これは壺?
思いがけず時間が空いたので、大阪東洋陶磁美術館で開催中の『没後100年 宮川香山展』に行ってきました
幕末から明治にかけて活躍した初代宮川香山は、「真葛焼(まくずやき)」と呼ばれる中でもとくに『高浮彫(たかうきぼり)』の名人です。もともとは京都の人ですが、招かれて横浜に窯を開いたので、横浜歴史博物館の常設展示でその作品を見ることができます。
私も初めて見たのは横浜で、その精緻さにため息しか出ませんでした。わびさびの日本文化とは一線を画す派手な彩色や技術は、好みの別れるところですが、茶室よりはベルサイユ宮殿なんかに似合いそうな豪華さです。
一枚目の写真のアップ。
もはや実用は度外視。完全に美術品としての細工です。
これだけデコラティブに作るのなら、もう人形を作ってしまえばいいのではないかと言いたくなりますが、後半で実際に展示されていた単体の人形を見るとなぜか物足りなく、壺にくっついているという不自由さが、むしろその独特の魅力を引き立てているように思います。
日本人よりは外国人受けするものだったらしく、(だからこそ横浜に招かれた)その作品はほとんど海外にあったそうですが、香山研究者の第一人者である田邉哲人氏が50年をかけて買戻し、今は田邉コレクションとして日本に存在しています。
陶磁器は焼くと大きさが変わるので、仕上がり寸法の計算が難しく、ここまでの細工には相当な技術が必要なんだとか。
ディテールも正確で、生き生きとした動きが見事です。
ここに掲載したのは、写真OKエリアの作品ですが、代表作と言われるものはさらに精緻で、色も鮮やか。格は数段上です。
高浮彫は後年、細工が複雑になりすぎて、制作に何年もかかるようになり、商売としては全く採算が合わないので、次第に香山は、釉薬の研究に没頭するようになります。
こうした作品ももちろん展示されていましたが、撮影NGなので写真がありません。
形はぐっとシンプルになって、その分、肌の滑らかさと色の美しさが際立ち、とても優美な作品になっていました。個人的には、青色がお気に入り。いつも思うのですが、釉薬を吹き付けることによって生み出される景色はホントに素敵ですね。ランダムであり、かつ規則的でもあり。自然が生み出す美には理屈抜きで、ぐいぐい引き込まれて行きます。
ところで、突然思い立って行ったので、美術館にたどり着いたのが閉館30分前。係員の人に閉館時間を念押しされ覚悟はしていたものの、見始めて10分くらいで、全部をじっくり鑑賞するには少なくとも1時間は必要と悟りました
しかも、途中で写真撮影に時間を取られ、後半はほとんど駆け足。常設展示に至ってはさらっと流しただけでした。でも、後半も常設展示も良いのがいっぱいあって、ちょっと後悔
ご興味ある方は、時間に余裕を持っての鑑賞をお勧めします。