ぶらっとJAPAN

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北斎―富士を越えて―【あべのハルカス美術館】

2017-10-20 22:19:09 | アート

《富嶽三十六景 神奈川沖浪裏》葛飾北斎 大判錦絵 天保1~4年(1830~33)頃 大英博物館蔵

(あべのハルカス美術館より転載)

あべのハルカス美術館で開催中の北斎展に行ってきました

午後4時ごろ到着して予想以上の長蛇の列にびっくり。チケットを購入するだけで20分待ち!? 果たしてまともに見られるのか、と出直すことも考えましたが、整列用に貼られたテープが実際の列より数倍も長かったし(つまり、土日などの最混雑時はもっと長蛇の列になっている)、遅い時間になれば空いてくるだろうとの楽観的予想で、何とかなる! と列の最後尾に。

約20分後入場したものの、人の頭ばかりで全然見えなーい! ああ… 最初は列に並んでみましたが、全然動く気配がないので最初の方の鑑賞は諦めて、遠くからチラ見しつつ、どんどん奥へ。

富嶽三十六景などおなじみの浮世絵も展示されていましたが、今回の目玉は何と言っても肉筆画です。特に還暦以降の30年間の作品を中心に展示されています。(といっても前半に展示されている『富嶽…』は黒山の人だかりでこの時点で落ち着いて鑑賞はまずムリ(T_T))

肉筆画はほとんど初めてですが、花鳥や美人画や龍・虎まで森羅万象を描く多彩さにびっくり。西洋画の技法を真似たものまであります。そして当たり前ですがものすごく上手い。富嶽三十六景は、目にした時のインパクトがやっぱり凄くて、バシッと決まった構図と画面に漂う空気の緩急の巧みさに思わずうなってしまいますが、その素晴らしさを支えるのは確かなデッサン力なのだなと思いました。(しかし、見えない^^;)

展示の後半になると人の波もバラけてきて、だいぶ見やすくなります。お目当ての上町祭屋台天井絵『濤図』と『富士越龍図』(29日までの展示)は、後半の展示なので比較的ゆっくり鑑賞することができ、一安心です。

先日テレビで見た北斎特集で、『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』の波についての解説をしていましたが、水がくだけて爪のようになっているあの形は、肉眼ではとうてい見ることの出来ないものなのだそうです。現代なら超高速カメラで捉えた写真で見ることができますが、北斎はどうやって目にしたのか。結論から言えばおそらく「見ていない」。つまり、自然を観察し続けることによって物の形は丸や三角の組み合わせで出来ていることを「知り」、その法則を突き詰めていった結果、神奈川沖浪裏の波の形にたどり着いたと言うのです。現代人が最新技術を駆使してようやくたどり着いた真実に、北斎は五感と想像力、理論で行き着いた。凄いですね。

龍の爪のようなその形は『濤図』にも使われていて、ここでは波の渦の奥に、間違いなく宇宙があります。北斎は空を見上げて何を考えていたのでしょうか。そもそも宇宙なんて明確な概念のない時代に、北斎の鋭い観察力と探究心は、驚くべき正確さで自然の真理(摂理)を捉えています。膨大な情報を集めることも一つの方法ですが、身近にあるものを観察し、それを元に思索を深め、真実にたどり着くことが可能なんですね。今、自分の手元にあるものを十分に見つめ、使うこと。これは心に留めておこうと思います。 

もう一つ、今回楽しみにしていたのが、北斎の娘・応為の作品です。初めて見ましたが、やわらかさと艶やかさは女性ならでは。色もとても綺麗です。この色っぽさは父・北斎にはないものですね。 

隙間を狙ってふらふら鑑賞しているうちに、混雑も落ち着いてきました。この時点で午後5時をまわってます。改めて頭に戻って一から鑑賞。でも「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の前は空かないですね。うーん。でも、ようやくほぼ全ての作品を満足ゆくまで眺めることができました。

ひととおり見終わって最後にもう一度『濤図』と『富士越龍図』を鑑賞です。

北斎の絶筆と言われている『富士越龍図』は、霊峰・富士の上を、肉眼では顔が判別しづらいほどの高みへと昇り、さらに上をめざす龍が描かれていて、その姿は理想の絵まであと一息という気概の表れのように思えるし、あるいはじきに命が燃え尽きようとする北斎自身の姿にも重なり感慨深い一枚です。浮世絵も好きですが、肉筆画は作者のナマの感情がより繊細に伝わってくるので、とても興味深いです。

そして展覧会の最後を締めくくるのは『雪中虎図』。亡くなる年に描かれた、何ともいえない悠揚とした表情の虎とその軽い足取りに心が明るくなる一枚です。こういう心持ちで晩年を過ごしたいですね。順風満帆でない人生でありながら(もしかしてそれだからこそ)、最晩年まで素晴らしい絵を描き続けた北斎。その生き様はぜひお手本にしたいです。


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2 コメント

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北斎 (dezire )
2017-11-18 22:03:11
こんにちは、
私も「北斎―富士を超えて―」展を見ましたので<
詳しく丁寧なブログを読ませていただき、北斎の傑作を再体験することができました、北斎の芸術には、逆境に育って、周囲に逆らい、自己に鞭打って初めて形成された血みどろの力がありました。強固な自己を確立して到達した比類なき境地に達した高みが感じられました。北斎の作品は、多面的な分野で個性的な表現力を発揮し、従来の絵画にはない表現が多くみられたのには改めて驚きました。

私も北斎の美術展を見て、その画号に沿って北斎の仕事と画風の変化を整理し、北斎の魅力を考察してみました、読んでいただけると嬉しいです。ご感想・ご意見などをブログにコメントいただけると感謝します。


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ありがとうございます。 (bratt)
2017-12-23 20:16:29
desireさん

こんばんは。
レスがとても遅くなってしまってほんとにごめんなさい。
感想ありがとうございます。ブログ拝見しますね。
とりいそぎ。


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