朝日新書より発刊されている、南川三治郎著「アトリエの巨匠に会いに行く」は、1970年代に無職のフォトグラファーの著者が、コネなしで巨匠のアトリエに出向き、芸術家たちの姿とアトリエを撮影のなかで、芸術家との独自に側面で試みた著作です。
その記録は300人以上にも及び、印象派の巨匠からモダンアートの芸術家と多岐にわたります。アトリエは、芸術家にとって聖域の場所であり、そのアトリエを撮る事はとても困難な行為であるのに、南川氏は、真正面から画家たちと対峙することで、思わぬ言葉を導き出しています。
およそ画商の仕事は、美術品そのものを扱う仕事と芸術家のもとに足を運び、ひとつの作品をいただけるまで訪問を繰り返す仕事があります。
画商の本質は、後者であると思うのですが、自分が理想の画家に出会い交流が出来るのは、ごく限られた画商しかいません。そこには、長年にわたり培ったキャリアと資金力が重要になります。
今日の美術不況の中では、過去の美術品があふれ、需要と供給のバランスがそこなわれ、作家から直接作品を得るより、安く作品が手に入る現状があります。この状況は、当分は続くだろうと思います。
画家と画商との距離は、ますます遠くなり、一部の芸術家を除いて、発表の場はますます少なくなり、ほとんどの芸術家たちは消え行く存在になっていくでしょう。
ビジネスを離れたところで存在したとも言える本著が、芸術家の日常と思考を違う側面で伝える上でもよき入門書ともいえます。