
本日の映画レビューは、ジャック・オーディアール監督のミュージカルエンターテーメント「エミリア・ペレス」です。
本年度アカデミー賞で最多12部門13ノミネートされた本作。主演を務めたトランスジェンダー女優カルラ・ソフィア・ガスコンの初のオスカー受賞となるか期待が高まりましたが残念ながら助演女優賞1冠で終わりました。しかし、今までにない着想で見応えのあるエンターテーメント映画でした。
メキシコの麻薬王マニタスから女性として人生を用意してほしい依頼された弁護士リタ。彼女は極秘裏に計画をすすめ成功します。数年後、イギリスに移住したリタに再びエミリア・ペレスとして現れたマニタス。二人の新しい人生が再び動きます。
世界を震撼させるメキシコの麻薬カルテル。様々なメディアで取り上げられ知られるようになりましたが、オーディアル監督は麻薬王を女性として生まれ変わるという奇想天外な着想でドラマをミステリアスに展開させます。さらに、その残忍な所業をミュージカルに仕立てることで、目を背けることなく趣向を和らげながら歌という熱量で訴えかけます。
中心はメキシコ社会にあるカルテルが操る社会ですが、大なり小なり社会の持つ悪にかつては悪の権化であった主人公を清濁併せ持つ善の存在に惹きつけられます。カンヌでは絶賛の本作ですが、まだまだ現在のアメリカでは受け入れられない状況にあるのは、今の状況を考えると理解はできますが、監督の着想と主張、主演のリアルな存在感は今年一、二を争う問題作なのは確かと思います。

本日の映画レビューは、エドワード・ベルガー監督のバチカンを舞台にしたミステリー「教皇選挙」です。
アカデミー賞8部門にノミネートされ、作品賞最有力と予想されていた本作。残念ながら脚色賞のみの受賞でしたが、かなりの見応えを感じる内容でした。
内容は現ローマ教皇の死により、次の法王を決める教皇選挙における選挙の内幕を描くミステリー。フィクションではありますが、過去のカトリック神父のスキャンダルや保守派と革新派の対立などを踏まえながら選挙の詳細が描かれていきます。
教皇選挙については、ネットフリックスオリジナルで話題となった映画「2人の教皇」を観ていたので理解できたのですが、100人を超える各国の枢機卿による候補者選びの暗躍に亡き教皇が記したメモの秘密など、選挙を取りしきる清廉潔白のローレンス枢機卿の選挙戦における苦悩を中心に据えながら、カトリックのタブーともいえるテーマをミステリーの結末に添えた至極のミステリーとなっています。
宗教の本来もつ使命と人間の本質の両面に鋭く突いた作品だと感じます。この作品がアカデミー賞の脚色賞のみだとは、アカデミー賞の行く末がわからなくなりました。ともあれ、教皇選挙は今年必見の映画だと思います。

アカデミー賞の主要8部門にノミネートされながら無冠に終わった本作。しかしながら、絶大な人気を経て今なおロングランヒットを続けています。僕もディランのデビューから音楽の転換期となったニューポート・フォーク・フェスティバルまでの若きディランの熱狂の時代が描かれ、IMAXで臨場感を味わいました。
主演のティモシー・シャラメは21世紀を代表する美少年で本作も含め二作でノミネート作品に出演。主演男優賞のノミネートされましたが、ブルータリストでオスカーに輝いたエイドリアン・ブロディに引けを取らぬ演技でした。また、世界的なパンデミックにより撮影が遅れたことが功を奏してブルースハープやギターの腕を磨き、さらに歌唱を若きディランの声とは実際は異なるものも、ティモシー・ディランとも言うべき歌声を披露していました。まさに彼の代表作となるべく名演です。
作品の構成も素晴らしく、片田舎の町から、フォークのカリスマ・ウッディガスリーの出会いからデビュー。彼に影響を与え続けた二人の女性の存在など、若きディランが、いかにして時代のカリスマとなっていったかを今の若者たちへもわかりやすく、また共感できる仕上がりであったと思っています。
今年のアカデミー賞は、どの評論家も予想が外れたのではないでしょうか。そして、今回のアノーラがオスカー5冠とは予測不可能な事態だったと思います。とは言え、カンヌでパルムドールを受賞もだてではなかった。
インディペンデント作品で低予算で制作された本作。古典的なシンデレラストーリーを今風に解釈した作品でR18指定からもわかる通りか、かなりお下劣な内容です。
ロシア系アメリカ人のストリッパー、アニー(アノーラ)が、店に来たロシア人御曹司のイヴァンに見初められヴェガスの教会で結婚しシンデレラストーリーが結実。しかし、イヴァンの両親から猛反対を喰らい婚約破棄を迫られ、挙句の果てにイヴァンは失踪。イヴァンの部下とボディガードと一緒に捜しだしに行くという内容です。
乱痴気騒ぎの豪遊とはハチャメチャ捜索劇の構成ですが、F○○Kの連発さえなければ、コメディとしては楽しめます。主演女優賞に輝いたマイキィー・マディソンの体当たりの演技は見応え十分ですが、作品賞、脚本賞、編集、監督と4つのオスカーを獲得したショーン・ベイカー自身がスピーチで信じられないを連発するほどです。
劇場公開が少ない作品でしかも成人映画が受賞したことは、映画館に足を運ぶことが少なくなってきた昨今のシネマ事情の中でアノーラのシンデレラストーリーは続いてほしいものです。
先ずは、今回の作品でユダヤ人建築家を演じたエイドリアン・ブロディのアカデミー賞主演男優賞受賞を祝したいと思います。今回は主演男優賞1部門の受賞でしたが、作品としては、個人的に評価の高い作品です。
物語は、ハンガリー出身の建築家ラースロー・トートという架空の人物のの半生を描いたものですが、強制収容所に数年を過ごし、妻と姪を残してアメリカに亡命したラースローのアメリカでの波乱万丈の人生を描いています。戦後のアメリカでムーブメントを巻き起こしたブルータリズム建築がベースにあり、その建築家の総称としてタイトルのブルータリストがあるようです。
かつてドイツでも新進気鋭の建築家と知られたラースロ無一文の労働者から、ある富豪の部屋をデザインしたことを契機に彼の代表作であるマーガレット・ヴァン・ビューレンコミュニティセンター建設までの苦悩と悲劇を描いた壮大な作品です。
休憩をはさみ、4時間に及ぶ作品ですが、その長さを感じさせない壮大で残酷な反省が描かれて飽きるさせない作品で、施主や建設家などとの衝突や予想だにしない事故、妻との不協和音に麻薬依存など人間の強さと弱さを叩きつけるように描ききり臨場感が半端ないです。
バウハウスの思想を背景に設計されたコミュニティセンターは、一目で現在の建築家に多大な影響を与えてる象徴と感じるでしょう。無機質なコンクリート建築に降り注ぐ自然光。配布されたパンフレットからも現実であるような錯覚を与えています。まさに映画が作り出す新たなる創造が、そこにありました。
配布されたパンフレット
平和の祭典のオリンピックで起こったパレスチナ武装組織によるテロ事件。当時中学生だった僕にとっても衝撃的な事件として記憶に残ってます。今回の映画は、そのテロ事件を中継したアメリカのスポーツクルーによる中継で事件を追った9月5日が描かれています。
緊張感あふれる中継は、報道の経験のないスポーツ担当クルーにより行われ、オリンピックの最中にイスラエル選手団とコーチが人質となりスポーツかテロかの中継選択が迫る中でテロの中継を決断、世界中に映像が流れる衝撃的なものでしたが、その中継を95分間に凝縮してリアルに再現され、局内から流れる生の映像と演じるスタッフたちの臨場感と見事としか言いようがありません。
錯綜する情報に二転三転するスタッフの歓喜と失望、そして使命感に支えられた情熱も感じられる作品でした。
映画館で映画を観る人が減ってきている昨今。洋画全盛から日本映画中心の時代となったとは言え、ほとんどの作品が若者向け恋愛映画にアニメが人気です。そんな時代に牙を向いているのが、時折上映される時代劇ですが、過去のチャンバラ活劇と違ってシリアスなドラマ仕立てが多いように思います。
そんな時代に逆行するがごとく生まれた本作。自主映画ながら、東映京都撮影所の粋な計らいで実現した作品です。
物語は、長州藩士を打とうとした会津藩主の侍が刃を交えた瞬間、落雷に合い京都太秦撮影所にタイムスリップ。斬られ役として生計を立てようと悪戦苦闘するもの。大役を得るまでに成長した彼に思わぬ展開が待ち受けます。
キャストも時代劇にふさわしい面々で、主人公の会津藩士にはテレビでもおなじみの脇役、山口馬木也に個性的な俳優陣が顔を揃え、さらに斬られ役のベテラン、峰蘭太郎が出演、殺陣に一段とリアリティが増してます。内容はとてもシンプルな人情笑いで、笑いとちょっぴり涙を誘うシーンもあって飽きさせない演出でした。
3月21日にはアマゾンプライムで見放題配信されますが、待ちきれない方は、ぜひ劇場で時代劇の臨場感を味わってみてください。
いや、いいもの見せてくれました。

今回は、2月に鑑賞した展覧会3件のレビューをお届けします。
先ずは岐阜県美術展で3月6日まで開催中の「円空大賞展」を。円空大賞展は、岐阜県ゆかりの円空の独創性と慈愛に注目し、幅広い芸術分野の著名人などの推薦を経て選出される展覧会で、今回が12回目となり円空大賞1名、円空賞4名が選出されました。
今回の展覧会は布と映像を用いた女性作家、マレーシアのイー・イランが大賞を受賞。土着性の高い色彩豊かな作品が印象的でした。円空賞の坂茂は段ボールなどの再生品を住宅にした建築のパネル写真でで紹介され紙の可能性を感じる展示でした。鴨池朋子は、刺繍された布による郷愁漂う作品が、どこか懐かしくまた造形物が自然と同化するように思えます。陶芸作品が並べられた吉田善彦は並べれた陶器に土の香りを感じ、こうした展示から陶芸の新たな可能性を感じます。これらの作品は撮影可能でしたが、唯一撮影不可となっていたのは池内晶子作品、会場に張り詰められた赤い絹糸は円空仏から着想されたもので、作家の意図が当世のSNS発信から歪められることを恐れてのことだとか。このことについては賛否がありますが、個人的には意図を理解し写真と共に発信許可を出した方が良かったのではと思います。
次は岐阜県現代陶芸美術館で3月16日まで開催中の「加藤孝造・追悼展」は2023年に亡くなられた人間国宝で志野や黄瀬戸でなどの作品で知られています。
今回は陶芸の世界に入る以前に18歳で日展入選の快挙を成し遂げた油彩画の作品などが紹介され、加藤幸兵衛の助言で陶芸の道に転向した氏が、師である荒川豊蔵の出会いにより瀬戸黒や志野、黄瀬戸を追求した作品がずらりを並ぶ追悼展にふさわしい展示と代表作はもとより画家としての片鱗を感じさせる作品など多彩な一面を感じさせる展覧会でした。
最後は、一宮市三岸節子記念美術館で3月16日まで開催中の「中谷ミユキ展」は、三岸節子と共に、戦中の女流美術家奉公隊や戦後の女流画家協会の創設など戦後の洋画界で活躍した女性画家の展覧会で、三岸の鮮やかな色彩と力強い表現とは異なり、マチエールに共通項がみられるものの繊細で抽象的な表現と淡い色調に違いを感じ、普段から常設展示で三岸節子作品を鑑賞している方には、同時代を生きた中谷ミユキに新鮮な気持ちを持つと思います。
まだまだ寒さが強いですが、徐々に穏やかな時期が近付いてくる3月。お近くの方はぜひ鑑賞してみてください。

現在、愛知県美術館で「パウル・クレー展 創造をめぐる星座」が開催中です。
1879年音楽一家の子としてスイスで生まれたパウル・クレー。画家になるべくドイツに・ミュンヘンに移り、カンディンスキーらの青騎士会に参加、後にバウハウスの教官となり第二次大戦下ではナチス政権の退廃芸術展の中心人物とされ迫害を受けた画家。しかしながら、クレーの芸術に対し、あまり知識がない美術ファンも多いかと思います。

僕自身も親交のあったカンディンスキーと同じく、抽象画のイメージが強く作品に対する印象も薄かったのですが、今回の展覧会でその印象は一気に覆ることとなりました。その作品は多岐にわたり、写実的な表現から、音楽一家で育ったルーツを感じるメロディあすな表現。ピカソやブラックなどのキュビスムをクレーらしい色彩とキューブで表現した作品、さらに戦争の悲劇や破壊、そして希望へと向かう作品に、シュルレアリスムの先駆者として作品など実に多彩です。
ナチスから敵視され、退廃芸術展で一番多く展示されたクレー作品。孤高の画家の描く多彩な作品は生と死、破壊と希望と過去と未来をつなぐものではないかと感じます。
愛知での開催は3月16日まで、その後3月29日より兵庫県立美術館で開催れます。ぜひ未知なる巨匠の世界をぜひ覗き見て下さい。
たまたまNHKの映画紹介で知った本作。台湾の金場奨や海外の映画祭でも数々の賞を取り、マレーシア、台湾で100万人の動員の大ヒットなり、今回オスカーの国際長編映画マレーシア代表作品(残念ながらノミネートされず)に選ばれています。
現代は富都兄弟。マレーシアのスラム街で暮らす不法移民の兄と身分証明書のない弟。兄は警察から逃れながら真面目に働く聾者で弟は裏社会と繋がり、その日暮らしの生活をする正反対の兄弟ですが、心の奥底で固い絆を感じます。そんな中で二人の絆を揺るがす事件が発生します。
事件のカギを握るのは弟の元に届けられた出生証明書。事件を境に兄弟の過去が少しずつ明らかになり、事件の真相も二転三転していきます。そしてラストに控える衝撃。貧しくも明るく過ごす兄弟の絆を象徴するゆで卵に兄弟の性格がもたらす紆余曲折する人生、ヒューマンドラマとサスペンスと国内事情も相まって、興味をそそる作り方となっています。
機会があればぜひ鑑賞してみてください。衝撃のラストに心打たれることと思います。

※写真よりも美しい映像で蘇ってます。
今回の映画レビューは、公開から35年。4Kでスクリーンで蘇ったロードムービーの傑作「バグダッド・カフェ」です。
ミニシアターの火付け役として知られ、リバイバル上映やDVDでの鑑賞でファンの多い名作バグダッド・カフェ。僕もずいぶん前にDVDで鑑賞してたのですが、すっかり記憶の片隅に追いやられてました。そんな矢先のタイミングで鑑賞できたのが4Kでレストアされ未公開部分も含めた本作です。
舞台はアメリカ西部の砂漠地帯に佇む寂れたカフェに場違いのドイツ人旅行者が訪れます。彼女の名はヤスミン(ジャスミン)夫婦喧嘩の末に置き去りにされた彼女の登場でカフェは活気付いていきます。
常に家族の行動や態度に不機嫌な女主人ブレンダ。やる気のない従業員、ボーイハントで遊びほうけている娘に幼い子を抱えながらピアノに夢中な息子、トレラーハウスに住む正体不明の老画家、カフェの私有地に住み着いたバックパッカーに、無口なタトゥーイストなど個性的な面々ときれい好きで朗らかなヤスミンとのふれあいがユーモラスに展開され、ほのぼのとする作品です。
また、原色が巧みに使われた映像美に数多くのアーチストがカバーする「コーリング・ユー」の名曲が流れ乾燥無味な舞台に独特な色味にメロディーを奏でています。
昨年3月に亡くなったパーシー・アドロン監督はより美しさを加えた本作を「あらゆる肌の色、バックグラウンド、信条の違いを理解し受け入れる温かさを描いた。この物語は、現代における癒しの源になるのだと感じたんだ」とメッセージを残しています。
どこか殺伐として未来の見えない世界にこの一石を投じるような希望の映画ではないかと僕は思うのです。
再び大統領となったドナルド・トランプ。今トランプ大統領の一挙手一投足に注目が集まっています。巨大な権力を持つアメリカ大統領の中でも類まれな存在であることは誰もが認めるところでしょう。それは、これほどまでに予測不能な大統領はいなかったと思います。そして、今回の映画は大統領就任を予測するように作られ、公開された事実に、本人は当然ながら批判してますが、アメリカの懐の深さを感じます。
物語は、人種差別により政府から訴えられ不動産業を営む父の会社が倒産の危機にさらされる二十代のトランプからスタートします。父から受け継いだ仕事をまじめにこなすトランプに高級クラブの会員である悪名高い辣腕弁護士、ロイ・コーンが手を差し伸べます。酒も呑めないナイーブで金持ちお坊ちゃまが、ロイにより仕立て上げられ、やがてロイが手に負えないほどの怪物へと成長する過程を描いてます。
前半はロイを中心に描かれるのですが、当時のニューヨークを中心にした時代背景とロイとトランプの性的嗜好や元夫人イヴァナとの出会いと関係など、かなり詳細に描かれ、しかも反トランプ、親トランプ両方にも共感を得られそうな作りに仕上がっていて、なかなか面白い作品でした。
世界が戦々恐々となっている今、この映画はある意味でトランプと付き合う上でひょっとしたら良いヒントなるのではないかと思います
かつてカンフーアクションや香港ノワールで栄華を極めた香港アクション。ジャキー・チェンをはじめ国際的に活躍する時代がありました。今やアクション作品も減り、日本でも上映館が少なくなる中で今密かに注目を集めているのが本作です。しかも舞台が、かつて香港象徴の存在だった九龍城砦ですから、香港アクションファンなら見逃せない作品です。
物語は香港に密入国してきた若者チャン・ログワンが黒社会の掟に逆らったことで組織に追われ、九龍城砦に逃げ込みます。そこには訳ありの住人たちに城砦を仕切るボスと訳ありの住人達。彼らと絆を深め同世代の仲間もでき平穏な日々を過ごすなか、中国返還に絡む城砦取り壊しの利権抗争が勃発します。
サモハン・キンポーにルイス・クー、アーロン・クォックなどベテラン俳優陣と若手俳優陣が集結、ドラゴンマッハのソイ・チェン監督がメガホンを取り巨大な九龍城砦を9億円をかけ制作、また、るろうに剣心の谷垣健治がアクション監督に音楽をイップマンシリーズの川井憲次が担当となれば、香港だけでなく日本でもヒットさせるしかないでしょう。
香港アクションと香港ノワールが融合するアクションと香港ならではの暗黒史も加えた痛快かつ壮大な香港アクションを復活劇を作りあげていきましょう。
日本の伝統的な遊びとして誰もが慣れ親しんだ折り紙。幼少の頃に日本人なら一度は鶴を折った経験があると思います。そんな身近な折り紙の世界を芸術の分野に進化させたユニット折り紙の女王が布施知子氏です。
今回の展覧会では近年制作している数多くの作品の中から、「ユニット折り」をはじめ、「スパイラル らせん 折り」、「平折り」、「無限折り」、「ノット(結び目)による造形」など、多種多様な折り方によって無限の形と美しさを見せる折り紙の数々が展示されています。
先ず会場入り口から白い折り紙の枯山水の紙の庭がお迎え、ガラスケースには一枚の紙を巧みに折りながら作られた立体作品の数々が展示され、美術館が誇るアールヌーボ期の調度品の床を赤や金銀のジャバラに折られた蛇が床を覆うように這い、巳年の今を祝福しています。世紀末美術の中に点在する折り紙の数々は、時空を超えた無限の時間を感じさせます。
壮大な創造力を駆使して巧みな計算で折られる作品を目にすると氏の頭の中を覗いてみたい衝動に駆られます。明治の名工により世界に広まった超絶技巧のDNAを持ちながら、未来に続く豊かな発想力を兼ね備えた氏の作品にただただ感嘆した展覧会でした。
会期は3月23日まで、無限の形と美しさを見せる折り紙の世界をぜひ鑑賞してみてください。