徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
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PAXのひとりごと
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PW4000 シリーズ・エンジン、硫化腐食問題

 ThinkPad が入院した途端に、予備機材が大活躍です。(皮肉なものですね)

Boeing777 のエンジンの選択肢の一つである米国 Pratt & Whitney 社の PW4000 シリーズ、やはり製造メーカによる不良が見つかりました。

製造ミスで部品不具合 B777のエンジン (共同通信) - goo ニュース
 全日空は15日、9月と10月に相次いだボーイング777のエンジントラブルについて、米国のメーカーで製造された段階のミスから、高圧タービンのブレードが腐食を起こしていたのが原因だったと発表した。日航も同じ部品の不具合が、着陸後や整備中に3件見つかっていたことを明らかにした。

エンジンは米国のプラット・アンド・ホイットニー社製。全日空は国内線と国際線、日航は国内線で運用している。

全日空は、プラット社が製造工程を改めた03年12月以前に製造されたエンジン42基についてブレードを交換する。費用は約52億円。日航も該当するプラット社製エンジンを39基保有し、約43億円かけて部品を交換する。

両社ともに内視鏡を使っての点検回数を国際線で20倍以上、国内線で6倍に増やす。

2005年12月15日 (木) 13:55
エンジン部品、製造ミス トラブル原因 全日空・日航が発表 (産経新聞) - goo ニュース
 全日空は十五日、九月と十月に相次いだボーイング777のエンジントラブルについて、米国のメーカーで製造された段階のミスから、高圧タービンのブレードが腐食を起こしていたのが原因だったと発表した。日航も同じ部品の不具合が、着陸後や整備中に三件見つかっていたことを明らかにした。

 エンジンは米国のプラット・アンド・ホイットニー社製。全日空は国内線と国際線、日航は国内線で運用している。

 全日空は、プラット社が製造工程を改めた二〇〇三年十二月以前に製造されたエンジン四十二基についてブレードを交換する。費用は約五十二億円。日航も該当するプラット社製エンジンを三十九基保有。約四十三億円かけて部品を交換する。

 両社ともに内視鏡を使っての点検回数を国際線で二十倍以上、国内線で六倍に増やす。

 全日空によると、トラブルを起こしたエンジンを調べたところ、高圧タービン二段目の内部に製造段階でメッキ液が残ったため、高温の影響を受けてブレードが腐食し、運航中に破損していたことが分かった。プラット社も製造ミスを認めた。

2005年12月15日 (木) 15:39


今年になって、PW4000 シリーズにトラブルが多いことは当ブログでも幾つかの記事で紹介してきました。
また PW4000 シリーズでオイル漏れ (11月3日)
ちょっと気になる Pratt & Whitney PW4000 シリーズ (10月31日)
Boeing777のエンジンについて (6月26日)
JAL1935/21JUN HNDOKA KIX Divert 続報 (6月25日)

このように、異常とも言える頻度でトラブルが発生していた PW4000 シリーズですが、今回、硫化腐食により高圧タービン・ブレードが折損する可能性があることが明らかになりました。
この製造不良を見つけだすきっかけになったのは、全日空、日本航空で運航している Boeing777 の PW4000 シリーズ・エンジンで、6月~11月のわずか5ヶ月の間に IFSD: In Flight Shut Down (エンジン空中停止)4件を含む、シビアなエンジントラブルが6件も発生したこと。さらに、その半数の3件の事例でタービンブレードの硫化腐食が発見されたこと。さらには、日本航空では硫化腐食からのブレード欠損に起因するエンジントラブルが昨年2件発生していたこと。など等であったと言えるでしょう。
実は、この硫化腐食が発生する可能性があること自体はメーカーである Pratt & Whitney 社により既に確認されていたらしいので、メーカーのお客様(航空会社)に対する対応が適切であったのか、非常に疑問です。

ここで硫化腐食について簡単に説明します。

タービンブレード(殊に高圧タービンブレードは高温・高圧にさらされる)は極めて重要なパーツであるため、その素材には拡散チタニウムやニッケル合金など、強靭で耐久性に優れた特殊素材が用いられています。
そのタービンブレードを形成する工程では特殊な溶液を使用するのですが、本来残留してはいけないその溶液がブレード内部に残留し、そのなかに含まれる硫黄分が高温にさらされることでブレードの他の材料と反応して発生するのが硫化腐食です。
ブレードには冷却用に空気の通り道があるのですが、そこに硫化腐食が発生すると、ブレードが過度に加熱され、強度が低下、破断にいたることになります。

この硫化腐食は、2003年12月以前に製造された PW4000 シリーズに発生する可能性があることが確認されています。



JA772J
それ以降に製造された PW4000 シリーズは、この硫化腐食の問題は解決されているので、それ以降に納入された機体(例えば、日本航空の登録番号 JA772J の Boeing777-246 )や、整備でリ・エンジンした一部の機体は PW4000 シリーズでも問題がありません。

Boeing777 は開発時からエンジン選択制であり、日本の3社(全日空・日本航空・日本エアシステム)は、部品の流用性なども考え、すべて Pratt & Whitney を選択しました(他の選択肢は、General Electric 社 GE90 シリーズと Rolls-Royce 社 Trent800 シリーズ)。

その後、日本航空は国際線用の Boeing777-246ER (機体登録番号が JA701J ~)に General Electric 社のエンジンを選択、日本航空・全日空も導入した国際線用機材 Boeing777-300ER は、Boeing 社がエンジンを General Electric 社との組み合わせのみとしてデリバーしています(よって、最近全日空が導入した Boeing777-381ER JA733A のエンジンは General Electric )。

全日空は Boeing777-281ER による国際線進出が早かった分、国際線に用いている機材にも Pratt & Whitney 社のエンジンを用いており、しかも、それで ETOPS180 (一部は ETOPS207 )の洋上進出を行なっていますので、一刻の猶予もならぬ、といった決断をしたのでしょう。

全日空では、Boeing777 の IFSD を9月28日( NH243/28SEP HNDFUK Boeing777-381 エンジンは PW4090 )と10月29日( NH628/29OCT KOJHND Boeing777-281 エンジンは PW4077 )と、ここ最近で2回も遭遇しており、トラブルを起こしたエンジンは、それぞれ HPT: High Pressure Turbine (高圧タービン)2段目のブレード28枚に損傷が見つかる、HPT 2段目のブレード2枚が根元から折れているのが見つかる、との状態が確認され、何れも「硫化腐食が原因」と判明しています。

事態を重視した経営判断は立派です。

タービン・ブレードの交換は、整備キャパシティの問題や部品調達などの関係で全日空・日本航空の48機を一斉に行なうことは出来ません。

該当するエンジンを取り降ろし、ブレードの交換を積極的に進めることは言うまでもありませんが、それまでは、BSI: Bore-Scope Inspection (内視鏡検査)のサイクルを短縮し、早期発見に努めることになります。

目安として、600サイクル毎に実施していた BSI を200サイクル毎と短縮するようです。出力の大きい PW4090 エンジン( Boeing777-300 および全日空の国際線用 Boeing777-281ER に組み合わされている)は、さらに頻繁に100サイクル毎に実施することにするようです。

修理が完了するまで、IFSD の可能性は通常より若干高くなるのは致し方ないことでしょう。
が、2発とも同時にアウトになる確率は天文学的ですし、1発アウトになった段階で、Land at Nearest Suitable Airport が原則です。Boeing777 は1発でも十分安全に飛行できますし、Cockpit Crew は Single Engine による着陸については、これでもか、という位に厳しい訓練を受けています。現に、IFSD に至ったトラブルでも、管制の優先権を得るために Declare Emergency していますが、いずれのケースも何事も無かったかのように地上に舞い降りています。

今回、全日空・日本航空共に適切な処置をとることになりましたから、いたずらに PW4000 シリーズの Boeing777 が危ない、と不安になることはありません。

できることなら、6月に発生した「 JAL1935/21JUN HNDOKA KIX Divert 」の後、すみやかにこのような処置をとってもらいたかったところです。

しっかりしましょう、Pratt & Whitney と Boeing。



ちなみに、海外のキャリアで PW4000 シリーズを選択した Boeing777 を運航しているのは、
 ユナイテッド航空、大韓航空、アシアナ航空、エジプト航空など
です。
ただ、海外のキャリアの場合、Boeing777 を日本ほど頻繁な運航サイクルでは使っていないので、事情が全く同じとは言えませんし、既にメーカーからの連絡で対応している可能性もありますので、参考程度にとどめて下さい。

他のキャリアの Boeing777 のエンジンですが、
エールフランスは GE、アメリカンは Trent、キャセイも Trent、シンガポールも Trent、コンチネンタルは GE、デルタは Trent、タイ・インターも Trent、ブリティッシュ・エアは Trent と GE の両刀、
などです。
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