「2008年7月21日 たんぽぽ
職場におけるストレスマネジメント―一般企業の非正規雇用労働者の場合
①問題解決のためには、いかなる介入・援助の方法が考えらえるか?
現代は、産業経済の大きな変革期で構造改革が凄まじいスピードで進行中であり、職業性ストレスが増加している。それに伴い、うつ状態やうつ病、過労死や自殺なども増えている。一般企業(上場企業)の69%で心の病が増加し、一か月以上の休職者が68%に存在している(社会経済生産性本部、2005年)。2000年に心の労働災害に企業の安全配慮義務があるという判例が最高裁で出され、心の面でも企業に責任があるという考え方に変わった。8月に当時の労働省は、「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を発表した。①セルフケア、②ラインによるケア、③事業場内産業保健スタッフ等(産業医、衛生管理者等によるケア)、④事業場外資源によるケア、基本的考え方として以上四つのケアをあげ、心の健康づくりにおいて事業場や労働者がとるべき対策を示した。2006年4月の労働安全衛生法の改正により全ての事業体が職員の「心身の負荷」を把握し、適切な措置を講ずる義務が課せられている。最近注目されているEAP(従業員支援プログラム)とは厚生労働省が定める四つのケアのうちの一つである事業外資源によるケアの事を指すものといえる。人員削減により一人当たりの業務量は増加している。過労死・過労自殺を生み出す長時間労働に対して、企業では法定労働時間(週40時間)を月100時間以上超え、労働の蓄積が見られる場合は労働者の申し出を受け、医師による面接指導を行わなければならないという法律(改正労働安全衛生法)が2008年4月より全企業体に適用されている。
しかし、これらの施策は、正規雇用と非正規雇用(契約社員・パート・派遣社員等の有期期間契約雇用)の二極化が進行している労働の現場に十分に対応できているとは言えない。1986年の男女雇用機会均等法制定、労働基準法見直し、労働者派遣法の制定を契機として、女性労働の分野で正社員一般職から契約社員や派遣労働者による常用代替が進んできた。非正規雇用化は、若者を中心として男性にもかなりの勢いで広がっていった。1997年から2001年にかけて、正社員は170万人削減され、非正規雇用は200万人増えた。非正規雇用が正規雇用と競合し合っている職場は、「多様な就業形態の組み合わせと労使関係に関する調査研究報告書」(厚生労働省2001年)ですでに70%を超えている。特に細切れ契約が横行している労働者派遣は雇用主(派遣元)が労働法上の責任を負担し、使用者(派遣先)が派遣労働者に対する指揮命令を行い、労働時間や労働安全衛生に関する労働法上の責任を負担するという特殊な形態である。労働者派遣法では、派遣先が派遣労働者を雇用しないものを労働者派遣と定義しており、派遣先は雇用責任を負担しない。それゆえに、労働者の心身の負荷に対する責任は不明瞭なのが現状である。労働によるストレス被害は、気力低下から心身の障害に至るまでの健康被害、生命の喪失、さらには家族の崩壊や離職など、人間の生活の広範囲に及ぶ。非正規雇用労働者の場合には、同じ仕事をしていて、職場に貢献する度合いも同じであっても、ボーナス・退職金がないなど社員との格差、深刻な長時間労働の広がり、使用者の都合によって契約更新時に時給ダウンなどの条件の変更を余儀なくされる。契約更新されないといった弱い立場であるが故にもたらされる不利益が、意欲やほこりが削がれる精神的葛藤にさらに追い討ちをかけ、労働にも苦渋の度合いが強められる。個人でできることを精一杯試みても状況を打開できない、社会全体の課題として現れる非正規雇用労働者のストレスの増加という今日的な課題は、援助者の介入が必要な領域であると考える。
コミュニティ心理学では、人間の行動は個人内の要因によって引き起こされるのではなく、環境要因と個人要因が相互作用することで生じると考え、個人の内的諸要因の改善だけでなく、その個人を取り巻く環境的諸要因への働きかけ、環境を人に適合するよう働きかけていくことが重要であると考える。即ち、治療的側面よりも、予防的で成長促進的な援助が重視される。介入に当たっては、労働者の内面的理解につとめ心理援助サービスを行うと同時に、労働者一人一人を生活者として社会システム全体の中で捉え、その人を取り巻く社会的環境とどのような関係をもち、困難な状況を創り出しているかを理解することがまず重要である。労働者ニーズを的確に把握し、関係諸機関の相談窓口(ハローワーク、各都道府県の労働局、日本労働弁護団相談窓口、NPO法人派遣労働ネットワーク、日本司法支援センター)との相互の連携のもとに援助を進めていく。非正規雇用労働者の場合には、職場の同僚者や上司の理解が得られにくく、孤立しがちであることから、ネットワークの中で支えていくという視点は重要である。そして、多様なニーズに応えるには、多領域で活動する専門的援助者、家族・友人・近隣の人々、職場の上司と同僚などの非専門的援助者に働きかけ、連携と協働を求めることが必要となる。
非正規雇用労働者の増加は、現代社会が直面している深刻な貧困化を伴う格差の問題を伴っている。少子化、高齢化に伴う、社会保障制度のあり方、性差別といった問題も内包していると考えられる。現代社会が抱える問題を解決していくには、既存の法律・制度・政策といった社会資源では不十分であり、新たな資源の開発も必要になってくる。例えば、労働者派遣法
おいては、事前面接による派遣決定は禁止されている。しかし、企業は労働者を受け入れるとき、ほとんどのケースで事前面接を通じて受け入れを決定し、労働者を選別している。このような実態は、事業法としての性格をもう労働者派遣法の構造そのものに問題があると考えられる。これまであまり把握されてこなかった労働者派遣法が適用された結果や運用の実態を可視化していくことが重要であり、政策課題としていくためには、行政の合意が必要であり、その合意形成・理解を得るためには署名活動や啓発運動、関係者の集団行動による世論の喚起といったソーシャルアクションも必要になってくる。正規雇用の一定時間を超えたら産業医の指導や健康診断の実施によって対策を講じるというのでは、長時間労働などのストレスをもたらす
客観的環境を改善していくのは難しい。長時間労働をもたらす制度や環境への対策を重視し、正規雇用・非正規雇用という就労形態の枠組みを超えて現場で働く労働者が参加して分析と改善の為の多面的アプローチを可能にするシステムを構築することが求められている。
②介入・援助の成果をどう評価するのか?
仕事は、社会の一員であるための大切で不可欠な条件といわれている。長時間労働が健康破壊をもたらすなら、正規雇用・非正規雇用を問わず、健康と生活仕事を通して社会に貢献し生活の営みを再生産するため(自分自身を更新する)ために必要な時間が、どれだけ「収入労働」のために制約され、奪われているかを可視化することも重要だ。仕事も職場も常に激しい変化にさらされている社会の中で、一人一人が、自立して生きていくことを可能にする社会システムの再構築のために、コミュニティ援助の重要性を共有する仕組みをどのように構築していくか、専門家は問われている。
参考
社会保険労務士吉田達事務所HP
中野麻美著『労働ダンピング―雇用の多様化の果てに』2006年10月、岩波新書。
社団法人産業カウンセラー協会『産業カウンセラー養成講座テキスト 産業カウンセラー入門』日本産業カウンセラー協会、2004年3月改訂2版。
精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編『精神保健福祉士養成セミナー第6巻精神保健福祉援助技術各論』へるす出版 2005年1月改訂3版。
江花昭一『東京カウンセリングスクール専科研修講座 ストレスマネジメント』資料 2007年12月
講師評
きわめて危急かつ現代的な心理社会的問題をとりあげ、どのような問題解決のニーズが存在するのかを分析した上で、コミュニティ心理学の視点をふまえた介入方法を提示しているすぐれたレポートです。今後のさらなる展開を期待しています。」
二十代半ばの時に母が統合失調症を発症したことと30代に突入して妹が自死したことを受け入れていくために心身を削りながらもがく人生となりました。大会社でハケンとして二人分労働しながらよくこれをまとめたもんだと我ながら思います。父も母もいなくなった今その時間はどんどん遠ざかりつつあります。それはそれとしてもう横において、援助職をまたやりたいという気持ちを失ってしまったわけではありません。わたしにできることがあるはず、という想いは幻想にすぎないでしょうか。郷里の車社会では無理。これからどこへ旅立っていけばいいのか。荷物はまだまだあるので断捨離、断捨離。妹が遺した手紙を全部ゴミ箱へ入れました。わたしが出した手紙も含めて読み返すのはもうやめました。父が遺した社員旅行で行ったと思われるタイ旅行の写真もごみ箱へ。スキャンしてもみないのでやめます。いつかは処分しなければならないもの。わたしの人生にも限りがあるのでずっと持っていることはできない。家壊す時にはどのみち全部ゴミだからさ、ごめんね・・・。
職場におけるストレスマネジメント―一般企業の非正規雇用労働者の場合
①問題解決のためには、いかなる介入・援助の方法が考えらえるか?
現代は、産業経済の大きな変革期で構造改革が凄まじいスピードで進行中であり、職業性ストレスが増加している。それに伴い、うつ状態やうつ病、過労死や自殺なども増えている。一般企業(上場企業)の69%で心の病が増加し、一か月以上の休職者が68%に存在している(社会経済生産性本部、2005年)。2000年に心の労働災害に企業の安全配慮義務があるという判例が最高裁で出され、心の面でも企業に責任があるという考え方に変わった。8月に当時の労働省は、「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を発表した。①セルフケア、②ラインによるケア、③事業場内産業保健スタッフ等(産業医、衛生管理者等によるケア)、④事業場外資源によるケア、基本的考え方として以上四つのケアをあげ、心の健康づくりにおいて事業場や労働者がとるべき対策を示した。2006年4月の労働安全衛生法の改正により全ての事業体が職員の「心身の負荷」を把握し、適切な措置を講ずる義務が課せられている。最近注目されているEAP(従業員支援プログラム)とは厚生労働省が定める四つのケアのうちの一つである事業外資源によるケアの事を指すものといえる。人員削減により一人当たりの業務量は増加している。過労死・過労自殺を生み出す長時間労働に対して、企業では法定労働時間(週40時間)を月100時間以上超え、労働の蓄積が見られる場合は労働者の申し出を受け、医師による面接指導を行わなければならないという法律(改正労働安全衛生法)が2008年4月より全企業体に適用されている。
しかし、これらの施策は、正規雇用と非正規雇用(契約社員・パート・派遣社員等の有期期間契約雇用)の二極化が進行している労働の現場に十分に対応できているとは言えない。1986年の男女雇用機会均等法制定、労働基準法見直し、労働者派遣法の制定を契機として、女性労働の分野で正社員一般職から契約社員や派遣労働者による常用代替が進んできた。非正規雇用化は、若者を中心として男性にもかなりの勢いで広がっていった。1997年から2001年にかけて、正社員は170万人削減され、非正規雇用は200万人増えた。非正規雇用が正規雇用と競合し合っている職場は、「多様な就業形態の組み合わせと労使関係に関する調査研究報告書」(厚生労働省2001年)ですでに70%を超えている。特に細切れ契約が横行している労働者派遣は雇用主(派遣元)が労働法上の責任を負担し、使用者(派遣先)が派遣労働者に対する指揮命令を行い、労働時間や労働安全衛生に関する労働法上の責任を負担するという特殊な形態である。労働者派遣法では、派遣先が派遣労働者を雇用しないものを労働者派遣と定義しており、派遣先は雇用責任を負担しない。それゆえに、労働者の心身の負荷に対する責任は不明瞭なのが現状である。労働によるストレス被害は、気力低下から心身の障害に至るまでの健康被害、生命の喪失、さらには家族の崩壊や離職など、人間の生活の広範囲に及ぶ。非正規雇用労働者の場合には、同じ仕事をしていて、職場に貢献する度合いも同じであっても、ボーナス・退職金がないなど社員との格差、深刻な長時間労働の広がり、使用者の都合によって契約更新時に時給ダウンなどの条件の変更を余儀なくされる。契約更新されないといった弱い立場であるが故にもたらされる不利益が、意欲やほこりが削がれる精神的葛藤にさらに追い討ちをかけ、労働にも苦渋の度合いが強められる。個人でできることを精一杯試みても状況を打開できない、社会全体の課題として現れる非正規雇用労働者のストレスの増加という今日的な課題は、援助者の介入が必要な領域であると考える。
コミュニティ心理学では、人間の行動は個人内の要因によって引き起こされるのではなく、環境要因と個人要因が相互作用することで生じると考え、個人の内的諸要因の改善だけでなく、その個人を取り巻く環境的諸要因への働きかけ、環境を人に適合するよう働きかけていくことが重要であると考える。即ち、治療的側面よりも、予防的で成長促進的な援助が重視される。介入に当たっては、労働者の内面的理解につとめ心理援助サービスを行うと同時に、労働者一人一人を生活者として社会システム全体の中で捉え、その人を取り巻く社会的環境とどのような関係をもち、困難な状況を創り出しているかを理解することがまず重要である。労働者ニーズを的確に把握し、関係諸機関の相談窓口(ハローワーク、各都道府県の労働局、日本労働弁護団相談窓口、NPO法人派遣労働ネットワーク、日本司法支援センター)との相互の連携のもとに援助を進めていく。非正規雇用労働者の場合には、職場の同僚者や上司の理解が得られにくく、孤立しがちであることから、ネットワークの中で支えていくという視点は重要である。そして、多様なニーズに応えるには、多領域で活動する専門的援助者、家族・友人・近隣の人々、職場の上司と同僚などの非専門的援助者に働きかけ、連携と協働を求めることが必要となる。
非正規雇用労働者の増加は、現代社会が直面している深刻な貧困化を伴う格差の問題を伴っている。少子化、高齢化に伴う、社会保障制度のあり方、性差別といった問題も内包していると考えられる。現代社会が抱える問題を解決していくには、既存の法律・制度・政策といった社会資源では不十分であり、新たな資源の開発も必要になってくる。例えば、労働者派遣法
おいては、事前面接による派遣決定は禁止されている。しかし、企業は労働者を受け入れるとき、ほとんどのケースで事前面接を通じて受け入れを決定し、労働者を選別している。このような実態は、事業法としての性格をもう労働者派遣法の構造そのものに問題があると考えられる。これまであまり把握されてこなかった労働者派遣法が適用された結果や運用の実態を可視化していくことが重要であり、政策課題としていくためには、行政の合意が必要であり、その合意形成・理解を得るためには署名活動や啓発運動、関係者の集団行動による世論の喚起といったソーシャルアクションも必要になってくる。正規雇用の一定時間を超えたら産業医の指導や健康診断の実施によって対策を講じるというのでは、長時間労働などのストレスをもたらす
客観的環境を改善していくのは難しい。長時間労働をもたらす制度や環境への対策を重視し、正規雇用・非正規雇用という就労形態の枠組みを超えて現場で働く労働者が参加して分析と改善の為の多面的アプローチを可能にするシステムを構築することが求められている。
②介入・援助の成果をどう評価するのか?
仕事は、社会の一員であるための大切で不可欠な条件といわれている。長時間労働が健康破壊をもたらすなら、正規雇用・非正規雇用を問わず、健康と生活仕事を通して社会に貢献し生活の営みを再生産するため(自分自身を更新する)ために必要な時間が、どれだけ「収入労働」のために制約され、奪われているかを可視化することも重要だ。仕事も職場も常に激しい変化にさらされている社会の中で、一人一人が、自立して生きていくことを可能にする社会システムの再構築のために、コミュニティ援助の重要性を共有する仕組みをどのように構築していくか、専門家は問われている。
参考
社会保険労務士吉田達事務所HP
中野麻美著『労働ダンピング―雇用の多様化の果てに』2006年10月、岩波新書。
社団法人産業カウンセラー協会『産業カウンセラー養成講座テキスト 産業カウンセラー入門』日本産業カウンセラー協会、2004年3月改訂2版。
精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編『精神保健福祉士養成セミナー第6巻精神保健福祉援助技術各論』へるす出版 2005年1月改訂3版。
江花昭一『東京カウンセリングスクール専科研修講座 ストレスマネジメント』資料 2007年12月
講師評
きわめて危急かつ現代的な心理社会的問題をとりあげ、どのような問題解決のニーズが存在するのかを分析した上で、コミュニティ心理学の視点をふまえた介入方法を提示しているすぐれたレポートです。今後のさらなる展開を期待しています。」
二十代半ばの時に母が統合失調症を発症したことと30代に突入して妹が自死したことを受け入れていくために心身を削りながらもがく人生となりました。大会社でハケンとして二人分労働しながらよくこれをまとめたもんだと我ながら思います。父も母もいなくなった今その時間はどんどん遠ざかりつつあります。それはそれとしてもう横において、援助職をまたやりたいという気持ちを失ってしまったわけではありません。わたしにできることがあるはず、という想いは幻想にすぎないでしょうか。郷里の車社会では無理。これからどこへ旅立っていけばいいのか。荷物はまだまだあるので断捨離、断捨離。妹が遺した手紙を全部ゴミ箱へ入れました。わたしが出した手紙も含めて読み返すのはもうやめました。父が遺した社員旅行で行ったと思われるタイ旅行の写真もごみ箱へ。スキャンしてもみないのでやめます。いつかは処分しなければならないもの。わたしの人生にも限りがあるのでずっと持っていることはできない。家壊す時にはどのみち全部ゴミだからさ、ごめんね・・・。