英雄と呼ばれる人物にも少年時代がある。世間を舐め、自己中心的になりやすい時期である。“英雄”としての印象が強いためか、アムロ・レイのことを安定した人格の人物と思っている方が多いようだが、少なくとも、ガソダムに偶然乗った頃のアムロは、機械に明るい以外は、どこにでもいる内気な少年に過ぎなかった。
アムロは、U.C.0063.11.04、技術者であった父テムと母カマリアの間に生まれた。生誕地は、北米西部のプリンスルパートと言われている(日本の山陰地方という説もある)。幼少期に父と共に宇宙へ移民。父は仕事で不在がちであったため、アムロは独りで過ごすことが多かったようで、これがアムロの内向的な性格形成要因であると思われている。
そんなアムロに転機が訪れたのが、U.C.0079.09.18の公国軍によるサイド7襲撃である。偶然、ガソダムのマニュアルを入手していたアムロは、成り行きでガソダムに搭乗。何の訓練も受けていなかったアムロだが、公国軍のMS・ザクⅡ2機を激はするという戦果を上げてしまう。素人のアムロがいきなりMSでザクを倒すことができたのは、彼が父親のコンピュータからデータを盗んだからとも(父テムはガソダム開発の関係者だった)、彼がニュータイプだったからだとも言われているが、実のところ正確な理由はよくわかっていない。理由はどうあれ、アムロ以外にガソダムを扱える者がいなかったため、彼は現地採用のガソダムパイロットとして、公国軍と戦うことを余儀なくされる。アムロ・レイ伝説のスタートであった。
サイド7でのアムロの初勝利は、ガソダムの突出した性能の賜物だった。それは当初、公国軍の“赤い彗星”シャア・アズナブル少佐が、ガソダムの性能には驚愕しても、パイロットには興味を示さなかったことからも推測できる。宿命のライバルとして知られるアムロとシャアだが、初会戦時には、両者の腕前には歴然とした差が存在していた。何とかシャアを撤退させたアムロだったが、後にホワイトベースの艦長と士官候補生ブライト・ノアに、ガソダムの性能とアムロの技量がつりあっていないことを指摘されてしまう。アムロとしては恐怖の中、精一杯戦ったのに、そのように言われては面目丸つぶれであっただろう。確かに15歳の少年に、公国軍のエースパイロットと戦え、ガソダムの性能を当てにするな、というのは酷な話である。だが、ホワイトベースの実情の前に公国軍が手加減してくれるはずもなく、アムロはガソダムで歴戦の兵揃いの公国軍と戦わざるを得なくなった。
そんな戦いの中、アムロは幾度となく戦いに挑み、疲れ、ブライトたちと衝突してしまう。ホワイトベースクルーは、艦長になったブライトを肇、ほとんどが10代の少年少女だったのだから、仕方のない側面もある。アムロもたびたび勝手な行動をとり、周囲を困惑させた。一方で、アムロはガソダムのパイロットとして成長しつつあったうえ、ニュータイプの片鱗も見せるなど、その技量はホワイトベースの中核として相応しいものになっていった。だが、これがアムロを増長させたいったのであろうか?
アムロの独走を憂慮したブライトは、アムロをガソダムから降ろそうと考える。これに憤慨したアムロは、ガソダムと共にホワイトベースを脱走してしまう。自身を持ち始めていたアムロにブライトの仕打ちは屈辱以外の何ものでもなかっただろうが、その原因が自分の身勝手さ、子供っぽさにあるとは考えもしなかった。そもそもホワイトベースを出るのに、ガソダムを持ち出した事実から考えても、ブライトの憂慮は正しかったと言えるだろう。
限界に達したかと思われたアムロだったが、自分の不甲斐なさを痛感させる人物、公国軍のランバ・ラル大尉(グフを操縦)と出会う。ラルは器量、人物、技量、どれを取っても一流の男で、アムロは彼との戦いや仲間の死を通して、ひとりの戦士として成長していく。そして、アムロはシャアとの再戦を迎える。このときシャアは、ガソダムのパイロット、アムロの成長に驚くことになる。この瞬間こそ、アムロとシャアがライバルとして意識しあった瞬間なのかもしれない。
ぼ、ぼくが一番
ガソダムをうまく使えるんだ・・・・・・
アムロが一年戦争に参加したのは、わずか3ヶ月と2週間である。特別な訓練など何も受けていない。アムロはこのような状況から戦闘に参加し、ごく短期間の内に総撃墜数100を上回ると言われる超エースへと成長した。このような目覚しい成長こそが、彼がニュータイプである証拠と考える人がいるのも無理もないことだ。彼にニュータイプ的な素養があったことは確かだが、その爆撃的成長の背景には、彼個人の意思が働いていたことも間違いないだろう。彼の能力上昇は、人格的成長過程と合致する、とも言われる。実際、公国軍のゲリラ部隊隊長、ランバ・ラル大尉との戦闘やホワイトベースの兄貴的存在であったリュウ・ホセイの死などの大きな事件を体験するたび、それまでの子供っぽさがなりを潜め、それと同時にアムロの戦闘能力も進歩しているように見受けられる。
戦闘において、ある種の余裕すら感じさせるようになったアムロは、ジャブロー戦では2ヶ月前にあれほど苦戦したシャア・アズナブル大佐と互角以上の戦いを演じ、直後の宇宙戦ではムサイ級巡洋艦の主要部分にのみ命中弾を与え、やすやすと撃沈している。このとき、アムロは完全にニュータイプとして覚醒していたのである。
アムロのパイロットとしての成長は、ベルファスト基地に寄港した頃から、より顕著になっていた。ジャブロー戦後、宇宙へ上がったアムロは、キャメル・パトロール艦隊のムサイ級巡洋艦2雙 を容易に撃沈。サイド6宙域でのコンスコン艦隊戦では、ダブル・スコアに達する撃墜数を記録した。このときのアムロは非常に落ち着いており、完成された戦士となっていたとも言われる。淡々と戦闘をこなすその姿は、一歩間違えれば戦うだけの機械的な人間になっていたかもしれない。実際、地球では母親と、サイド6では行方不明となっていた父親との別離を経験しており、肉親という精神的支柱を喪失したアムロは、戦闘力だけが肥大したキル・マシーンとなる可能性もあったのだ。
そんなアムロに、後の人生を左右する出会いが待っていた。アムロと同格のニュータイプ、ララァ・スンとの邂逅である。その出会いは、ほんの一時だったが、ふたりの間には魂の交感と言うべきものがあった。この出会いがアムロとララァだけのものだったら、どんなにか幸せであったろう。しかし、ララァの側にはアムロの宿敵シャア・アズナブルがいた。ララァは戦士として、シャアを守ることを誓っていたのだ。ララァの言葉どおり、アムロが「来るのが遅すぎた」のだろうか?アムロとララァが再会したのは戦場で、敵同士としてだった。そのときアムロは、シャアを超えるニュータイプとして覚醒しており、アムロがシャアを殺すのは時間の問題かと思われた。ララァの中でシャアへの想いと、アムロとの共感が交錯したが、結局ララァはシャアの盾となることを選び、アムロの前に散った。
絶望感に襲われたアムロだったが、彼は倒すべき敵・ザビ家を認識し、ア・バオア・クーでの最終戦に挑む。アムロにとってシャアは真の敵ではなかったが、ララァを巡る因縁もあって、戦わざるを得なかった。戦いは生身での戦闘に発展したが決着は付かず、ふたりの宿縁は決定的なものとなる。そのまま、一年戦争は終結。そして、アムロはホワイトベースの仲間たちの元へと帰り、休息と軟禁の日々を送ることになる。
僕には帰れるところがあるんだ・・・・・・
こんなに嬉しいことはない・・・・・・