徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
*** reminiscences ***
PAXのひとりごと
since 17 JAN 2005


(since 17 AUG 2005)

Reduced Thrust Takeoff

 サボりにサボった今年もあと僅かとなりました。質・量共に低下した本年最後の投稿は、それにちなんだお題目で....。離陸時のエンジン推力のお話です。

年末・年始、帰省やご旅行で飛行機をご利用になる方も多いことでしょう。

総重量が数百トンもある物体が、停止状態から1分としないで大空に舞い上がるのですから、離陸時のエンジンは最大定格出力近くで頑張っている訳です。人が全力疾走するときと同様、心臓(エンジン)には負担がかかりますし、そうそう長時間にわたって全力疾走を続けることはできません。北京五輪の陸上男子100m、世界新で優勝したボルト選手とて、あのペースの走りを5分間続けろ、と言っても、それは無理でしょう。それ同様、ジェット機のエンジンも離陸のために使用できる最大定格出力 -離陸定格( Takeoff Rating )と言います- を連続して使える時間は制限が設けられています。

さて、 近く と言った背景ですが、離陸時 = 常に定格離陸推力( Rated Takeoff Thrust ) とは限らないからです。

FMC: Flight Management Computer を装備した最近の飛行機では、きめ細かく適切な推力計算が行われるのが当たり前になりました。

機種やエンジン、オペレータによっても差異はありますが、離陸時の推力は、
 -離陸時の機体重量
 -離陸滑走路(滑走路長,標高,勾配)
 -離陸時の気象条件(風向風速,気温,露点温度,滑走路状態,気圧高度)
 -離陸時の機体パラメータ(フラップの角度,重心位置を勘案したスタビライザ・トリム)
などにより、計算されます。

各値を入力すると、FMC が、離陸推力の EPR: Engine Pressure Ratio (コンプレッサ入口・出口の圧力比)あるいは N1 (低圧コンプレッサの回転速度;設計回転数を 100% とした相対%で表される)を計算してくれ、その値は、離陸時には、オート・スロットル~ EEC: Electronic Engine Controller を介してエンジン制御されます。勿論、FMC は EPR, N1 だけでなく、離陸時に重要となる V Speeds ( V1, VR, V2 ) も計算してくれます。

※無駄話1: EPR, N1 共に、ジェット・エンジンの推力を調整する主たるパラメータです。最近の主流は N1 になりつつあります。Boeing 777 ですと、Pratt & Whitney 社,Rolls-Royce 社のエンジンは EPR によるコントロール、General Electric 社のエンジンは N1 によるコントロールです。

※無駄話2:滑走路に Line Up して、離陸許可をもらうと、いきなりオート・スロットルを入れるのではなく、先ずはパイロットがスラスト・レバーを進めてエンジン推力を増加させ(例えば 80% N1 とかを指標に進める)、全てのエンジンが順調に吹きあがってきて推力にアンバランスがないことが確認できた時点で、“ Stable!! ”なんて言って TO/GA スイッチをカチっと押し、オート・スロットルを engage します。客席でエンジン音を聞いていると、ヒューンと音が高まり始めた頃は、パイロットがスラスト・レバーを進めて TO/GA スイッチをこれから押そうとしている頃で、一呼吸おいて、ブウォーっという音と共に背もたれに体が押し付けらはじめたら、もうその頃はオート・スロットルによりエンジンが制御されています。が、PF の右手(左手)は万一の reject に備えて V1 まではスロットルにそえられています。

本題はここからでして -相変わらず前置きが長くて本題がお粗末- 、ここ数年、Reduced Thrust Takeoff ( Takeoff Thrust Derate ) 方式が本格的に用いられるようになってきました。

この離陸方法、文字通り、離陸時のエンジン推力を削減する方式でありまして、ボルト選手が予選を勝ち上がるときのように“流す”と言ったら語弊がありますが、全力疾走せずして(心臓バクバクではなく)舞い上がるのです。つまり、定格離陸推力の 100% ではなく、幾許か少なめの推力を使います。

これには、大きなメリットがありまして、エンジン出力を抑えることで、エンジンへの負荷が減り(具体的には EGT: Exhaust Gas Temperature 排ガス温度 が低く抑えられる)、エンジンの寿命,整備サイクルを伸ばすことが出来るのです。

ここで、誤解してはならない大事なポイントがあります。

 - Reduced Thrust Takeoff をしたからと言って、離陸時のエンジン故障で離陸継続を決断した場合、離陸後、推力不足で規定の上昇率を得られなくなることは 無い

 - Reduced Thrust Takeoff をしたからと言って、離陸中断を決心した場合に、滑走路内で停止するマージンを減らすものでは 無い

つまり、安全運航には支障をきたさないことが大前提としてある、ということです。そのため、制動距離に影響が出るような滑走路状態(スラッシュ、積雪、凍結がある場合)や、離陸後 windshear に遭遇する危険性が高い気象条件では、この方式そのものを用いることが出来ません。

先ず、安全ありきです。その上で、少しでも地球に優しく、エコな離陸(&上昇)方法が Reduced Thrust Takeoff であると言えましょう。


Reduced Thrust Takeoff は以下の2つに大別されます。

 ● Fixed Derate ( Derate / Variable Takeoff Rating )

 この方式は、スラストの低減割合を運航者(=エアライン)が設定します。

 通常の定格離陸推力 TO ( takeoff / max rated takeoff thrust ) の下に、TO 推力の何割かを減らした設定を幾つか設定できます。Boeing777 では、2つの定格( rating )を設定でき、それぞれを TO 1 ( takeoff one / derate one takeoff thrust ), TO 2 ( Takeoff two / derate two takeoff thrust ) と名付けてられています。どれくらい減らすかは、上述したとおり運航者により決められ、FCM にはアップリンクまたはエアライン・ポリシー・ページでしか設定することができません(つまり、パイロットが勝手に低減率を変えられない)。例えば、TO 1 は TO の -10% 、 TO 2 は TO の -20% といった固定の割合で推力を低減します。

 ● Assumed Temperature Thrust Reduction

 実際の気温よりも高めの仮の温度( Assumed Temperature )を使って離陸推力を計算する方法です。

 この方式を定格離陸推力、さらには Fixed Derate と組み合わせることで、それぞれの定格推力をさらに最大で 25 % まで減らすことができます。

 Boeing777 では、TO, TO 1, TO 2 のそれぞれに対して、Assumed Temperature Thrust Reduction を組み合わた設定があり、それぞれを D-TO ( assumed temperature takeoff (thrust) ), D-TO 1 ( derate one assumed temperature takeoff (thrust) ), D-TO 2 ( derate two assumed temperature takeoff (thrust) ) と名付けられています。

 Assumed Temperature を使えるかどうかの要素として、離陸重量が関係してきてます。

 例えば、羽田空港の Rwy 34R C1 から Full Length での滑走路長は変えようの無い値でして、必要離陸滑走路長がその範囲におさまってなければ、離陸することは許されません。一方、必要離陸滑走路長は、風向風速(滑走路方位の向かい風・追い風成分),外気温,気圧高度,滑走路面状況,使用フラップ角,そして離陸重量に依存して、機種ごと、便ごとにより異なります。

 (残念ながら)お客様が閑散としており、床下カーゴもスッカスカ、目的地のお天気も良好で予備燃料も必要最小限の短距離国内線ですと、必要離陸滑走路長は実際の滑走路長に比べて短くて済みます。展望デッキから見ていると、颯爽と加速し、滑走路の半分も滑走していないのに Airborne 。そんな状況下では Assumed Temperature を使う検討の余地が出てきます。

 (嬉しいことに)お客様が満席、床下カーゴもパンパン、目的地のお天気も芳しくなく予備燃料も相応に積んだ長距離国際線で、必要離陸滑走路長が実際の滑走路長に対して余裕がない場合、あるいは、前述しましたが、滑走路に制動に影響を与えるようなコンタミネーションがある状況下では、Assumed Temperature を考えることはできません。

 Assumed Temperature Thrust Reduction の詳細については、ここでは割愛させていただきますが(長くなるし、そもそも説明できる程の知識・知力・文章力が無い)、ざっくり次のようなイメージです。

 ある滑走路長で離陸できる最大重量は、風、気圧高度、滑走路状態を同じとした場合、気温が高くなるにつれ少なくなります。これは、気温が高くなると、空気密度が薄くなり、エンジンの出力が低温時に比べ減少するからです。

 一方で、ジェット・エンジンの特性、殊に最大出力特性も温度依存性があります。そもそも、ジェット・エンジンの最大定格は、内部圧力 or 燃焼に伴うタービンの温度( EGT と考えても遠からず) or 回転速度( N1 と考えても遠からず) の何れかが限界に達した段階で決まります。標高が高くなく、温度も低い場所では、空気密度が濃いので、内部圧力制限により最大定格が決まります。周囲温度が高くなり、空気密度も薄くなってくると、所望の圧力を得るために、エンジンをぶん回さなければならなくなってくるので、回転速度や速く回すために吹かすことでタービンの温度が限界に達し、最大定格が決まってきてしまいます。大雑把に、図1のように、低温~ある温度までは定格推力が一定( Flat Rated )だけれど、ある温度を超えると、温度上昇と共に定格推力は減少します。(補正前 N1 の、温度 vs 定格推力特性は“へ”の字型になりますが、難しい補正をすると、Flat Rated とみなせるようになるようです)

 この二つの温度特性を上手く利用し、仮の温度 ( Assumed Temperature )で離陸推力計算を行うと、実際の外気温で算出した定格推力よりも低い推力になり、その差分がお得、となる訳ですね。

図2は、もともと絵心が無いところに加え、年の瀬でアップアップの状態にて描いてみた Assumed Temperature の概念図です。



数字は架空ですが、こんな感じでイメージしてみて下さい。

外気温15℃のとある空港から離陸するとします。15℃での、装備したエンジンの離陸定格 EPR は 1.96、最大離陸重量は 162,000 lbs (ポンド)と求められたとしましょう。ところが、この便の離陸重量は 114,000 lbs しかない。その重量は、空港の外気温が50℃のときの最大離陸重量に相当し、その必要離陸滑走路長はその空港の滑走路長未満である。であるならば、外気温50℃と仮定して推力を求めても安全上の問題はありません。外気温を50℃の場合の離陸定格 EPR が 1.82 であれば、1.82 / 1.96 = 0.93 と 実際の外気温で計算した定格推力よりも7%少ない推力で離陸できる訳です。


Reduced Thrust Takeoff 方式を用いるかどうかの最終判断は PIC にあります。

安全性は言うまでもありませんが、Reduced Thrust 方式に固執して Full Length を管制に要求、混雑時の Ground Traffic flow を乱してしまうのも考えものです。置かれた状況に即した適切な判断が重要であると言えましょう。

離陸ひとつとっても、ひと頃に比べると、技術の進歩を活かしたオペレーションがなされるようになってきています。

展望デッキから眺めていると、何気なくみえる離陸のひとつひとつの裏にも、オペレータやパイロットの数多くの工夫が込められているのです。

さて、来年 も Reduced ~ よろしく 質・量共に低下し続けるブログになりそうな....。
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コスト・インデックス

 このご時勢、何処も彼処も “経費削減” “コスト・カット”。『ケチじゃなくてエコ』の観点からは、望ましい部分も多々あるのですが、雇用問題にまで至るとこと穏やかではありません。

エアラインの運航現場にも、経営側から“コスト削減”要求が来ても至極当然なのでしょうが、それは、【安全運航】が確保された上でのことは言うまでもありません。

それにしても、今年の原油価格急騰~年末にかけての下落は凄い振れ幅でありました。

原油高騰はエアラインのコストに大打撃を与え、利用者も、所謂「 燃油サーチャージ 」として身近に感じずにはおれませんでした。

さて、今日のメジャーな航空機は FMC: Flight Management Computer を装備しており、巡航高度や速度、推力など、多くの値はコンピュータにより計算され、オートパイロットやオートスロットルを介して最適に設定されるようになりました。

FMC は各種のパラメータから最適値を計算しているのですが、そのパラメータのひとつに“コスト・インデックス CI: Cost Index ”があります。

今回は、Boeing 社の資料を参考にして、CI とは何ぞや、CI で何が変わるの、といったことを簡単にご紹介します。

☆コスト・インデックスとは:

 CI = 時間コスト( Time Cost ) / 燃料コスト( Fuel Cost )

で定義されます。

〔時間コスト〕
 『時は金なり』の言葉通り、飛行機を飛ばすにあたっては、燃料費の他にも時間あたり相応のコストがかかっています。
 パッと思いつくのは、乗務するクルーの人件費でしょう。
 他にも、エンジンのメンテナンスをはじめとする航空機の整備費用も、飛行時間や飛行サイクル毎に必ずかかってきますから、それらも時間コストに含まれます。
 さらには、飛行機本体価格(って自動車じゃないんだから....)も、リース費用や減価償却から換算して、時間コストの部類に考えられます。
 これらは総じて固定費と言えるでしょうか。

〔燃料コスト〕
 そのまんま、燃料のコストのことです。
 1ポンド lb. あたりいくら、のお値段、これが CI の分母になります。


☆コスト・インデックスって誰が決めるの:

 コスト・インデックスを変えると、FMC により算出される値が変わってきます(詳しくは後述します)。
 また、どのような傾向のコスト・インデックスを用いるべきかは、時間コストを優先するのか、燃料コストを優先するのかによって異なります。
 更には、その便の路線特性(短距離路線とか長距離路線、平均搭乗率、カーゴ積載量など)によって、ルート毎、細かく言えば便毎に最適なコスト・インデックスは異なります。
 結果として、コスト・インデックスの値は、それぞれのエアラインが種々の要素を考慮して、そのエアラインのコスト・モデルに則って決められます。


☆コスト・インデックスが変わると:

〔コスト・インデックスが0〕
 CDU: Control Display Unit から FMC に 『 cost index は0ですよ 』 と指定すると、FMC は「時間コスト」を無視し、「燃料コスト」を最小にすべく各種計算値を算出します。分子側の「時間コスト」はタダだ、との解釈で、「燃料コスト」を最大限に活かすイメージと言えるでしょうか。
 CI 0 での運航は、「燃料コスト」を最大活用するため、燃料消費を最小に押さえた値をはじき出し、搭載された燃料で出来る限り遠くまで飛ぶことを考えます。各フライトでは、出発地,到着地が決まっているので、出発から到着までの燃料消費が一番少ない飛行プロファイルがはじき出されます。「燃料コスト」を優先するため、巡航速度が遅くなり、所要時間が延びようと、「時間コスト」は無視ですから、関係ありません。

〔コスト・インデックスが最大〕
 その機種での最大のコスト・インデックスを FMC に指定すると、CI 0 とは逆に、「燃料コスト」が度外視され、「時間コスト」優先の計算がなされます。分母の「燃料コスト」をタダ同然(≒0)とすると、CI 値は大きくなりますよね。「燃料コスト」度外視とは、そんなイメージです。
 CI MAX での運航は、とにかくぶっ飛ばして、巡航高度にしても高高度まで上らずに、ひたすら目的地に早く着ける飛行プロファイルとなります。(Minimum Time Speed Schedule // Maximum Flight Envelope Speeds)
 どんなに燃料消費しようとも、目的地に早く着ことを優先させる。ターン・アラウンド・タイムが同じであっても、フライト時間短縮により、日に1レグでも多くこなし、機体稼働率を上げる、って感じでしょうか。

 具体的には、FMC が算出する
  - ECON Climb speed (経済的な上昇速度)
  - ECON Cruise speed (経済的な巡航速度)
  - OPT Altitude ([重量と勘案し]最適な巡航高度)
  - ECON Descent speed (経済的な降下速度)
の値が、コスト・インデックスの設定により変わってきます。

※ご参考: コスト・インデックスの最大値は機種によって異なります。

表1:機種ごとのコスト・インデックス最大値
Airplane
Model
737-300
737-400
737-500
737-600
737-700
737-800
737-800
737-900
747-400757767777
Max
Cost Index
2005009999999 or
9999
999 or
9999
9999



☆具体的にどれだけ変わるか:

〔 Boeing 757 での一例 〕
 指定したコスト・インデックスに対して、FMC が算出する値は、他の要因にも左右されるので、常に同一の値にはなりませんが、コスト・インデックスを変えると、どのくらい FMC の算出値が変わるのか、一例として、Boeing 社から提供されている値を紹介します。絶対値よりも、相対的にこれだけ変わるのか、とざっくりとしたイメージを掴む参考にして下さい。

表2:CALCULATED VALUES FOR A TYPICAL 757 FLIGHT
 CLIMBCRUISEDESCENTALTITUDE
RECOMMENDATIONS
Cost Index 0290/.778.778250OPT 328, MAX 362,
RECMD 310
Cost Index 9999345/.847.847.819/334OPT 268, MAX 268,
RECMD 260
Cost Index 70312/.794.794.80/313OPT 327, MAX 363,
RECMD 310


〔上昇パターンの違い〕
 
コスト・インデックスの違いで、(初期)巡航高度までの FMC による ECON CLIMB パターンがどのように変わるかを模式的に書いたのが図1です。

 コスト・インデックスが0の場合、大きい上昇角度で巡航高度を目指します。ここで誤解してはいけないのは、すばやく巡航高度に達するのではない、ということです。出発地点Aから遠く離れずして巡航高度に達する、すなわち巡航高度で飛行する区間を出来るだけ稼ぐことを意味しており、表1からも明らかなように、上昇時の Air Speed は速くありません。図中の「最小燃料」も、フライト全体に占める上昇フェーズで使われる燃料が最小となる、という意味です。

 一方、コスト・インデックスを大きく設定し、「燃料コスト」を無視するほど、とにかくぶっ飛ばすのが先決になってきますから、エネルギーの多くを Air Speed に側に使うので、位置エネルギー獲得、上昇は二の次になり、なかなか高度をとらない上昇パターンとなります。

〔降下パターンの違い〕
 
 (最終)巡航高度からの降下パターンの違いを図2に模式化してみました。

コスト・インデックス0の場合、TOD: Top Of Descent 降下開始地点は目的地Bから離れた場所と計算され、そこからゆっくりゆっくり浅い降下角で降りてきます。さしずめ、そこまでに得られた位置エネルギーを最大有効活用して滑空してくるイメージですね。
 一方、コスト・インデックスが最大の場合は、TOD は目的地の近くに設定され、そこから許される最大の速度で降りてきます。

 上昇の場合もそうですが、実際には SID, STAR で 高度や速度に制限が付きますし、加えて管制からもそのときの航空交通流に応じた指示が来ますので、図に示したような単純なプロファイルにはなりません。


☆実際に用いられる値は:

 CI 0 や CI 9999 という極限値が日常の運航で選択されることはまずありません。それぞれのエアラインが、そのフライトの路線特性などをもとに、コスト・インデックスの値を選定します。
 その値こそ、各社のノウハウというか、運行管理部門の腕の見せ所なのでしょう。よって、各社がどのようなコスト・インデックスを設定しているのか、具体的な値はわかりませんが、表2にある Cost Index 70 というオーダーは、「まっ、そんなもんか」ってところみたいです。

 ここまでの稚拙な説明で、おおよそはお解りいただけたかと思いますが、燃料が高い状況下では、エアラインは低めのコスト・インデックスを設定し、燃料コストの削減を図ります。一方で、エアラインには「定時性確保」という命題もありますので、それを満たすために燃料コストとのバランスをとりながら、コスト・インデックスを許せる範囲まで大きくすることになります。

 いずれにせよ、先に述べたように、コスト・インデックスはエアラインが自社の経営的要素を勘案して決める数字ですから、飛行中、パイロットが勝手に変えることは原則として許されていません。

(機種やオペレータにより差異はありますが、コスト・インデックスは、
 -飛行前にパイロットが決められた値を CDU から入力するか
 -飛行前に CDU からカンパニー・ルートを選ぶと、そのルートで決められた値が設定されるか
 -地上から uplink で設定されるか
の何れかでセットされます)。

 が、運航の最前線にいるパイロットの方々は、飛行機が置かれているリアルタイムの状況(例えば、プランより追い風が強いとか、管制がショートカットしてくれたお陰で、プランより数分早く経過しているとか)を把握していますし、また、エコの観点からも、燃料消費が少なく地球環境に優しいフライトを、とも考えています(勿論、安全性,快適性を確保した上で、です)。
 パイロットからすると、「コスト・インデックスの設定を変えれば、こんなに効率的になるのになぁ」と思うことも少なくないようです。

 そのような背景もあってか、「定時性が確保できればコスト・インデックスを変えてよし」とするエアラインも出てきているとのことです。

※フライトのあらゆる局面で変えられる訳ではありません。


これは何もコスト・インデックスに限った話ではないのですが、己の効率のみを考えて、ゆっくり降りることで、後ろが詰まって他のトラフィックに迷惑をかけていたのでは、社会トータルではエコとなりません。航空交通流管制も含めた最適解へ向けて、さらなる取り組みが必要でしょう。

【蛇足】
 タイトル画像はイメージであり、“コスト・インデックス”とは何ら関連性はありません。
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冬至の夜は

 そうか....きょうは冬至だった。

夕方、買物に出掛けたときには、強い風。しかも生温い。

今宵は「柚子湯で暖まる」って感じではございませんですね。

# 明日の夜“岩盤浴”にでも行くか !!??

RJTT 211200Z 20020G32KT 9999 FEW030 18/10 Q1012 RMK 1CU030 A2990

世の中、進歩したものです。寝床でゴロリとなって音楽を聴きながら、METAR が見れるようになったのですから。



成田もKIXも生温いけど、風はマズマズか....。千歳は流石に氷点下だけれど、これでも暖かいのかな....。

さて、Movie 観て寝ようかな。
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LOSS OF ENGINE POWER ON DELTA AIR LINES B777

 最近では E-mail アクセスも疎かになる体たらくぶりで、チェックすると数百通(除くスパム)も溜まってて、で、それぞれの新着メッセージへの注意力も自ずと散漫になる、という悪循環に陥っております。

閑話休題、19日深夜に NTSB: National Transportation Safety Board から届いていた NTSB ADVISORY は目に留まったので、引用紹介します。

「こんなことがあったんだ」と吃驚でありますが、現地時刻で 11 月 26 日の正午過ぎ、米モンタナ州 Great Falls 近くの上空 FL390 を飛行中の上海発アトランタ行デルタ航空18便が、No. 2 Engine スラスト・ロス(※原文では an uncommanded rollback と表現されています)していたのですね。

機材は Boeing777-200ER (N862DA) で、当該機のエンジンは Rolls-Royce Trent 895 でした。

BA038/17JAN PEKLHR (Boeing777-236ER G-YMMM) と同型のエンジンです。

G-YMMM については、小生が休眠中の本年9月に、英国 AAIB: Air Accidents Investigation Branch よりInterim Report が出ておりますので、その内容については皆様ご存知のことと思います。

DAL0018/26NOV PVGATL では、No.2 Engine uncommanded rollback 後、Cockpit Crew が、マニュアルに則って FL310 まで降下し( 1 engine out で推力が減るので、巡航高度を低くしなければならない)、その後、No.2 Engine はコントロールを回復、目的地のアトランタまで正常に作動しました。

NTSB も G-YMMM と同じ型式の Trent 895 で uncommanded rollback が再発した、それも今回は米国のキャリア、とのことで、N862DA のインシデントと G-YMMM との関連性を調査したい、ということでしょう。今回のインシデントが G-YMMM との共通点があるのかどうか、AAIB も担当者をアサインし NTSB と蜜に連携した動きをするようです。

BA038/17JAN は PEK から、DAL0018/26NOV は PVG から....、Fuel Quality, contamination のことが脳裏に浮かぶのは素人考えでしょうかね。

以下の引用文において、個人名の部分は伏字にさせていただいております。

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NTSB ADVISORY
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December 18, 2008

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NTSB INVESTIGATING LOSS OF ENGINE POWER ON DELTA AIR LINES
BOEING 777

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The National Transportation Safety Board is investigating an incident in which a Delta Air Lines Boeing 777 experienced an uncommanded engine rollback in the cruise phase of an intercontinental flight.

On November 26, 2008, at about 12:30 pm MST, in the vicinity of Great Falls, Montana, a 777-200ER (N862DA), operated by Delta Air Lines as Flight 18, en route from Shanghai to Atlanta, experienced an uncommanded rollback of the right (number 2) Rolls-Royce Trent 895 engine while at 39,000 feet in the cruise phase of flight. The crew executed applicable
flight manual procedures and descended to 31,000 feet. The engine recovered and responded normally thereafter. The flight continued to Atlanta where it landed without further incident. None of the crew of 15 or 232 passengers was injured.

Flight data recorders and other applicable data and components were retrieved from the airplane for testing and evaluation. Both of the pilots have been interviewed.

This event is preceded by another airline's 777 equipped with Rolls-Royce Trent 895 engines, which experienced an uncommanded dual engine rollback while on final approach to London's Heathrow International Airport on January 17, 2008, crashing short of the runway on airport property. The
United Kingdom's Air Accidents Investigation Branch (AAIB) is investigating that accident.

NTSB Senior Air Safety Investigator XXX XXX, who is serving as the U.S. Accredited Representative in the Heathrow accident investigation, is the Investigator in Charge of the Delta incident.

The AAIB, which has assigned an Accredited Representative to the Delta incident, is working closely with the NTSB to determine if there are issues common to both events.

Parties to the investigation are: the Federal Aviation Administration, Boeing Commercial Airplanes, Eaton-Argotech, Delta Air Lines, and the Air Line Pilots Association.

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UPSET

 あまり感じの良い言葉ではありませんが、今の世の中そのものが、このような状態なのかもしれませんね。

今日の航空機とそのオペレーションにおいて、航空機がこのような状態に陥ることは確率的に極めて低いものですが、ゼロではありません。

しかも、ひとたび航空機が upset condition に陥ると、それは非常に危険であり、不適切な表現ですが、制御不能な状況につながりやすいとも言えます。

2007 年 1 月 1 日、インドネシアのスラウェシ島沖にアダム・エア576便( Boeing 737-4Q8 )が墜落する痛ましい事故が起こりましたが、インドネシア当局が公表した事故調査報告書によると、当該機は IRS: Inertial Reference System にトラブルが発生、その対応に PIC と Copilot の両名が気を取られてしまい、二人とも計器のモニタリングをしていなかったと考えられています。そのため、当該機が右ロール・ピッチ下げ状態へ入っていったことに気付くことなく[状態変化は Autopilot が disengage されたことによるものでしたが、トラブルシューティングに気を取られていたパイロットはそれに気付きませんでした]、機は upset conditon に陥りました。
バンク角が 35 度を超えた時点で、GPWS: Ground-Proximity Warning System が“ BANK ANGLE ”(バンク角注意!)の音声警告を発しましたが、この時、パイロットに空間識失調に陥っており[事故当時は悪天であった]、upset condition からの適切な回復操作を行えませんでした。

当該機は右へのバンク角が 100 度、ピッチは機首下げ 60 度という、とんでもない姿勢に陥ったのですが、パイロットが行った操作は昇降舵に過負荷を与え

[ 当該機が置かれた状況からの回復操作としては、

 1)AOA: Angle Of Attack 対応、スラストを絞り、ロールへの対応
 2)機首上げ,スタビライザ・トリム,スラスト操作でレベル・フライトへの対応
の順番で対応すべきところを、当該機はロール状態への対応をする前に、機首上げを操作をしてしまったらしいです]、

機は Aerodynamic Load が 3.5G、Airspeed は Mach 0.926 ( 495 kt ) という、構造限界(当該機種の場合 FAA: Federal Aviation Administration の耐空基準では、2.5G / 400 kt )を大幅に上回る状況にさらされ、高度 12000 feet 付近で構造破壊が起こってしまいました。
DFDR: Digital Flight Data Recorder には、当該機が巡航高度の 35000 feet から 75 秒で 9920 feet まで急降下した記録が残されていました。
※構造破壊発生後も、DFDR には高度約 9000 feet 付近までの記録が残されていた。

仮に upset に陥ったとしても、パイロットの適切な回復操作により、機のコントロールを取り戻し、地上に降り立つことが出来れば、航空機のウィングレットがもぎ取れようが、昇降舵の一部が欠けようが、尊い人命は救われます。

先ずは、機を upset condition にしないことが重要なわけですが、upset condition からの回復操作を訓練しておくことも重要である、との認識が今日の趨勢となっているようです。

FAA では、各方面からの意見や、事故の事例などをベースに、1998 年に“ Airplane Upset Recovery Training Aid ”なる教材をリリースしていました。
その後も改訂が続けられており、2004 年 8 月に Revision 1 が、先月( 2008 年 11 月)には、 Revision 2 がリリースされています。

表紙には FAA はもとより、Airbus, The Boeing Company などのメーカ、ALPA: Air Line Pilots Association, Flight Safety Foundation, IATA: International Air Transport Association などの団体、さらにはにエアラインも名も記されています。
教材作成に貢献した・しているのでしょう。
(本邦のキャリアでは、青さん,赤さんの名があります)

全部で400ページを超える教材なので、一生かかっても読み終えることはできないでしょうが、ご紹介できる部分もあるかと思いますので、ダメモトで読みはじめています。

今回は、「そもそも upset ってどんな状態?」をざっくりと。

細かな値は、機種により異なるのは当然ですが、一般的には機が意図せずして陥った以下のような状態を Airplane Upset と言うそうです。

 ●25度を超える機首上げ
 ●10度を超える機首下げ
 ●45度を超えるバンク
 ●機体姿勢が上の3つの範囲内であっても、速度が不適切

私たちが搭乗する飛行機が Upset condition になることは、極めて低い確率で、まずあり得ないと言っても過言ではないでしょう。そもそも、パイロットの方々が、快適性と安全性を損なうそのような状態は未然に防いでくれます。

が、飛行機が飛んでいる相手は大自然。何があるかはわかりません。

「パイロットの方々はこんな状況のことも想定して訓練しているんだ」と、ただただ頭が下がります。
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変、か...

 昨年はたしか“偽”でしたでしょうか。今年の漢字は、昨年のそれの差替えではなくて、“ A: ADD SHEET ”のようでして、昨年の“偽”はまだ VALID なので捨てては駄目みたい....。

2週間に一度のペースで、時として分厚い Packet が某社より届き、書架からバインダ6冊引っ張り出してきてセコセコと“差替え”をしていると、
 「ほぉ、ここが変わったか」
とか
 「おや、黄色い紙だ」
などと、“変”:変わる、ということには nagative イメージが無いのですよね。


今年“変わった”こと。
 ● 限定
 ● お席の左右

は、全然関係ないし、

 ● お仕事 --- 変わりない
 ● 勤務先 --- 変わらない

 ● 怠惰な性格 --- 変わった、のではなくて“増長”された

ってな感じで、小生自身は相わらず、というか退化しとりますね。


周りを見渡すと、変わったものが幾つか。

◆ 某社のロゴが変わった

「Boeing Company になります」って通知が来たのも相当に前なので、そのとき“変わるか”と思っていたことからすると、“やっと変わった”ですが、やはり、変わってしまうと、それはそれで昔のロゴが懐かしい。
JEPPESEN New Logo
新しいロゴは随分と 今風 / モダン になったのかな。

金融危機の影響かどうかは定かでありませんが、封筒のロゴは相変わらず昔のままであります。

ロゴ繋がりで、もう一つ。

◆ FLIGHT SAFETY FOUNDATION のロゴが変わった

こんな名前の雑誌が、毎月、FLIGHT SAFETY FOUNDATION から送付されてきまして、寝付を良くする手助けをしてくれているのでありますが、

# そんな事を言っては罰があたります。
# 実に中身が濃くて、ためになる教材です。

その月刊誌を発行している FLIGHT SAFETY FOUNDATION がロゴを刷新しました。

月刊誌“ AeroSafety WORLD ”は、以前は“ AviationSafety WORLD ”という名前でしたが、昨年から今の名前にわりました。

今回は、協会のロゴそのものもえたようです。

こちらも随分とモダンになったのかな....。
FSF New Logo on envelope
# AeroSafety WORLD 誌に記されているロゴは、今年7月号から新ロゴに変わっているけど、8月に更新したときに送られてきた Membership certificate は旧ロゴのままだった。 Web site のロゴも古いままだし....、こちらも徐々に、かな。

◆座間から関戸橋へ

9月25日のことですが、羽田の SID がわりました。10-3 シリーズは総入替でございました。

こんな愚ブロクでもチェックして下さっていて、復帰(?)後の初コメントを電光石火で寄せてくださった Wich さんが
 「 ザマ9DEPってのは
でことの経緯をご説明なさって下さっております。

殊に、羽田から、西方面へのルートで、今まで ZAMA ~ に乗っかっていたものは、随分と変わりました。

AIC 033/08
 『平成20年9月25日0000JSTから、飛行経路は次のとおり計画されたい』
とのお達しと共に、羽田の新しい SID が有効になりました。

従来の ZAMA ~ に近いルートをたどる BAYGE ONE

こちらは、RJBE, RJOT, RJOM, 九州北部, 福江から A593 に乗る便が「計画されたい」とされている選択肢。
 
BAYGE YANAG と経て RNAV Route Y28 で一路西へ。
※RNAV1 適合機は BAYGE すっ飛ばしてそのまま YANAG へどうぞ。

そして、蒲田から関戸橋へと、多摩川に沿って昇るのが KAMAT ONE, SEKID ONE RNAV

こちらの選択肢を「計画されたい」とされているのは、
 RJFF, RJFU, RJOA, 山陰, 韓国, 韓国上空を経て中国へ向かう便、および、北陸方面への便。

 -SEKID から RNAV Route Y20 に乗って、山口県下関市豊田町へ一直線。
 -SEKID から TAKAO を経て Y20 で KOSYU へ、そこから RNAV Route Y18 に乗って、兵庫県宮津市へ一直線。
 -SEKID から そのまま KINPU まで磁方位299°で進み
  ... そのまま松本へ。
  ... 左旋回して W18 / RNAV Route Y88 に乗って名古屋へ。

今まで1本だったルートを複線化(複々線化?)して、航空交通増加に対応しようとの、化であります。

蒲田 At or above 9000' の constraint は“ぬるま湯”ではなく、それなりの気合を持って望まねばならなそうですね。

冬場は空気密度が濃いのでまだ良いでしょうが、夏場、満席で目的地のお天気が芳しくなく、燃料多めに積んだ状態のときは、一所懸命、かも。


さて、来年はどんな“変化”に逢えるかな....
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ささやかなクリスマス飾り - 2008年版

 今宵は外気も暖かでしたが、このところ外気も,世相も,景気も,懐もお寒い限りで....。疲れ果てて帰宅して玄関を入り、ほんとささやかな飾りつけではありますが、この暖色系に“ホッ”とする - 今年もそんな季節になってしまいました。

一年の経つのが早いこと....。それにしても、よくもまぁ、ここまでサボったものです。

鈍感な小生には飾りつけについて、てんで解りませんが、財務大臣殿は、毎年々々趣向を凝らしているようで、それをネタに

 『あんた、今年はどこが変わったか解る!!??』

と問い詰めてくる訳でありまして、まるで、どこぞのお国のモゴモゴモゴ

昨年 のそれと密かに比べてみて、確かに飾りつけは違うのですが、要は CNFG の違いを答えるのではなくて、新しい装備品を答えねばならないのです。
この不景気で叩きのめされた上に、脳味噌がスポンジ化しているオジサンには、なんと酷なことでありましょう。

迂闊に「これ」なんて指差そうものなら、財務大臣の航空関連予算縮小攻勢に火に油を注ぐことになりかねないし....。

う~ん、このキャンドルスタンドは前からあったしなぁ....。

こういうときは、「雄弁は銀、沈黙は金」「多言は一黙に如かず」。

いや、どっちも違うな。


どうやら、この「松ぼっくりさん」


と、奥に鎮座している VORDME チックな品


が、新装備らしいのでありました。


10ヶ月近くもサボってしまいました。

これから先、以前のように投稿できるかどうかは甚だ疑問でありますし、寄せていただいたコメントにお答えできるか、それも自信がありません。

が、まぁ、タイトルにもあるように “徒然なるままに” 書けるときに、思いついたことを綴れれば良いなぁ、と考えておりますが、これが『最終投稿』になるやも知れず、期待せんといて下さい。

P.S.
 KaVo さんはじめ、小生がサボっている期間中にコメントを寄せてくださったり、訪問してくださった方々には失礼の程をお許し下さい。また、お寄せいただいたコメントへの個別の返信はご勘弁いただきたく、お願いいたします。
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