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Manic Street Preachers / Journal For Plague Lovers

2009-07-02 | music : favorite


腕の方はまだ少しだるさが残るものの、昨日鍼治療をしたお陰か肘の痛みがなくなり、PC操作も苦にならないほどに回復。まあぼちぼちやって行こうと思っているが、久しぶりなので、今日はほぼ毎日聴いているこのアルバムのことをたっぷり語ろう。

Manic Street Preachers(マニック・ストリート・プリーチャーズ)の9作目 『Journal For Plague Lovers』 は、1995年に突如失踪したギターのRichey Edwards(リッチー・エドワーズ / Edwardsは本名だがRichey James(ジェームス)での表記もあり)が残していた散文を元に製作され、Richeyが表現する愛や怒りが詰まった、彼への愛とリスペクトに溢れた “4人” で作ったトリビュート・アルバムで、シングル・カットのない一枚を通してひとつのアートとして成立したコンセプト・アルバムになっている。
雑誌のインタビューでベースのNicky Wire(ニッキー・ワイアー)は、こう語っている。
“彼の歌詞に導かれるようにしてアルバムが出来上がった。彼のリリシストとしての才能を再確認すると共に、改めて彼の才能への敬意を表したいと思ったんだ。”
昨年、英国の裁判所がRicheyの死亡宣告を表明したことが、今回のアルバムのコンセプトと関係しているように表現しているメディアが多いが、Nickyはずっと前から計画していたことで、Richeyの死亡宣告とは関係ないと言っている。
そしてもうひとつ、今回のアルバムは、彼らの3rdアルバム 『The Holy Bible』 の続編と言われている。確かに、音的にポップ・センスが発揮された前作 『Send Away The Tigers』 とは違い、このアルバムはエッジの効いた尖った音でダークなイメージなので、そういうところからも 『The Holy Bible』 の続編と言われるのだろう。
しかしこのことについても、Vo.&GのJames Dean Bradfield(ジェームス・ディーン・ブラッドフィールド)はこう否定している。
“『The Holy Bible』 の歌詞も殆んどがRicheyの手によるもので、アルバムのアート・ワークもRicheyが好きだった同じジェニー・サヴィルというアーティストが手がけているし、収録曲数も同じ13曲ということで 『The Holy Bible』 を思い出させる。でもテーマが違う。『The Holy Bible』 は怒り、憎悪を取り扱っているが、このアルバムはもっとデリケートで、続編ではない。”

プロデュースは、Nirvana(ニルヴァーナ)やPixies(ピクシーズ)を手がけた、オルタナティヴ・シーンを代表する名エンジニアSteve Albini(スティーヴ・アルビニ)を起用。アナログ・テープでライヴ一発録りで完成させたとのことで、心地良い緊張感と溢れんばかりの感情がほとばしっている。
M-1 「Peeled Apples」 は、Jamesが特にインスパイアされたと言っている “The More I See The Less I Scream(私は分かれば分かるほど、より悲鳴をあげなくなる)” という詞で始まる。ズンズンとベース音が響き、ぶ厚いギターのリフがとどろく。
M-2 「Jackie Collins Existential Question Time」 では、マニックスならではのポップ・センスが光る。ギターのメロディが素晴らしい。詞の面では、サビで “Oh Mammy, What's a Sex Pistol(ねぇママ、セックス・ピストルって何?)” と繰り返され(バンドのSex Pistolsではない)、それが頭の “Tonight we beg the question(今夜我々は話をはぐらかす)” に繋がる。“beg the question” は、“論点となっていることを真実とみなして話を先へ進める” という意味だが、この曲では反社会的行為についての疑問を投げかけている。Jackie Collins(ジャッキー・コリンズ)は、現在71歳の英国の小説家/元女優の名前。
疾走感溢れるロック・チューンM-3 「Me And Stephen Hawking」 では、冒頭で “ラジオを点けてください” と日本語で二回繰り返される。これは、6thアルバム 『Know Your Enemy』 に収録されていた、“目、とっても美しいですね” という日本語が流れる 「Ocean Spray」 を思い出させる。
M-4 「This Joke Sport Severed」 ではアコギの音が切なく響き、ストリングスも入って哀愁が漂い、歌詞にも哀しみと虚しさが滲み出ている。
M-5 「Journal For Plague Lovers」 はアルバム・タイトル曲。Richeyが残した3冊のノートは、詞というよりも “Journal(日記)” のような形になっていたそうで、全てRicheyの言葉で作るということもあってこれをタイトルにしたそうだ。
M-6 「She Bathed Herself In A Bath Of Bleach」 は、ヘヴィでエッジの効いたロックで、間奏の重厚でメロディアスなギターが印象的。
アコギとハープが哀しく響くM-7 「Facing Page: Top Left」 は、とても美しい曲。
打ち込みリズムで淡々としたM-8 「Marlon J.D.」 は、前後の曲と違ってかなり異色を放っている。
M-9 「Doors Closing Slowly」 では孤独から生まれる悲痛が歌われていて、Richeyの心の叫びが聞こえてきそうだ。
続くM-10 「All Is Vanity」 でも、孤独感と虚無感がメランコリックなメロディに乗せて歌われている。
M-11 「Pretension / Repulsion」 は、マニックスらしいロックの約2分の短い曲で、Richeyの表現する怒りが、Jamesの叫ぶように歌うVo.にも表れている。
このアルバムの中でとても好きなのが、M-12 「Virginia State Epileptic Colony」。メロディはポップだが詞はかなりアイロニカルで、サビではそのメッセージが込められたタイトルの頭文字V.S.E.C.がくり返される。
ラストを飾るM-13 「William's Last Words」 は、Nickyが歌っている。“I'd love to go sleep. And wake up happy. Cos I am really tired.(眠りたい。そしてハッピーな気分で目覚めたい。とっても疲れているから)” と繰り返されるフレーズが切なすぎて胸が痛くなる。反社会的な怒りやメッセージは全くなく、バンド初のラヴ・ソングとも言えるだろう。Richey無きあと、彼に代わってマニックスの言葉の代弁者となってきたNickyが切々と静かに歌い、幕を閉じる。

Richeyを失ったことで、更に4人の絆が深まったということを示すかのようで、ずっとマニックスを聴いてきた者にとっては、ある意味パーソナルな存在のアルバムでもある。
ずば抜けて・・・というほどではないが、デビューからずっと好きで、Richeyのいる4人のライヴも体験しているが、Nickyファンの私はあまりRicheyを見ていなかったようで、Richeyのステージでの記憶が殆んどないのが残念な事実。
謎の失踪事件はかなり衝撃的だったが、メンバーもファンも、ある日ひょっこり帰ってきて、また4人のマニックスが戻ってくると、少なくとも心のどこかで思っていたに違いない。初期からのファンは、誰もRicheyのことは忘れていない。
今となっては、4人に書いてもらったサイン入りの 「You Love Us」 の12"は、何物にも替えがたい宝物だ。
そしてあれから15年近く経った今、“ALL LYRICS BY RICHARD EDWARDS” と書かれているのを見ると、何とも言えない複雑な気持ちになる。
Richeyのカリズマ的な存在と天才的な言葉のマジックは、マニックスには切っても切り離せないもの。言わずもがな、彼の才能を再確認させられる。
このアルバムに併せたツアーは2部構成で、1部はなんと新作を全曲やり(もちろん曲順もそのまま)、2部は初期作品を中心に、といった涙ものの構成。1部はRicheyに捧げ、2部はファンに捧げるライヴという感じの憎い演出だ。
NANO-MUGEN FES.では、ステージにRicheyが居るかのような錯覚に陥るかも知れない。


★歌詞の内容や和訳は独自の解釈によるものなので、本来の意味とは違う場合あり。