがそっと手を添える。
「よく食い止めてくれた」
「ありがとう」
「あとはまかせて」
彼女たちはきっと、そんな言葉を掛けていたのだろう。
退場となった選手は、その後ベンチに座ることも許されない。それがサッカーのルールだ。岩清水は、なでしこジャパンの総務担当スタッフ山田に付き添われ、僕たちのいるベンチの脇を抜けて、ロッカールームに通じる通路へと歩き出した。
(以上本文、冒頭)
著者の前作はワールドカップの優勝が予言されていた。本書はそのワールドカップの振り返りから始まる。そしてチームの未来像や自らのサッカー半生、日本の女性が持つパワーを語る。「単なる「団結力」や「精神力」では十分に言い表すことができない。他国がいまだ備えていない特筆すべき長所が、なでしこジャパンには確かに存在するのだ――」
今夜からオリンピックのサッカーが始まる。男女揃って優勝したら日本のサッカー会はどうなるのだろうか。
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