東京タワーより高くスカイツリーより低い
久しぶりに美術館に行ってきました
国際美術館で開催中のブリューゲル「バベルの塔」展です。
16世紀のネーデルラント(オランダ・ベルギー)絵画を中心に、目玉はもちろん『バベルの塔』です。
イタリアがテンペラやフレスコ画の時代にネーデルラントでは油絵が盛んで、その特徴は鮮やかな色彩に細密描写、そしてサイズの小ささ。これは、国王や教会などの富裕層ではなく一般市民がスポンサーだったからだそうです。
おりしもキリストや聖母などの宗教画から風景や風俗画へと発展していった頃。信仰の対象としてのアイコン的絵画から謎解きのような「寓意」、そして市民の哀歓や刺激的なゴシップを描く風俗画へと展開していく様は、そのまま人間の精神の広がりを見るようで興味深かったです。風景を描くというのは俯瞰で眺めるってことですよね。近視眼的な景色から、大きく外へ。人間を外側から眺めることによって想像力が鍛えられ、ファンタジーな世界の表出に繋がっていきます。
初来日の2点のヒエロニムス・ボスはまさに奇想天外。タイトルは『放浪者(行商人)』なのに木の枝のツボに小人が住んでいたり、後ろの方で熊が吊られていたり、もちろんそれぞれ寓意があるわけですが(たとえば熊は悪徳の象徴)、これでもかというほど詰め込まれたディテールは、真面目なのか洒落なのか、人を食った感じが面白いです。
「第2のボス」として売り出されたブリューゲルは版画の展示が主でした。浮世絵のように基本的には原画と彫師は別の人ですが、細かい描写と丸っこい体形の人間や怪物たちは妙に愛嬌があってまさにキモカワ。が、なにしろ緻密に描きこまれているので目が悪い人間にはなかなか厳しい^^; 前から横から、ためつすがめつ覗き込んでみましたが、うーん……
双眼鏡で眺めている人がいましたが、気持ち、わかります(笑)。私もじっくり観たくて帰りにポストカードを買いました。
さて、最後はいよいよバベルの塔です。この絵だけは前にテープを張って道がつくられ、「遠目から思う存分見られます」コースと、「近づけるけど立ち止まらないでね」コースに分けられていました。2-30人は並んでいたでしょうか。ほぼ全員が「立ち止まらないでね」コースです。もちろん私もこちらのコース。並んでいる間も観ることは可能で、遠目からじわじわ近づいていきます。
思ったより小さい絵なのですが、遠くからでも塔の存在感は抜群。牧歌的な風景の中に忽然と現れる要塞といった趣きで、丸い形がコロッセオを想起させるのは、ブリューゲルにイタリア留学経験があるのと無関係ではないようです。米つぶのごとく蠢く人々と、未だ建築中という現場の生々しさ。近づいてみてもその精緻な描写は揺らがず、絵に吸い込まれていきます。
聖書の世界ですが、ひとつの町として塔を作りあげていく活力はとてもリアルで人間くさい。人間って、力を合わせれば凄いことが成し遂げられるんですね。
国際美術館には何度か来ていますが、こんなに一枚の絵に皆さんが熱中しているのは初めてです。スケールとディテール、どちらも兼ね備えた魅力的な絵でした
久しぶりの美術館訪問は戸惑いがありつつも面白かったです。芸術の秋に向け、これから面白そうな展示をあちこちでやるので、また出かけてみたいと思います