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写真とコメントで紹介する旭川の郷土史エピソード集

『胃活』の広告

2015-07-26 14:31:51 | 郷土史エピソード

旭川の中心部を紹介する明治時代の絵葉書に写っていたユニークな看板。
実は、全国的にヒットし、誰もが知る大手医薬品メーカーの基盤を築いた胃薬の広告でした。
宣伝に多額の費用をかけることで知られる家庭用医薬品、その傾向は明治の昔から変わっていないようです。



              *************



<明治のユニーク看板>


まずは、こちらの写真を。



(写真①-1)3条師団道路(明治43年頃)


明治43(1910)年頃の撮影とみられる旭川の師団道路の絵葉書です。
右端に写っているのは当時3条通8丁目にあった「秋野薬局」です。
2枚の大きな広告看板が掲げられていますよね。
1枚はご存じ「仁丹」(手前は店の屋号の「一の」の看板)、もう1枚は高さ6~7メートルほどもあるのではないでしょうか、シルクハット姿の男性の胸に「胃活(いかつ)」と書かれています。
当時人気のあった胃薬の看板です。



(写真②)同上・拡大


もう一枚、こちらも同じ時期に撮影されたと思われる絵葉書です。



(写真③)3条師団道路(明治40年代)


ここにも右端に「胃活」の看板が写っています(「仁丹」の看板はないことから、こちらの方が古い時期の撮影かもしれません)。
この絵葉書では、薬局の並びにあった3軒の「勧工場(かんこうば)」(現在のスーパーマーケットのような集合店舗)や、店の前を通る馬鉄=馬車鉄道の姿も確認できます。



<一世を風靡した『胃活』>



そして、こちらも見ていただきましょう。



(写真④)「胃活」の広告(明治34年9月・北海タイムス)


明治時代の新聞です。
「胃活」の広告が載せられています。
調べてみると、「胃活」は、明治32(1899)年、大阪の「山田安民薬房」が発売した胃腸薬であることが分かりました。

もう一枚、こちらは大正時代の「胃活」の広告です。
右端に「胃痛に胃活!泣く子に乳!」とあります!
このキャッチフレーズ、当時全国的に知られていたそうです。



(写真⑤)「胃活」の広告(明治34年9月・北海タイムス)



(写真⑥)「胃活」の缶(年代不明)


そしてこの「山田安民薬房」、高い知名度を誇る今も現役の医薬品メーカーの前身なのですが、わかりますか。
ヒントは、この会社が、その後トラホームの流行を受けて点眼薬「ロート目薬」を発売し、これもヒット商品になったことです。

もうおわかりですね。
答えは「ロート製薬」。
この名前になったのは、戦後のことです。



(写真⑦)「ロート目薬」の広告(大正5年3月7日・小樽新聞)



<ここにも巨大看板>



再び絵葉書に戻りましょう。
これも同じ明治40年代の旭川中心部です。



(写真⑧)2~3条師団道路(明治44年)


「街の角々に薬屋あり」とは、旭川の郷土史家、故渡辺義雄さんが残した言葉です。
その言葉通り、こちら2条通8丁目角にも薬屋さんがあります。
名前は「山形勉強堂」、ここにも目を引く看板が掲げられています。

薬の名は「ヘルプ」、明治40(1907)年に発売された「胃活」のライバル薬で、製造は「津村順天堂(今の「ツムラ」)」です。
看板の高さも「胃活」に引けを取っていないようです。



(写真⑨)同上・拡大


で、この絵葉書、よく見ると画面中央のやや右下(すれ違う馬鉄の奥)に冒頭で紹介した「秋野薬局」の屋根と「胃活」「仁丹」の看板が写っているのがわかります。
ほぼ同じ時期に撮影されたと思われます。


(写真⑩)同上・拡大


「ヘルプ」についても、広告の載った新聞がありましたので、併せてご紹介します。



(写真⑪)「ヘルプ」の広告(大正3年7月・北海タイムス)販売元は「津村順天堂」の関連会社(創業者同士が親戚関係)、「津村敬天堂」となっている。



<秋野薬局は今も健在>



なお明治34年の「胃活」の新聞広告には、「大取次(取次店でも大手の意味か)」として「札幌南一西一 秋野幸三郎」と書かれています。
これ、札幌市の同住所でいまも営業を続ける「秋野総本店薬局」と思われます。



(写真⑫)「胃活」の広告・拡大(明治34年9月・北海タイムス)


札幌の「秋野薬局」は、創業がなんと明治5年という有名な老舗の薬店です。
ちなみ今回紹介した絵葉書にあった「秋野薬局」は、当時全道各地にあった「秋野」の支店の一つです。

明治のユニーク看板が現在の大手医薬品メーカーと結びついたように、ここでも〝昔〟と〝今〟が結びついていました。
歴史をたどる面白味の一つです。



(写真⑬)秋野総本店薬局(札幌市中央区南1条西1丁目)