徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
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PAXのひとりごと
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NTSBよりメール - A300 Rudder についての緊急勧告

 NTSB: National Transportation Safety Board (米国国家運輸安全委員会)からのメールに目が止まりました。3月24日に発行された Airbus A300 シリーズの Rudder (方向舵)に関する緊急点検に関する内容です。

本邦では A300 を運航しているのはJALだけであり、NTSB から FAA: Federal Aviation Administration (米国連邦航空局)に対する緊急勧告には ... of certain Airbus A-300 series airplanes と書かれているので、JAL保有機が当該勧告対象に相当するかは不明です。

が、勧告が出たことは事実ですから念のため記しておきます。

事の発端は2005年11月27日、FedEx が運航する A300-600 (登録記号: N717FE )の定期整備における rudder (方向舵)[Parts Number (P/N) A55471500 (premodification 8827)]の損傷です。

が、その背景には同2005年3月6日に、Air Transat 961便、A310-300 (登録記号: C-GPAT )が、キューバのリゾート地バラデーロ( Varadero )は Juan G. Gomez 国際空港を離陸、巡航高度の 35000feet に達した後、方向舵が振動を伴い垂直尾翼から空中で分離し、ATBした事故(幸いにも乗員・乗客に負傷者は無し)があります。

 ASN Aircraft accident description Airbus A.310-308ET C-GPAT - Varadero

この事故を受け、2005年3月18日、フランスの民間航空総局 DGAC: Direction Générale de l'Aviation Civile は緊急耐空改善命令 Emergency AD: Airworthiness Directive、 UF-2005-048 を発行、FAA も10日後の28日に AD 2005-07 を発行しました。

そのADでは、特定の方向舵(改修前の8827、あるいは 40904 )を備えた全ての Airbus A300 シリーズの当該方向舵を点検するように指示されていました。

[指示は、Airbus 社が3月17日に発行したテレックスによる緊急指示 AOT: All Operators Telex A300-55A6035 に基づいた内容であった。]

米国では、アメリカン航空と FedEx が該当する A-300 を運航していましたが、両社とも当該ADに沿って緊急点検を行ないました。

※点検は継続性を求めるものではなく、ワンタイムのものであった。

そのADに従って点検を行なったにも関わらず、定期整備中に当該方向舵が破損したことを重く見た NTSB は方向舵の分離部分の更なる調査を行い、Airbus 社が発行した AOT A300-55A6035 には指摘されていなかった新たな問題(油圧フルードの汚染が分離を促進させ、方向舵の強度低下を招く)を発見しました。

本年、2006年3月2日、Airbus 社は該当するエアバスを運航している航空会社に対して A300-55A6042, A310-55A2043, A330-55A3036, A340-55A403 と4種の AOT を送付したのですが、NTSB は Airbus 社が当該 AOT において指示してきた「6ヶ月以内または500飛行サイクル以内に目視点検すること(点検に要する時間は約2時間)」「飛行サイクルに応じた最大許容分離幅(分離幅130ミリ未満であれば2500飛行サイクル以内に恒久的措置を講ずること;130ミリ以上200ミリ未満なら1500飛行サイクル以内、など)」等には大筋同意するものの、「500飛行サイクル、という値が解析やテスト、安全リスクによる裏付けがない」「分離を発見したのに未修理の状態で最大2500飛行サイクルを許容しいている」点に懸念を示したのです。

そして、
2006年3月2日付けの Airbus 社 All Operators Telexes (AOT) A300-55A6042, A310-55A2043, A330-55A3036, A340-55A403 に直ちに従うこと。

点検において方向舵表面に何らかの分離が発見された場合は、AOT で示された2500飛行サイクルを待つことなく、早急に恒久的措置(方向舵交換)を実施すること。

という緊急勧告(A-06-28)をFAAに対して行ないました。

独立の米国国家運輸安全委員会が、事故調査のみならず安全対策について目を光らせている体制。しかも、航空機メーカからの改修指示内容を吟味して、安全性に問題があると疑われる場合には、メーカの指示よりも厳しい基準で耐空改善命令を促す勧告を米国連邦航空局に対して行なう。

強いて例えるなら、事故調査委員会または独立した機関が国土交通省や同省航空局に勧告-それも相当に強い勧告-を行なっていることになります。

このようにして、安全を維持し、事故を未然に防ごうとしている体制、学ぶべきところが多いと思います。

誤訳や意訳ばかりでありましょうから、当該安全勧告の原文(こちら→NTSB Safety Recommendation )を参照してください。
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