トーマス・シーリー (1952~)はコーネル大学神経行動学の教授である。分蜂群がどのように巣を選ぶかといったメカニズムに集合知のようなものがあることを発見した。シーリーの著『野生ミツバチの知られざる生活』(青土社)によると、ミツバチの巡航速度は時速約30kMだそうだ(蜜胃が空のとき)。ミツバチ成虫 (体長1.5cm)とヒト(計算上身長1.5mとして)を比較して、これをヒトの速度に換算するとなんと時速は約3000kmになる。これは航空自衛隊のF-15戦闘機のそれに匹敵する。ミツバチは3kmを6分で飛行するが、3kmはヒト換算で300kmである。京都を起点とするとこれは、静岡県島田市付近である。彼らは自分の大きさを考えると、恐るべき長距離を短時間で移動していることになる。
シーリーによると、セイヨウミツバチの野外巣の最適環境は、南向き、高さ5M、入り口(12.5cm2)、底部巣口、容積40L、巣板付属といったところである。巣の形や湿度、隙間の有無はあまり入巣には影響していない。彼はさらに1871例の尻振りダンスを解析し、えさ場の距離を計測し分布をまとめている。コーネル大学の「アーノットの森」では、えさ場は再頻度0.7Km、中央値1.7Km、平均距離2.3km、最大距離は10.9kmであった。平均距離は時期によって2-5kmの間で変化した。ニホンミツバチを用いて同様の研究が佐々木らによって玉川大学構内で行われた(1993)。その結果、ニホンミツバチはセイヨウミツバチに比較して近い(2km以内)えさ場を利用しているようである。ただ、これらのデーターは資源の様態によって当然変化する事を忘れてはならない。
シーリーは距離や方角だけでなく野外コロニーの巣を発見する方法も開発した。ある地点にエサ(砂糖水)を置き、ミツバチを誘因する。それにマークを付けて、飛んで来る直線方向(ビーライン)にえさ場を移動し、再度、ミツバチを誘因する。マークの付いた個体がえさ場に通う時間を計算しておおよその巣の位置を特定した。
シーリーは最後に「ダーウイン主義的養蜂のすすめ」を提唱している。理想とする養蜂とはミツバチをできるだけ、その自然の生き方に干渉せずに飼育するというものである。具体的には1)環境に遺伝的適応したコロニーを飼育すること。ニホンミツバチの場合は、例えば東北地方のコロニーを西日本に輸送して飼うなどは、遺伝的攪乱の可能性がある。2)適度な密度で飼育することも肝要なことである。高密度飼育は盗蜂や他巣入りを誘導する。また病気の感染が一気に広がるリスクが高い。3)巣の容積は40L以下に抑えるべきである。大きな巣は、自然分蜂を妨げ、ダニなどの感染爆発を引き起こしやすい。また資源の局所的枯渇を引き起こす。4)多様な資源の下に、ミツバチを飼育する必要がある。資源の多い場所でのコロニーは病気になりにくい。などなど....。ミツバチを飼って単純に「エコ」だと思うのは間違。
参考図書
佐々木正己 『ニホンミツバチー北限のApis cerana』海游舎
追記2024/10/20
一秒で自身の体長の何倍移動できるかをBLPSという数値で表す。知られている限り最大のBLPS生物は長さ数ミリのカイアシで1,778だそうだ。人はせいぜい6.1。ミツバチは計算すると、おおよそ500ぐらいでハチドリの385より大きい。
参考:ジョエル・レビィ著 「デカルトの悪魔はなぜ笑うのか」創元社 2014年
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