おりおりのおりょうり―おいしい毎日と愉快なお話し (集英社be文庫) 価格:¥ 750(税込) 発売日:2004-10 |
その中でも一番好きな一冊、というと、たぶんこの本になります。
枝元なほみさんの、『おりおりのおりょうり』。
私にとっての実用性の点では、『100文字レシピ』の方が上ですが。
(私にはエスニック料理の引き出しがまったくないので)
でも、なぜこの本が一番かというと、それは枝元なほみさんの、エッセイによるものなのです。
元々、私はエッセイのたくさん入った料理本が好き。料理人の方の気持ちに触れると、その料理もぐっと身近になってくる気がします。
そうして、枝元さんのエッセイは、赤裸々度というか、心をさらけ出す感じが強くて、こっちの共感度も深くなる気がするのです。
たとえば、こんな文章。
“働きすぎてる。わかってる。
私は仕事にひきこもっているんだ、おそらく。大雨にうたれたみたいにずぶぬれに疲れてる。目を閉じるとふるえるほどだ。
時間を使い果たしている。破産宣言をしてもいいほどだ。具体的にいろんなところで時間が足りないのだ。料理の素材が足りないようにだ”
現代人の大人なら(もしかすると子どもも?)多くの人がこういう気持ちを味わったことがあるはず。こっちの胸もキュッとなる。
けれどこの文章はこう結ばれる。
“それでも、朝起きると、空は晴れていて清々しくて、はちみつしょうがなんか飲んでみて、仕事の試作で作ったカレーピラフなんかも試食がてらに朝ご飯で食べたりしてたら、「あら、けっこうだいじょぶだ、私」
「ごはん、ありがと」って思ったんです”
ああよかった、そうだね、ご飯ってありがたいよね、って気持ちになりました。
こんな文章にも、ひかれた。
“私、つい最近、海のものとも山のものとも知れないというフレーズが気に入っています。すごいことだと思うのです。今でこそ、私は、料理の人です。でも、あの頃はまさかこんなふうにこんな仕事をするなんて思ってもみなかったのですから。
なんか、そういう頃ってよいな”
すごく不安定だけど、不安定ゆえのパワーがある、というのですが、思えば私は、この歳になっても海のものとも山のものとも知れないのだな、と苦笑もしました。
妻でも、母でもなく、何物でもない。
すごく不安になることもあるけど、でもこの本を読んでみると、それでもご飯食べて、生きていくしかないよね、っていう気分にもなる。海のものとも山のものとも知れないって、不安だけれど、素敵な言葉だ。
新しい一年が、また巡ってきます。