岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

ヒカゲノカズラとハナワラビ「野外観察」での発見

2008-09-26 05:55:33 | Weblog
(今日の写真は、ツル性のシダ植物「ヒカゲノカズラ科ヒカゲノカズラ属のヒカゲノカズラ「日陰の葛」だ。白狐沢を渡り、古い急な林道を登ったところの南面の「日陰」に咲いていた。受講者のある者が目敏く見つけて訊いてきた。私は山頂近くの高山帯でよく見かけるヒゲカズラかと思い、そう答えていたのだが、自信がなかったので阿部会長に訊いたところ「ヒカゲノカズラ」だと言う。)

  ◎ 岩木山白狐沢下流域で開かれた「野外観察」その4 ◎

 これは北海道から九州に分布している。和名は「日陰の葛」と書くが、何と日当たりの悪い場所(日陰)には生育しないのだから、奇妙である。
 ある程度の水分があり、尾根筋や谷筋の「鉱物質土壌」が露出しているような場所に生育する。私たちが見たものは急な林道の赤土がむき出しになっている場所であった。ただ、この写真は私たちが見たものではない。後述する「事情」があって実物を撮影することが出来なかったので、あるブログから「借りた」ものである。それには「花崗岩地帯の小規模な土砂崩れの跡地で撮影した」との注書きがあった。
 阿部会長によると「昔は道端などによく生育していたものだが、近年は見ることが少なくなった」ということである。アスファルト舗装道路になり、日当たりのよい土がむき出しになっている裸地が少なくなったからであろう。
 茎は地上を這い、所々から根を出して広がり、群落を形成する。夏から秋にかけて、胞子嚢を形成する。
 水の中に沈めてもなかなか腐らないので、養魚池に入れて金魚や鯉の産卵のための藻場の代用にするそうである。特に、リンゴ農家では「胞子」をリンゴ受粉の際の「花粉増量剤」に利用したものである。現在は使っているのかどうなのかは定かではない。
 ただ、「ヒカゲノカズラ」とは呼ばず「石松子(せきしょうし)」と呼んでいたように思う。これはヒカゲノカズラの胞子のことだ。漢名では全草は「石松」あるいは「神筋草(しんきんそう)」という生薬名で呼ばれている。
 これは風湿・活血などの効能があり、リウマチなどの関節痛・麻痺やしびれなどにも効き目があるそうだ。
 あまり知られていないことだが、この「胞子」は赤ちゃんのおむつかぶれや寝たきり病人の「床ずれ」防止のために用いられていたそうである。

 私たちは阿部会長から出されていた「どうしてヤマブドウの蔓は垂直に伸びる、つまり成長することが出来たのだろうか」の答えを探すためにヤマブドウの蔓ある藪に目を向けながら急な林道を登って行った。
 そして、ある受講者がヤマブドウの蔓を見つけたのである。だが、発せられた声は「(ブドウが)なっていない」であった。答えより先に「食べられるブドウ」に関心がいったのだろう。当然といえば当然のことだ。この時季のヤマブドウは甘酸っぱくて美味しいのだ。
 藪中のブドウ蔓はまだ幼木であるらしい。5、6年生のナナカマドの枝にしっかりと絡みついている。蔓を引っ張っても抜けることはない。絡みつかれたナナカマドが大きくしなるが、抜けない。しかも、蔓はさっき見たような「直状」ではない。
 何故、蔓が「直状」に垂れ下がるのか、それは絡みついた樹木の成長とヤマブドウの蔓の成長度合いが同じだからである。つまり、この場合は今後、ヤマブドウとナナカマドが同じ速さで成長していくという訳なのである。そして、数十年後にはナナカマドの枝からヤマブドウの蔓が「直状」に垂れ下がることになるのだ。
 
 受講者たちはすばらしい解答をした。そのご褒美だろうか。今度はたわわに実った「ブドウ園」に出会ったのである。林道の山側斜面がすべてヤマブドウに覆われていたといっていいほどであった。
 だが、入っていくところが狭く、全員は入っていけなかったので、残った者たちは、私を先頭にさらに林道を回り込んで、その上部に辿り着いたのである。
 そこは平らな広場になっており、背丈ほどの赤松やミズナラの小木にヤマブドウが絡みついており、秋の陽光を浴びて「紫色」の房を重そうに垂れ下げていた。
 その近くの赤土の部分に、先ほどの「ヒカゲニカズラ」を発見したのだ。だが、その時、目はヤマブドウも発見していた。下では歓声を上げながら、ブドウ狩りに興じている。「私たちもその人たちに負けてはならない、負けていられるか」という思いに囚われていた。
 背丈ほどのところにたわわに実っているヤマブドウである。実に簡単に採れるのである。瞬く間に、各人歓喜の中でビニール袋いっぱいのヤマブドウを採取したのである。
 私も同じように、この「自然の恵み」に興奮していた。そして、「ヒカゲノカズラ」の撮影を忘れてしまったのだった。

 偶然と言えばあまりにも偶然である。本当にこれが事前に計画されたものであったら、その計画性はピカ一というほかないだろう。
 お昼ご飯は、山麓の廻り堰大溜め池が見えるススキ原の中で、思い思いの場所に陣取って食べた。
 そのみんなの足下、腰下にヒカゲノカズラと同じシダ植物のハナヤスリ科ハナワラビ属「ハナワラビ(花蕨)」がにょきにょきと生えていたのである。
 偶然か、神の思し召しか、それとも、事前に「あの場所でXをみる。この場所でXと関係あるYを観察する」と計画したことなのだろうか。観察とはこの偶然性があるから楽しいのである。マニュアルどおりの観察会ほど「つまらない」ものはない。

 「ハナワラビ(花蕨)」は一風代わったシダ植物だ。裸子植物の遠いご先祖様ではないかという説があるくらいで、葉だけはいかにもシダ植物という印象である。担葉体の上に栄養葉と胞子葉を持っていて担葉体は多肉質、栄養葉は羽状複葉、胞子葉も羽状複葉だが、葉身はなく、軸に直接に丸い大きな胞子嚢(のう)がつく。
(明日に続く。昨日の写真はトウホクノウサギの足跡です。左の方に進んでいます。左側の大きな2つの足跡が「後ろ足」、右の小さな方が「前足」です。)