以前、落語にまったく興味がない友人に歌丸師匠を知っているか尋ねたら、
「うん、『死にキャラ』の人でしょ」
と即答され、やっぱ笑点すげぇ と心底感心したことがあります。
落語好きと通ぶったところで、実はナマで聴く機会などそうそうあるわけではないのですが、歌丸師匠の落語は一度だけ聴きに行った事があります。演目は円朝の『怪談 真景累ヶ淵』。師匠のライフワークと言える傑作です。
まだ玉置宏館長だったころの横浜にぎわい座で、その時はトータル7時間の長尺を一週間かけてすべて語るというもの。死ぬまで続く師匠の挑戦が始まったばかりでした。
さすがに一週間通い続ける元気はなかったので1日だけ、1話だったかと記憶します。10年くらい前でしょうか。
有名な話ですし、歌丸師匠のDVDも出ているようですので、詳しい話は省きますが、人間の情念や因縁が複雑に絡み合ってまあ、壮大な話です。「登場人物を覚えるだけでも大変」とご本人もおっしゃってました。話の緻密さとスケールの大きさが魅力だったのでしょうか。10年前でまだまだお元気とはいえ、すでにかなりのお歳での挑戦、生半可な覚悟ではなかったと思います。
そういう話ですから、笑いの要素はほとんどありません。けれども楷書の芸とでもいいましょうか、口跡やリズムの良さといった確かな技術を土台にして丁寧な人物描写と状況説明を淡々と語り重ねていくことで、観客の脳裏には情景がはっきり浮かび、筋を追うのも面白く、約1時間、まったく飽きませんでした。まさに名人芸です。
一箇所だけ、大爆笑のくすぐりがありました。
『円楽の飼い葉』。
先代円楽がご存命だったんですね 仲良いんだなあ、と思いながら笑っていました。
「いつか全話を」と思いつつも、残念ながら、その後は聴く機会がないまま歌丸師匠は鬼籍に入られました。よく言われることですが、落語はどんなに磨かれたすばらしい芸も、持ち主が退場する時に全部持っていってしまう。切ないですね。
ご冥福をお祈りいたします。
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