礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

「戦争終結について直ちに手段をとれ」

2016-08-09 05:52:18 | コラムと名言

◎「戦争終結について直ちに手段をとれ」

 この間、中村正吾秘書官、および黒木勇治伍長の「日誌」によって、七一年前(一九四五年)の「今ごろ」の出来事を紹介している。出典は、それぞれ、中村正吾著『永田町一番地』(ニュース社、一九四六)、および黒木雄司著『原爆投下は予告されていた』(光人社、一九九二)である。
 本日は、『永田町一番地』から、八月九日と八月一〇日の日誌を紹介する(二二九~二三三ページ)。

 八月九日
 宣戦布告とともにソ連軍は本未明より、満ソ国境から一斉に進撃を開始し、また満鮮の諸都市に対し爆撃を加へた。
【一行アキ】
 午前八時、東郷〔茂徳〕外相は急遽、鈴木〔貫太郎〕首相をその私邸に訪問した。外相は、鈴木首相に対し事態かくなる上は、ポツダム宣言の即時受諾以外に、大御心に副ひ奉り、日本および日本国民を完全なる破壊から救ふ道はない、との意見を述べた。鈴木首相も同様の意見である。それで、鈴木首相は同十時、直ちに参内、右の旨を奏上した。
【一行アキ】
 事態は一刻の猶予も許さないものがある。戦局は加速度的に進展し始めてゐる。鈴木首相の宮中からの退出を待つて、同十時半から首相官邸に、最高戦争指導会議構成員会議が開かれた。構成員、鈴木首相、東郷外相、阿南〔惟幾〕陸相、米内〔光政〕海相、梅津〔美治郎〕参謀総長、豊田〔副武〕軍令部総長が会合し、三時間に及んで、△△〔二字不明〕に対し深刻な検討を加へた。鈴木首相、東郷外相、米内海相らは、ポツダム宣言即時受諾、戦争終結の意見であるに対し、阿南陸相、梅津参謀総長、豊田軍令部総長らは、今、一戦を交へ、而る後戦争を終結すべしと主張して譲らない。一戦を交へて、その後にどうなるかといふ見通しはない。東郷外相らは一戦もよからう、然し、その後の成算なくては、無意味であるとの意見を固持した。ポツダム宣言の即時受諾の決定に至らず、討議三時間、この六頭会合は散会し、問題はひきつづく臨時閣議に持ち越された。この会合の途中、米国が長崎に対し、第二回目の原子爆弾攻撃を加へたとの報告が入つた。
 緊急閣議は二時半から開催された。この閣議でも依然として、さきの六頭会合の意見がそのまま蒸し返へされた。しかし大体、それでは、ポツダム宜言を如何なる形で受諾すべきか、といふ問題が討議の焦点となった。東郷外相らは、ポツダム宣言受諾には唯一の絶対的条件がある。それは国体護持といふことで、この条件にて、ポツダム宣言は即時受諾すべきであると手張した。これに対し阿南陸相らは
一、日本軍の武装解除は日本自身の手でこれを行ふこと
一、戦争犯罪人の処罰は日本側においてこれを行ふこと
一、占領軍上陸の場合、東京はそれより除外すること.
の三条件を付してポツダム宜言を受諾すべきであるとの意見を強硬に主張した。
 閣議は紛糾のまま同五時半一旦休憩となり、同六時半から再開、十時半まで続行された。如何なる形ポツダム宜言を受諾すべきかについて閣僚の発言が求められ、東郷外相らの意見に賛するもの七名、阿南陸相らの意見に賛するもの三名、他の閣僚は賛否を留保し、閣議は割れたまま散会した。
【一行アキ】
 そこで、鈴木首相は、閣議不統一のままを奏上し、聖断を仰ぐべく、最高戦争指導会議召集の手続きをとつた。
【一行アキ】
 この御前会議は午後十一時五十五分、開会され、翌午前三時に及んだ。
 会議には、構成員たる首相、外相、陸相、海相、参謀総長、軍令部総長の外に、平沼〔騏一郎〕枢府議長が列席した。まづ東郷外相より発言があり、外相はポツダム宣言を、天皇の国法上の地位を変更するの要求を含まざるものとの諒解の下に、即時諾する方がよいとの意見を述べた。米内海相は、外相の意見と同様の意見である。これに対し、阿南陸相、梅津参謀総長、豊田軍令部総長は何れも反対の意見を述べ、平沼枢府議長また所見を開陳した。平沼枢府議長は「天皇の国法上の地位を変更するの要求を含まざるものとの諒解の下に」とは天皇の地位を保つに適当でない、「天皇の国家統治の大権を変更するの要求を含みをらざるものとの諒解の下に」とすべきであると主張した。かくて論議は依然としてまとまらない。そこで、陛下が御発言になり、自分は、外相の意見に賛成である、何となれば、九十九里浜の要塞構築といふが、何も出来てゐないではないか、新編成の軍隊には装備がないではないか、この情況では戦争続行は不可能である、戦争終結について直ちに手段をとれ、との旨相当厳しい意見を述べられ、論議をさまらぬ会議に聖断を下し給ふた。

 八月十日
 この御前会議を終るや、鈴木首相は、折柄、首相官邸に待機中の閣僚を会して、午前三時十分、臨時閣議を開催、聖慮のままを閣議決定とした。
【一行アキ】
 ついで午前七時、東郷外相は、中立国たるスイス国およびスエーデン国、駐剳〈チュウサツ〉のわが公使に打電し、日本は、ポツダム宣言が天皇の国家統治の大権を変更するの要求を包含しをらざる了解の下に、これを受諾する旨の通達方を依頼した。
【一行アキ】
 ○○○○○〔五字分空白〕二時から同四時半まで臨時閣議が開かれ、日本のポツダム宣言受諾回答に関する善後措置が協議された。その席上、これが発表の問題も討議された。この結果、閣議終了とともに次の如き情報局総裁談が公表された。
【一行アキ】
 敵米英は最近頓に〈トミニ〉空襲を激化し一方本土上陸の作戦準備を進めつつあり………
加ふるに昨九日には中立関係にありしソ連が敵側の戦列に加はり………今や真に最悪の状態に立ち至つたことを認ねざるを得ない。
 正しく国体を維持し民族の名誉を保持せんとする最後の一線を守るため政府は固より〈モトヨリ〉最善の努力を為しつつあるが一億国民にありても国体の護持のためにはあらゆる困難を克服して行くことを期待する。
【一行アキ】
 この情報局総裁談発表に並行して、飽く迄徹底抗戦を主張する「全軍将兵に告ぐ」との阿南陸相談を陸軍報道部は陸軍省記者会を通じ紙上掲載方を命じた。下村情報局総裁は、驚愕して直ちに電話で阿南陸相に質したところ「すべて自分の責任である」との答へであつた。

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