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写真とコメントで紹介する旭川の郷土史エピソード集

シリーズ「劇団『河』の軌跡」③ 「詩と劇に架橋する13章」

2016-12-21 20:00:00 | 郷土史エピソード

本の出版に合わせてお伝えしているシリーズ「劇団『河』の軌跡」。
今回は、現在詩と劇の融合を目指し、「河」のオリジナル作品のなかでも異彩を放つ舞台「詩と劇に架橋する架橋する13章」についてご紹介します。


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「詩と劇に架橋する13章」左から小森思朗、北門真吾、山口正利、室谷宣久


1970年代に入り、劇団「河」が、清水邦夫作品や唐十郎作品の上演と並行して取り組んでいたのが、オリジナル脚本を使った劇団独自の舞台創りです。
その初期の成果として上げられるのが、1974(昭和49)年から78年にかけて、複数のバージョンの舞台が演じられた「詩と劇に架橋する13章」です。
「詩と劇に架橋する13章」は、日本の近現代の詩人の作品を素材に、さまざまな場面と登場人物を独自に設定し、俳優がそれぞれの詩を台詞として語るユニークな作品です。



「詩と劇・・・」池の内にじ子


この作品、劇団の記録を見てゆきますと、改訂によってパート1から7まで作られたようです。
ただ、現在、ト書きも含めた完全な上演台本の形で残されているのは「パートⅣ」のみで、ほかに台詞(使用した詩と童話)のみが載せられた「パート7」の資料があります。
このうち「パートⅣ」は、サブタイトルが「ある晴れた日に 草野心平詩集より」となっていて、蛙の詩人として知られる草野心平の17編の詩の全編、及び一部が台詞として使用されています。



「詩と劇・・・」の台本(1978年)


一方、「パート7」は、「パートⅣ」の内容を取り込んだ形で、以下のような3部構成となっています。

 1部・・・構成劇「或る晴れた日に」草野心平詩集より
 2部・・・詩朗読「長長秋夜(じゃんじゃんちゅうや)」小熊秀雄
 3部・・・詩と童話の錯綜による≪変容≫の試み

1部は、「パートⅣ」とほぼ同じ内容・構成です。
2部は、旭川にゆかりの深い詩人、小熊秀雄の長編叙事詩「長長秋夜」を俳優たちが群読する舞台。
そして3部では、小熊の童話「焼かれた魚」をベースにしたうえで、9人の詩人(登場順に、吉増剛造、佐藤春夫、飯島耕一、金子光晴、田村隆一、石原吉郎、鮎川信夫、黒田喜夫、吉本隆明)の作品を台詞として使った舞台が繰り広げられます。



「詩と劇・・・」の札幌公演(1978年)


「詩と劇・・・」の札幌公演チケット(1978年)



この「詩と劇に架橋する13章」は、1978(昭和53)年に札幌でも上演されています。
札幌演鑑や北海道演劇財団の中心メンバーとして活躍し、現在は札幌市内でイベントスタジオを主宰する飯塚優子さんは、このように当時の舞台を回想しています。

 同年(筆者注=1978年)九月十五~十七日の三日間、当時私が勤務していた4丁目プラザの小さなフリースペースでの劇団河公演が実現し た。「詩と劇に架橋する13章」である。
 タイトルのとおり、これは文字に書かれた詩が肉声を得ることによって限りなく劇的な世界を獲得する、そのありさまを観客の前に現出させる試みだった。選ばれた十三編の詩を、朗読というより詩を台詞として演じるのである。小熊秀雄の「長長秋夜」はいわゆる群読スタイルで、ひとり、ふたり、全員、かけあい、と変化するスピーディーな運びが緊迫した世界を創りあげた。
 一方、佐藤春夫の「秋刀魚のうた」は全く趣を異にする。北原ミレイの「石狩挽歌」ひとしきり、池の内虹子演ずる襤褸の狂女が現れて「哀れ秋風よ」とつぶやく。七輪からたちのぼる本物の秋刀魚の煙がご愛嬌。それは詩句としては紛れもない「秋刀魚のうた」でありながら、しみじみと秋を詠嘆する一般イメージとはかけはなれた独自の世界だった。<「旭川・劇団河の芝居と黙っている塔崎さんの思い出」・「塔崎健二を追む 時間の焔-無神の空」掲載・1997年>




「詩と劇・・・」右から小森思朗(松井哲朗)と山口正利


戯曲や詩、エッセイ、歌の歌詞など、いわゆる既存のテキストを素材に全く新しい舞台作品を生み出す取り組みは、60年代から70年代にかけて行われたいくつかの試みがよく知られています。
もっとも有名なのは、1969年から70年にかけは、「早稲田小劇場(現SCOT)」を主宰する演出家、鈴木忠志が、歌舞伎や新派の戯曲、小説、エッセイ、流行歌の歌詞などを素材に構成した「劇的なるものをめぐって」というシリーズです。
このうち「劇的なるものをめぐってⅡ」は、長屋に住む精神を病んだ芝居好きの女が、記憶にある舞台の断片を次々と演じていく〝仕立て〟で、当時「早稲田小劇場」の代表作として海外でも上演され、主演した女優、白石加代子の名を不動のものにしたことで知られています。
「河」の作品は、こうした舞台に刺激を受けて制作されたと思われますが、ただ詩のみ(小熊の「焼かれた魚」は童話作品ですが)を素材にした「劇のコラージュ作品」の舞台化を長期間にわたり追求した劇団は、おそらく他にはないのではないでしょうか。
「河」の独自の取り組みは高く評価されるべきだと思います。





度々ご紹介している私の本ですが、きょうから道内の主な書店で販売が始まったようです。
旭川での企画展もきょうから始まりました。
なお、あさって23日には、企画展の会場である旭川文学資料館でトークショーを行います。出演は、私と「河」主宰の星野由美子さん、中心俳優だった伊東仁慈子(旧姓池の内)さんらで、時間は午後1時半からです。
会場には、当時のポスターやパンフレット、台本のほか、貴重な舞台写真などおよそ200点の資料を展示しています。ぜひ足をお運びください。













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