岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

「ハナヒリノキ」の果実に寄せる想い / カメラを持たない登山 (9)

2010-08-07 04:16:50 | Weblog
 (今日の写真は、ツツジ科イワナンテン属の落葉低木「ハナヒリノキ(嚔の木)」の果実である。これは9月頃、山頂直下で撮ったものだが、「葉」も「果実」も「枝」も、すべて赤く色づいていた。岩木山には、この仲間である「ウラジロハナヒリノキ」も自生している。
 まず、名前の由来からいこう。「嚔」という漢字一字で「ハナヒリ」と読む。私には読めない。もの凄い「難読漢字」である。たとえ読めたとしても、今度はその「意味」が分からない。今度は「難意」な漢字となる。
 だが、命名は「学問のある」人がつけたわけではなさそうだ。多くの人が「ハナヒリ」と呼んでいたものに後世の「学のある人」がこの「嚔」という漢字を充てたものだろう。
 「嚔(ハナヒリ)」とは「くしゃみ」を意味する。昔、この木の葉を粉末にして、牛や馬など家畜の皮膚に付く寄生虫駆除の殺虫剤として使ったそうである。だが、その粉末が鼻にはいると「くしゃみ」が出ることから、「くしゃみ」の意味の「ハナヒリ」がこの木の名前となった…と言われている。だが、詳細は不明である。
 寄生虫駆除に使われるくらいだから、全木に「グラヤノトキシン」などの毒性物質を含んでいて、口にすると嘔吐、下痢を起こす「有毒植物」である。もちろん、果実も食べられない。
 北海道、本州(和歌山、奈良、京都以北)に分布し、山地の岩場やガレ場のような礫地、尾根筋に生える。よく分枝し、若枝に細毛が生える。葉は互生し、ほとんど、柄はなく、葉身は長楕円形である。縁には毛状の鋸歯があり、葉脈は下部に突出している。
 7~8月頃に、「アセビ」と同じように、長い総状花序にスズランのような小さくて、薄い緑がかった花を俯きに付け、下向きに枝先に向かって咲かせていく。花冠は5mmほどの壺形で、先は5裂して反り返る。)

◇◇「ハナヒリノキ」の果実に寄せる想い ◇◇

 秋の「ハナヒリノキ」の果実は「真っ赤」である。だが、真っ赤なのは「果実」だけではない。「葉」も「枝」も、すべてが「真っ赤っか」のである。
 他の草や樹木の葉が、まだ紅葉していないうちから、この「樹木」だけが全体を真っ赤に染め上げているのは、緑の世界にあってはことさらに目立つ。大体、ツツジの仲間の多くは紅葉がきれいになるのであるが、「ハナヒリノキ」だけは一風変わっているのだ。
 一瞬、「目を引く」が、それは、美しさではなく、その「異様さ」からである。ツツジ科の「マルバウスゴ」にしても、「クロウスゴ」にしても、葉は次第に紅葉するが、果実は黒熟する。同科の「コケモモ」は葉は常緑であって、果実は赤から黒熟する。
 同じツツジ科なのに、「ハナヒリノキ」だけは「葉」、「果実」、「枝」までが早々と、「真紅」になってしまうのである。これはやはり、異様だ。
 じっと見詰めていたら、その色具合は、やはり美しいものであった。「色彩」の美しさは認めるしかないだろうと思った。そして、次に「美しいものには毒がある」という語句が脳裏を掠めた。「ああ、これは全木が有毒だったのだ」ということを改めて、思い返したのである。
 もう1つの異様さもある。それは、花は下向きに咲いていたはずなのに、果実の方は上向きについているということだ。まあ、異様さというよりは「面白い」とでも言うべきかも知れない。丸い小さな果実は、五角の扁球形で、花柱が残っている。

 「ハナヒリノキ」の仲間の「イワナンテン」属には、ツツジ科の常緑小低木である「イワナンテン(岩南天)」がある。本州の関東西部から紀伊半島までの太平洋側に分布し、山地の岩場の湿り気のある崖などに生えている。
 茎の長さは、30~90cm、やや分枝して、垂れるものもある。葉は互生し、卵形で先が尖り、ツバキの葉のように厚くて表面につやがある。4月に、「ハナヒリノキ」に似た形の白い花を咲かせる。

 また、「庭木」とされる「ナンテン(南天)」は全く別種の木本で、中国が原産であるメギ科ナンテン属の「常緑低木」である。
 「ナンテン」は、初夏、円錐花序に沢山の白い米粒状の花を咲かせる。冬になると、赤い小球形の美しい果実をつけるので鑑賞用とされる。
 その他に、「咳止め薬の原料」とされたり、現在でも、名前の「ナンテン」から「難を転じる」意味に結びつけて「縁起物」とされている。また、葉の緑と果実の赤の色の対比が美しいから、おせち料理の彩りに使われるなどと、日本人にとっては馴染みの深い樹木であろう。。
 因みに、「ナカマド(七竃)」の花や果実が「ナンテン」の葉や果実によく似ていることから、「ヤマナンテン(山南天)」 と呼ばれることもあるのだ。

◇◇ カメラを持たない登山 (9)◇◇

(承前)…この「コミュニズム峰(標高7500m)」の登頂を目指す登山は私を変えた。それは標高4000m以上の積雪帯では「生き物に会わない登山」であったことによる。

 積雪帯以下の草原は「樹木」は殆どないものの、多くの草花に覆われていた。中でも惹かれた花は名前は知らないが、「芥子」の仲間である。薄い紫の花びらであったように思う。
 花には昆虫も多かった。特に目についたのがシジミ蝶の仲間である。中でもヒメシジミが多かった。草原の周囲の岩場には「イヌワシ」のような「鷲鷹」類もいた。岩場から少し離れた草原には、大型の「齧歯類」の動物もいた。さすがに、大型の肉食獣に出会うことはなかった。ただ、遊牧民たちの飼う、羊が多数いた。所どころには牛も見られた。

 私は「休養日」にはよく、一人でテントの外に出かけて、半日または終日を過ごした。時には近くにある5000m級の山頂まで行くこともあった。
 それでは、「休養」にならないだろうと思う人もいるだろうが、私にとって、「身体的」な休養は必要なかったのである。
 「休養日」とは「高所順応」のため、標高4000mのベースキャンプから5000~6000mの高さまで「登っ」て降りて来た翌日から与えられる1日か2日の「休養」のための日である。
 「高所順応」とは、「次第に高所になれる」ということであって、これは、一気にはいかないのである。この「高所順応」を何度も繰り返すのである。繰り返してやらないまま、7500mの山頂を目指すことは出来ないのだ。途中で「動けなくなる」か、大概の場合は死亡する。
 この「高所順応」には、個々人の身体的な側面から「適不適」があって、「高所順応」がうまくいき、疲れを知らず、「休養」の必要がない者もいる。
(明日に続く)