徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
*** reminiscences ***
PAXのひとりごと
since 17 JAN 2005


(since 17 AUG 2005)

Mode S Transponder

 本日は、別投稿へのコメントで質問があったので、次世代の二次監視レーダ( SSR: Secondary Surveillance Radar )について、現在運用中のものとどのように違うのか、簡単に説明します。Mode-S の SSelect の S です。

今日の二次監視レーダは、一次レーダ(これだけでは単にターゲットに反射し機影が映るだけ)のビームと一緒に、1030 MHz の変調パルスで質問信号を送信し、航空機に質問信号に応答するトランスポンダーが搭載されていれば、航空機側からは 1090 MHz の変調パルスで当該トランスポンダーから応答信号をが送信され、その情報を解析処理、一次レーダの機影に加えて便名や機種、飛行高度の情報を表示させる仕組みになっています。

なぜ便名、機種を識別できるかというと、IFR: Instrument Flight Rule (計器飛行方式)で飛行する航空機は、飛行計画(フライトプラン)を提出し、その後管制承認、クリアランスを受領して初めて動き出すことができるのですが、そのクリアランスの中に「二次監視レーダ識別コード」が含まれているのです。

通常 Squawk (スコーク)と呼ばれる4桁の8進数がそれです。
広範な空域で一意に当該フライとプランにより飛行している航空機を識別できるものでなければならないので、管制側は提出されたIFRフライトプラン毎にユニークな4桁の数字を割り当てます。
(※番号割り当てに際しては大まかなルールがあります)

パイロットはクリアランスを受領し復唱すると共に、そこで指示された識別コードを機上のトランスポンダーにセットします。それによって航空機側からの応答信号中に「二次監視レーダ識別コード」が含まれますので、そのコードが割り当てられたフライトプランを検索、検索にヒットしたフライトプランの便名、機種をターゲットと一緒に表示しています。

Mode C と呼ばれるトランスポンダーを搭載している機体は、高度計の値も含めて応答信号を発信するので、航空管制のレーダ・スクリーン上には高度情報も同時に表示されます。

(高度情報も含めた)それらの情報を読み取って、管制官の方々は二次元平面に映し出されている映像から、三次元空間のトラフィック・フローを瞬時にイメージして管制指示を出している訳です。

この現在の二次監視レーダは、レーダ覆域(半径はターゲットとなる航空機の高度により異なります;高高度の方がより覆域が広くなる)内全ての航空機に質問信号を発信します。
レーダ覆域の航空機が数機程度であれば、航空機からの応答信号を処理するのも大した処理量にはなりません。

ところが、近年の航空交通量の増加とレーダ覆域の拡大に伴い、各レーダ・サイトが処理する航空機数は増加の一途です。

さらには各レーダ・サイトので収集された情報は ATFMC: Air Traffic Flow Management Center (航空交通流管理センター)に集められますので、そこのコンピュータの限界処理能力を超えるトラフィックには対応できません。

また、主要空港のターミナル管制においても、この二次監視レーダ( SSR: Secondary Surveillance Radar )が使われており、制限も多くスペースも限られているターミナル空域で、処理システムがダウン、などという事態が起こったら大変です。

つまり、このままのペースで航空交通量が増え続ければ、現在の二次監視レーダ・システムでは早晩限界がくることが見えてきているのです。

Traditional SSR


そこで導入が進んでいる次世代の二次監視レーダ・システムが、Mode-S です。

Mode-S のシステムの特徴としては;
 24-bit のアドレスを用いて、地上局側からターゲットとなる航空機を選択した質問信号を送信できる。
 応答信号は当該アドレスを設定して飛行している航空機のトランスポンダーからのみとなるので、航空機の輻輳状態やゴースト電波による誤認識のリスクが激減する。
 データリンク機能を有しており、アドレッシングされた航空機から、25 feet単位の高度情報や TCAS: Traffic alert and Collision Avoidance System (機載の航空機衝突防止装置)の情報など、多くの飛行情報パラメータがダウンリンクされる。
 1030/1090 MHz と従来と同じ周波数を利用しているので、下位互換性を維持している。
 などなど。
といったものです。

Traditional SSR


本邦でも Mode-S の導入が順次進められておりますが、この Mode-S で一番先行しているのはヨーロッパです。

1990年代後半から導入検討が始まり、現在では欧州の最も混雑する空域では Mode-S が主流になりつつあります。

Extent of European Mode S radar coverage at the end of 2005


ヨーロッパでは、現在評価運用している空域において、二次監視レーダ・システムを Mode-S に完全移行することを目標としており、現時点でのターゲットは2007年3月31日までに完了(IFR機)とのことです。

それまでに新造機のトランスポンダーは勿論のこと、現在飛行している機体で Mode-S トランスポンダー非搭載機も、航空機側のトランスポンダーを Mode-S 対応にする所謂レトロフィットを行わねばなりません。

本邦の国土交通省航空局がどのようなスケジュールを目標としているのかは不勉強で解かりませんが、この Mode-S への移行については ICAO: International Civil Aviation Organization (国際民間航空機関)でも Annex 10 (付随書10)の改定案を策定したりと、積極的に進めていることですから、その流れに追従することは間違いありません。

引用記事が半年近くも前でお恥ずかしいのですが、我が国で Mode-S トランスポンダの不具合を発見するきっかけとなる状況が発生していました。
(※このトランスポンダーの不具合は欧州でも報告されていました)

今後の主流になるであろう Mode-S 、今回は概要のみでしたが、もう1回か2回、機会を設けて;
 -ダウンリンクされるパラメータの詳細
 -レーダ画面にはどのように映るのか
 -24-bitのアドレスはどのように割り当てられるのか
などを紹介できればと思っております。

本日はここまで。毎度のことながら、駄文・長文にお付き合いいただきありがとうございました。



航空機高度など表示されず 通信機器に問題 (共同通信) - goo ニュース
 航空路を監視しているレーダーに航空機から情報を送る通信機器「トランスポンダ」のうち、米国ロックウェルコリンズ社製の一部にごくまれに不具合が生じることが分かり、国土交通省は8日までに、内外の航空会社に改修、交換を指示した。

国内では日航、全日空のボーイング777など約200機が搭載。レーダーに便名、高度などが表示されなくなるが、不具合が生じる可能性があるのは新型レーダー(2003年運用開始)だけのため、同省は当面、新型レーダーで監視している地域の一部を従来型に戻して運用する。

2006年 2月 8日 (水) 20:47


レーダーから機影消える不具合点検へ 国内の約100機 (朝日新聞) - goo ニュース
 民間航空機が搭載する管制用応答装置に不具合があり、地上の管制用レーダー画面から機影や便名などが一瞬消えることが、国土交通省の調べで分かった。応答装置の電波の質が悪いことが原因で、同省は8日、問題の装置を搭載している国内航空各社の100機余について、装置の点検や交換を指示した。

 装置を搭載しているのは日本航空で61機、全日空で48機。5月末までに点検や交換を終える。運航スケジュールに影響はないという。

 この装置は、地上のレーダーアンテナからの質問電波を受信すると、便名や飛行高度を自動で応答する。管制画面は応答電波をもとに機影と高度、便名を組み合わせて表示し、管制官はそれを見て各機に指示を出す。

 しかし、中部国際空港近くの空域で今年1月までの約1年間に、機影や便名などが管制画面から消えるケースが28件(全飛行数の0.026%)あった。同省の調べで、米国製の応答装置の中に、電波の質が劣化し、最新式のレーダー電波に対応できなくなるものがあることが分かった。

 装置は1機に2台搭載しているため、不具合が起きても装置を切り替えれば画面に正常に表示されるため、トラブルは起きていない。

2006年 2月 8日 (水) 23:39
Comment ( 5 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
MODE-S (speedbird)
2006-07-28 20:26:41
今晩はPAX様。早速トランスポンダーの件でアップしていただきありがとうございます。毎回ながら、丁寧な説明に脱帽、感謝感謝です。当方、勉強不足でいつもPAX様の書き込みに刺激を受けています。

>電波の質が劣化し

これまた微妙な表現です(笑)。でも、レーダーから機影が消えちゃったらしゃれになりません。機影が消えた当該機には即座に管制官から位置確認の要請があったと思いますが、パイロットの方はびっくりされたのではないでしょうか。そうそう、昔ペルシャ湾でアメリカの戦艦が民間機をミサイルで打ち落とすという悲惨な事故がありましたね。前回も書きましたが、世の中"Expect unexpect"です。なんかの本で"技術の進歩の影には多くの犠牲が伴う"というのを読んだことがあります。今回のようなトランスポンダートラブルが原因で重大事故が発生しないことを祈るばかりです(最後は神頼みかよ、って突っ込まないで下さいPAX様)



 
 
 
Re: Mode-S (PAX)
2006-07-29 00:43:00
「speedbird」さん、こんばんは。

コメントをありがとうございます。



問題があったのは、Rockwell Collins社のMode-S Transponder TPR-901です。当該不具合は2004年3月から2005年12月の間に製造された一部のロットで発生します。Rockwell Collins社はこの不具合に対して、Rockwell Collins TPR-901 Service Bulletin 10を発行して対処しました。

ちょっと詳しくは書けないのですが、航空機側で正しくTransponder Codeを設定しても、それに関わらずとあるコードがDownlinkされてしまうため、ATCのRadar画面でコールサインとDownlinkされた飛行情報の相関関係がとれなくなる、という不具合でした。

(ちなみにFAAはADを出していません)



技術の進歩は日進月歩ですが、まだまだ人智の及ばぬところが多いですね。



(As per your request ....) 神のみぞ知る、でしょうか。
 
 
 
なるほど!! (speedbird)
2006-07-29 16:27:36
こんにちはPAX様。実は今日炎天下の中実家の稲刈りをしていたんですが、ずっと気にかかってたことがありました。それは私が昨日"機影が消えた"と表現してしまったことです。汗をかきかき、"これ、間違えてるよなー"って思ってたとこでした。管制官の画面にはレーダーの機影とトランスポンダーの情報を合成して表示しているはずですので、正確には"航空機の情報が表示されなかった"ではなかったのかな。機影は写っていたはずですよね。

>ATCのRadar画面でコールサインとDownlinkされた飛行情報の相関関係がとれなくなる

まさにこれですね。今回もPAX様に感謝感謝です(爆)

それにしても暑かった。宮崎では"てげぬき~"って言います。ぜひ一度お試しあれ(核爆)

今年は猛暑なんでしょうか、"神のみぞ知る"ですね。

 
 
 
てげぬき~ (PAX)
2006-07-29 19:13:35
「speedbird」さん、こんばんは。

コメントありがとうございます。&農作業ご苦労様でした。

ご自分のコメントでの表現を気にかけるところは流石ですね、見習わねば。

確かに「機影」は一次レーダから得られるターゲットをそのまま映していますからね、“消える”のはチト穏やかではありませんね。

現状のSSRだと、この一次レーダから得られるターゲットが輻輳している状態において、二次レーダからの情報を重ねる際に誤マッピングが起こったりするらしいです。また、実際の機影ではない、ゴーストにマッピングしてしまったり。

Mode-S になるとそのような現象が無くなるので効果大のようです。

にしても、Mode-S も奥が深いですわ。処理すべき情報が処理限界を完全に超えており“てげぬき~”です。

(これは正しい使い方ではないのでしょうね)
 
 
 
質問です。 (ATC)
2017-08-15 23:33:57
スコークについてなんですが。返答パルス信号に含まれるスコークによってあらかじめ提出されたフライトプランのデータベースと一致するものを検索してその情報を管制卓で1次レーダーの画像に上乗せして表示しているということですが、スコーク7700のように緊急時に航空機側で設定した場合、この識別システムに影響は出ないのでしょうか。
 また、フライトプランとの照合は数秒おきにパルス信号を受信するたびに更新しているのですか?
 
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