のちに一年戦争を代表する名艦長と称されることになるブライト・ノアも、元を辿れば一介の士官候補生に過ぎなかった。U.C.0060、地球に生まれたブライトは、一年先生が膠着状態に入ったU.C.0079の3月に連邦軍に入隊した。一説には、ノア家はブリティッシュ系の血を引く裕福な家柄であり、彼はその環境の中で何不自由なく育ったとも言われているが、その真偽のほどは明らかになっていない。
彼が歴史の表舞台に姿を現すのはその6ヵ月後、同年9月のことである。士官候補生だった彼は「V作戦」の中核を担う新鋭艦ホワイトベースの乗員となり、サイド7へと向かった。その時点での彼は、それほど重要な任務を担ってはいなかった。実際、サイド7入港時に、テム・レイ技術大尉にブリッジへ上がるよう伝えた伝令がブライトであり、あくまでも彼は「ホワイトベースの士官候補生のひとり」だったのである。
しかし、ジオン公国軍のサイド7襲撃によって、彼を取り巻く状況は一変することとなる。正規乗員の大半が死傷し、艦長のパオロ・カシアス中佐も負傷した状況下で、ブライトはブリッジ要員の中心人物としてホワイトベースの指揮を執ることを余儀なくされるのである。サイド7からの避難民を抱え、クルーたちのほとんどは素人同然の訓練兵や民間人。実戦経験の少ないブライトにとって、ホワイトベースが置かれた状況はあまりに厳しかったと言える。絶望的な航海の舵取りを突然に背負わされた彼の重責がどれほどのものであったかは、想像に難くない。のちに名艦長と称えられるブライトの船出は、不安に満ちたものだったのである。
ジオン公国軍の襲撃によって正規乗員の大半を失ったホワイトベースは、サイド7を脱出しルナツーへと向かった。ブライトは負傷したパオロ艦長を補佐しつつ、この時点からホワイトベースの実質的な指揮官を務めていくこととなる。
重傷のためにルナツーで艦を降りたパオロに代わり、ブライトは本格的にホワイトベース艦長としての責務を負った。しかし彼を待っていたのは、避難民の受け入れ拒否と、ジャブローへ直行せよという命令であった。ブライトの抗議も受け入れられず、ホワイトベースはルナツーを出港し、命令に従って南米のジャブロー基地を目指して大気圏突入を図る。だが、シャア・アズナブルの追撃によって進入コースを大幅にずらされたホワイトベースは、ジオン公国軍の勢力下にある北米大陸へと降下することとなった。ここから、ホワイトベースの過酷な単独行動が始まったのである。
俺だって生きている間くらい
人並みに上手に生きてみたいと思うけど
不器用だからな・・・・・・
素人の集団を率いて敵の勢力圏内を突破するというあまりに危険な行動の中にあって、ブライトの心労はいかほどのものであったろうか。それに加えて、地球に降下してからのホワイトベースの指揮は、最も階級の高いリード中尉(ルナツーから同行したサラミス級の艦長)が執っていた。あまり適切とは言いがたい彼の指揮も、ブライトのストレスとなっちたと言えよう。また、ホワイトベース内部に抱えた問題も決して軽視できないものであった。度重なる戦闘で神経衰弱に陥ったアムロ・レイが出撃を拒否したのもこの時期である。ブライトはこの時アムロを殴り、このように言い放ったといわれている。「貴様はいい!そうして歎いていれば気分も晴れるんだからな!」
このエピソードは、敵中に放り込まれ、素人集団を率いていたブライトの苛立ちを示していると言えるだろう。
さまざまな障害はあったものの、ホワイトベース隊は北米を抜けてユーラシア大陸に進入。ランバ・ラル隊の追撃、オデッサ作戦などをくぐりぬけてジャブローに到着した。これ以前に、第136連隊所属のマチルダ隊と2度目の接触時に少尉に任官されていたブライトは、ジャブローで大尉に昇進している。同時にホワイトベース隊は連邦軍第2連合艦隊所属の第13独立部隊とされ、囮部隊としての役割を与えられることとなる。ホワイトベース隊を厄介者扱いする連邦軍高官たちが下した処遇に、ブライトは内心納得がいかないものを感じていたのかもしれない。しかし彼らにこれを拒否する権利があろうはずもなく、ホワイトベースは再び宇宙へと上がった。
宇宙に上がったホワイトベース隊は、ソロモン攻略戦、星一号作戦に参加。最終的にはア・バオア・クー攻防戦の最中に艦を失い、終戦を迎えた。ブライトは最後までホワイトベース隊を指揮し、生存者全員を退艦させることに成功している。無事に終戦を迎えたブライトは、戦後も軍に留まった。閑職に追いやられながら7年の時を過ごした彼は、グリプス戦役で再びその手腕を振るうことになるのでる。
■ブライト・ノア
階級:士官候補生→大尉 年齢:19歳 性別:男 所属:地球連邦軍第13独立部隊 出身地:地球 技能:艦長、部隊指揮
■艦長としての重責
一年戦争当時、ブライトは若干19歳の若者であった。そんな彼が、軍規に縛られることに慣れていない民間人のクルーたちを率いていくことは、相当な激務だったに違いない。しかし、ホワイトベースを取り巻く環境が、彼らの甘えを許さないものであったこともまた事実である。ブライトは時に傲慢とも取れる姿勢で指揮に当たったが、そこには、艦全体の無事を第一に考える彼の責任感の強さが見て取れる。激務の過労から彼が倒れたというエピソードも、そうした状況を物語っていると言えよう。
■アムロ・レイに掛けた期待
ブライトにとって、アムロ・レイとの関係は、最も頭の痛い問題だったと言える。ブライトはアムロがパイロットとしての才能を高く評価していたが、それゆえにアムロの身勝手や増長を痛烈に非難することも多かった。逆に言えば、アムロに対する期待の裏返しであったと言える。しかし、彼のそうした対応はアムロの反発を生み、アムロの脱走事件へと発展するのである。
■ミライに寄せた不器用な想い
ともに戦いの日々を過ごす中で、ブライトはホワイトベースの操舵手、ミライ・ヤシマに想いを寄せていく。しかし、彼女には親が定めた許婚がいた。その許婚(カムラン・ブルーム)のいるサイド6に行くことになた彼は、「軍令がなければ誰が寄るものか」とまで洩らしたという。いかに優れた部隊指揮の手腕を発揮していたとはいえ、彼は20歳にも満たない青年だった。恋敵の登場に心中穏やかではいられなかったことも、無理からぬことだったと言えよう。