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65オヤジのスタイルブック

65才茶々丸のスタイルブック。様々なカルチャーにふれて養ったライフスタイルを紹介

安野光雅展 稲沢市荻須記念美術館

2024年11月30日 | 【美術鑑賞・イベント】

先日の11月23日と24日の連休を利用して、東海地区の美術展を巡ってきました。

美術展は四ケ所で岐阜県美術館での山本芳翠オディロン・ルドン展名都美術館の平山郁夫展碧南市藤井達吉現代美術館の富岡鉄斎展と今回紹介する稲沢市荻須記念美術館の安野光雅展です。

先ずは三館での美術展を簡単ですが紹介したいと思います。

山本芳翠とオディロン・ルドン展ですが、岐阜県美術館が誇る日本とフランスを代表する近代洋画家の二人を同時に開催する展覧会で、岐阜県美術館の収蔵品に加え国内美術館の名品を網羅したことで注目を浴びました。時の首相、伊藤博文とも親交あった山本芳翠の皇居三の丸尚誠館所蔵の作品など文化庁の全面協力のもと118点の作品が並び、一方のオディロン・ルドン展は油彩画やパステル画、版画など300点の作品が網羅された大規模な展覧会で、双方とも岐阜県美術館所蔵のレベルの高さを再認識できる内容でした。

名都美術館での平山郁夫展は、現代日本画の巨匠の一人、故平山郁夫の没後15年を記念し氏のコレクションとして有名な佐川美術館の協力のもとで展覧されるもので、代表作「仏教伝来」に関連するシルクロードの旅を巡る作品やユネスコ世界遺産関連の作品や延暦寺や法隆寺などを描いた作品など88点が一堂に介する展覧会でした。平山芸術の色彩豊かな日本画の世界が楽しめます。

碧南市藤井達吉現代美術館では、富岡鉄斎展は幕末から明治大正を生き抜いた最後の文人画家として有名な富岡鉄斎の没後100年を記念した展覧会で、儒学・陽明学、国学・神道、仏教等の諸学を広く学び、南宗画、やまと絵等をはじめ多様な流派の絵画も独学した鉄斎の画業に加え、制作に使われた筆や硯、印譜などの資料も網羅されていました。絵に書を加えた画賛作品はユーモラスかつ大胆な表現で今なお人気の一因を感じます。こちらの展覧会は会期を終了しておりますが、他の展覧会は12月8日まで開催中です。

さて、僕がもっとも目を惹いたのが、稲沢市荻須機縁美術館での安野光雅展です。42歳の時に文章のない絵本「ふしぎなえ」を刊行してデビューを果たした遅咲きの絵本作家、安野光雅。数々のベストセラー絵本を生み、小さなノーベル賞とも称される国際アンデルセン賞画家賞など国際的な絵本賞を数多く受賞した氏の代表作の原画が並ぶ絵本で旅するような素敵な展覧会です。

画風の特色である細密で描かれた作品は画面の隅々にアイデアが施されイマジネーション・ワンダーランドの副題そのもので観る人が安野ワールドに没入していきます。シンデレラの古典童話から切り絵による昔話、森と同化する動物たちのかくし絵など観る人に楽しみを演出する作品も魅力的でした。世代を超えて誰もが楽しめる展覧会は12月8日まで開催中ですのでぜひご鑑賞ください。

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映画 海の沈黙:倉本脚本の集大成

2024年11月25日 | 【映画・ドラマ・演劇】

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久しぶりの映画レビューは、倉本聰が描く渾身の脚本の映画化「海の沈黙」です。

青春時代に影響されたドラマの脚本家、倉本聰さんのその集大成となる脚本が映画化されました。また、その脚本が芸術の世界を中心にしたミステリーとなればアートの仕事に携わる者としては観らずにえません。

主演は本木雅弘でかつての恋人役には小泉今日子。かつて天才と騒がれた本木演じる孤高の画家、津山竜次。恋人だった安奈は、竜次の芸大時代の恩師、田村と夫婦の関係に。田村の展覧会に並べられた作品の中に贋作があり、その贋作を描いた人物は誰か?そして北海道で入墨の女性の遺体が発見され、二つの事件の容疑者として竜次が浮かび上がる。

女性の遺体と贋作の真相が徐々に浮かびあがっていくミステリーとして、倉本聰らしい心象風景とての物語が展開されていきます。本木雅弘は、孤高の画家である津山竜次を演じ、画家本来が持つ芸術に対する狂気と執念を時に静かに、時に荒々しく演じており、時代と共に変化する絵画ビジネスと普遍的な絵画の本質を倉本聰の視点として語っています。また、若松節朗監督も、地味な作品ではあるけど、極寒の地と消息不明となった画家の描く作品と半生をうまく具現化しています。

なぜか、鑑賞者は高齢者が多く、僕のような中高年は少なかったのは、最近、話題となったドラマ「やすらぎの郷」の影響なのかと揶揄してしまいますが、北の国から世代の人に贈られた作品に思えてなりません。アート好きにも、ぜひ観てほしい作品です。

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相国寺展 愛知県美術館

2024年11月19日 | 【美術鑑賞・イベント】

室町時代、三代将軍・足利義満により創建された相国寺。金閣、銀閣の通称で観光名所としても知られる鹿苑寺、慈照寺を擁する臨済宗相国寺派の大本山と知られてますが、最近では若冲ブームにより相国寺承天閣美術館を訪れる人により広くその名を知られるようになりました。今回の展覧会は承天閣美術館開館40周年を記念した展覧会で、国宝、重要文化財45件を含む大規模な寺跡を辿る展覧会となっています。

残り一週間余りと会期終了近いレビューになりましたが、前期、後期と観覧して感じたのは、相国寺の成り立ちから考えれば、当然のことながら墨蹟の数が多いのは当然としてその歴史的な価値からも重要文化財に指定されているのも多いです。そこに対しては割愛しますが、相国寺高僧の肖像画や中国絵画の名品などを観るにつけ、中国の明時代に五山制度を始まりと大相国寺にならい相国寺が創建された点でもこの時代に南画などの中国絵画への影響が理解できます。

その中国絵画を学び、影響を受けたのが円山応挙であり、伊藤若冲で、なかんづく狩野派の絵師たちにも及んでいます。そうした影響を比較しながら鑑賞するのも面白いです。後期展示として個人的には、やはり円山応挙の「牡丹孔雀図」と長谷川等伯の「萩芒図屏風」で応挙の孔雀牡丹図は背景を描かず牡丹を余白に配し孔雀の絢爛さが際立つ優美な作品でした。また等伯の萩芒屏風は、風に揺らぐ生い茂るススキと控えめで清楚な萩の花々の対比が見事でその姿を墨のみで描く等伯らしい作品で、どちらも時代と共に重要文化財になるでしょう。

また、相国寺といえば若冲作品の数で群をぬきますが、今回は鹿苑寺大書院の襖絵が目玉でしょう。他にも掛軸が数点並びますが、撮影不可ですので関連として愛知県美術館の所蔵品として木村定一コレクションで伊藤若冲、与謝野蕪村などの写真撮影可能な作品が展示されています。

美術ファンにとっては、今のこの時期でも観覧した方が有意義な展覧となっていますので、お見逃しなく神社、仏閣に興味のある方も含め訪れてみてください。また、明年3月29日からは、東京藝術大学美術館での巡回展となっています。関東方面の方はぜひご鑑賞ください。

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田中一村展 奄美の光 魂の絵画 東京都美術館

2024年11月11日 | 【美術鑑賞・イベント】
田中一村展 – NHKプロモーション
 
 
田中一村と言う日本画家を知る人は少ないかと思います。ただし、奄美大島で暮らす孤高の画家と言えば田中一村を思い出す美術ファンも多いのでは。田中一村は1908年に東京に生まれ、1977年に亡くなります。幼少期には神童と呼ばれ、東京美術学校(現東京藝大)に入学しますが、まもなく中退。千葉市に転居後は支援者に依頼品や青龍社や日展に出品しますが落選。中央画壇に失望し鹿児島でのスケッチ旅行を経験する中で50歳に奄美大島に移住。大島紬の工場や漁師などで生計を立てながら画家活動を続け、古希の70才を迎える前の69才にてこの世を去ります。
 
今回の展覧会は、神童ぶりを発揮する幼少期の南画作品や木彫家の父の手伝いを通じた木彫作品、東京美術学校を僅か2か月で父の病気で中退するも、田中米邨の雅号でパトロンも多く一家の生計を支えていた時代の作品は、当時人気を博した南画の手法で幼少期から20代の若さで見事な作品が並びます。
 
戦前戦後の作品は、南画を中心の墨彩画が多いのですが、狩野派の流れを持つ琳派風の作品も多く、鮮やかな芍薬や椿などの花鳥画は絢爛美を感じました。千葉での一村時代には、後に中央画壇への失望となる青龍社で出品の作品が並び、初入選作となる「白い花」や連作となる「秋晴」の落選による「波」の入選辞退は、会場芸術を唱える新しい日本画への期待と絶望の現れではないかと思います。
 
日展や院展に出品するも落選を重ね、皮肉にも東山魁夷や加藤栄三、橋本明治など東京美術学校の同期の活躍と反するように中央画壇から距離を置くも千葉時代の支援者の支えもあって、一村の作品を観ると衰えを知らない力強さを感じました。この時代に花鳥画には、後に続く奄美での斬新な画法の一端を感じました。
 
そして鹿児島でのスケッチの中で出会った蘇鉄により奄美の画家の誕生と繋がるのですが、南国の風土の中にある自然美は一村により世の中に浸透していったのではと感じます。画面いっぱいに描かれる奄美の木々は光に照らされて墨色に染まり、色とりどりの花や蝶と見事なコントラストで魅了します。
 
日本画の手法で描かれながらも西洋の趣さえも漂う作品はまさに一村でしか描けないものだと思います。古希を前に意欲的に作品を発表しようと気概は、図らずも自らの寿命で絶たれますが、終焉の地で育まれ、こうして、その名と作品が広く知れ渡りました。
 
今期、ベスト1の展覧会と誰もが口をそろえる田中一村の奄美の光と魂の絵画をぜひ鑑賞してみください。

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