福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

天空の画廊 クルト・クヴェルナーとの出逢い

2016-02-28 08:34:12 | 美術


今回のドレスデン滞在では、体力温存のため美術館に行かないと決めていたのだが、新市街地の路地裏を歩いていると気になる画廊に出逢ったので、覗いてみた。

GALLERY HIMMEL=天空の画廊

まず、画廊の名前が素敵ではないか。
そこで、2月末まで開催されているのが、Curt Querner (クルト・クヴェルナー,1904 - 76)展。はじめて聞く名前だが、その風景画や人物描写の奥深さに忽ち魅せられてしまった。ドイツ国内では著名だという。







「レコード買うのやめて、どれか買って帰るか?」と、持ち前の物欲が頭をもたげたものの、気に入った作品が9800~14,000EUROとのことで一旦は諦めた。否、作品の価値からいって、決して高くないのだと思う。気に入ったわけだし。たとえば、シャガールなど人気作家の版画を買うのなら、こちらの一点ものの水彩画や油絵を買う方が賢いに違いない。









宿から画廊まで徒歩5分ということもあり、結局、ドレスデン滞在の3泊+1泊(計6日)の間に5度も訪問してしまった。誰もが訪れる観光地を早足で駆け抜けるのも悪いとは言わないが、自分だけの名所に何度も訪れるという方が性にあっているようだ。



ネルソンス&シュターツカペレ・ドレスデン終演後、いよいよライプツィヒに発つ前、予約の列車まで小一時間あったため、画廊を再訪。店主のMichaelさんと記念撮影。Michaelさんは奥様ともどもライプツィヒご出身で、バッハの音楽をこよなく愛されているとか。不思議なご縁を感じた次第。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アンドリス・ネルソンスのショスタコーヴィチ8番

2016-02-28 07:44:55 | コンサート


次期ゲヴァントハウス管弦楽団シェフのアンドリス・ネルソンスをドレスデン・シュターツカペレ定期演奏会で聴くという、なんとも粋な趣向。



ううう凄い。既に前半で無条件完全降伏(幸福?)。
ブリテンのパッサカリア、ツィンマーマンのトランペット協奏曲「誰も知らない私の悩み」、ショスタコーヴィチ「8番」というプログラムは、いずれも、世間の不条理、生まれながらの宿命などを思わせる、まさに経済が破滅に向かい、戦争や紛争の跫音の近づいているかのような今の世にピッタリ。




ブリテンのパッサカリアは「ピーター・グライムス」からの音楽で、主人公の背負う宿命の重さが痛切な叫びとして聞こえてくる演奏。
ツィンマーマンのトランペット協奏曲「誰も知らない私の悩み」は、ときにジャズのような、ときにプログレのような様相を見せながらも作曲家の内面の苦悩を語る作品だが、ドレスデン・シュターツカペレは現代ものをモノともしない強力な技術とアンサンブル力をみせる。
それにしても、超絶技巧オンパレードのこの作品を見事に吹ききってしまう独奏者ホーカン・ハーデンベルガーは化け物だ!



さらに、休憩後のショスタコーヴイチ「8番」には、全く打ちのめされた。虐げられ、亡くなった魂への深い鎮魂と痛切な祈りが巨大な波となって会場を震わせる。
もはや棒がどうこうでなく、ネルソンスの魂から生まれる無尽蔵のエネルギーがその肉体を通して発せられる様は阿修羅の如く。フォルテとかピアノではない、その背後に広がる世界の大きさには気が遠くなるほど。



しかも、これ見よがしに効果を狙う場面は皆無。ドレスデン・シュターツカペレの卓越したアンサンブル能力と深い響きによって、いかなる怒涛の響きの中にあっても高貴さを失わない稀有のショスタコーヴィチとなったのである。
ネルソンスはベルリン・フィルのシェフ候補でもあったと聞くが、ゲヴァントハウス管は賢明な人選をしたと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする