
本日の映画レビューは、ジャック・オーディアール監督のミュージカルエンターテーメント「エミリア・ペレス」です。
本年度アカデミー賞で最多12部門13ノミネートされた本作。主演を務めたトランスジェンダー女優カルラ・ソフィア・ガスコンの初のオスカー受賞となるか期待が高まりましたが残念ながら助演女優賞1冠で終わりました。しかし、今までにない着想で見応えのあるエンターテーメント映画でした。
メキシコの麻薬王マニタスから女性として人生を用意してほしい依頼された弁護士リタ。彼女は極秘裏に計画をすすめ成功します。数年後、イギリスに移住したリタに再びエミリア・ペレスとして現れたマニタス。二人の新しい人生が再び動きます。
世界を震撼させるメキシコの麻薬カルテル。様々なメディアで取り上げられ知られるようになりましたが、オーディアル監督は麻薬王を女性として生まれ変わるという奇想天外な着想でドラマをミステリアスに展開させます。さらに、その残忍な所業をミュージカルに仕立てることで、目を背けることなく趣向を和らげながら歌という熱量で訴えかけます。
中心はメキシコ社会にあるカルテルが操る社会ですが、大なり小なり社会の持つ悪にかつては悪の権化であった主人公を清濁併せ持つ善の存在に惹きつけられます。カンヌでは絶賛の本作ですが、まだまだ現在のアメリカでは受け入れられない状況にあるのは、今の状況を考えると理解はできますが、監督の着想と主張、主演のリアルな存在感は今年一、二を争う問題作なのは確かと思います。