礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

真の生は、死と対峙したときのみ光芒を放つ(野村秋介)

2023-05-17 04:10:08 | コラムと名言

◎真の生は、死と対峙したときのみ光芒を放つ(野村秋介)

 国立国会図書館に赴いて、野村秋介著『さらば群青――回想は逆光の中にあり』(二十一世紀書院、一九九三)を閲覧した。同書は、すでにデジタル化されているので、モニター画面での閲覧となる。
 原雄一さんが、最初、中村泰受刑者に読み聞かせたのはどの箇所だったのか、本を読んだ中村受刑者が嗚咽したのはどの箇所だったのか、などと考えながら閲覧した。
 ほかにも調べ物があったので、全ページに目を通すことはできなかったが、いくつか、印象に残ったところがあったので、それを紹介してみる。

 私は泌々【しみじみ】思うのだが、明日の命を保障されている人など一人もいない。「一日一生」という言葉があるが、かかる覚悟なくしての生涯こそ、無味乾燥の哀れをきわめた生きざまではあるまいかと、私は若いときから思い続けてきた。
 戦後日本人は、「死」や「暴力」といった実は避けては通れぬ大命題を、まやかしの平和論とすり替えて、なるべく触れたり直視したりすることを忌み嫌ってきた。
 人間は「死」とは無縁ではあり得ない。社会は「暴力」と無関係ではあり得ない。眼をそらし続けようと思えば思うほど、人間は正気を失い堕落してゆく。
 私は学歴があるわけでもないし、これといって何の取柄もない凡庸な人間である。敢えて何らかの特徴を挙げよといわれれば、戦後五十年、日本人が最も忌み嫌ってきた「死」や「暴力」といった問題について、常に距離を置きながらも、寸時として眼をそらすことなく生き続けてきた、というくらいのことだろう。是非は別だ。しかしその現実が、私の短い命を常に内側から暖めてくれていたし、何事によらず充足感を与え続けてきてくれたのだと断じて過言ではあるまい。そう思っている。

 これは、「はじめに」の中の一部。ページでいうと、2~3ページ。

 久しぶりに机に向かってみた。窓の外は五月の青葉が風を孕【はら】んで、まさに海辺で波の音を聴くごとくである。人間という生きものは、考えれば考えるほど、摩訶不思議な存在だと、つくづく考えさせられる。この五月の濡れたような新緑も、風の音も、年齢によっても、環境によっても、まるで響きが異なる。もはや私も若くはない。ましてや戦闘者としての生命【いのち】の幕を、いずれ遠からず自らが切って落とさなくてはならぬと、日々、自問自答しているだけに、ひときわそのことを感じる。
 と、ここまで書いて、ふと面白いことに気づいた。私が先に『友よ荒野を走れ』(二十一世紀書院刊)を上梓した折、警視庁の公安部の連中は、
「これは野村秋介の遺書だ」
 と、いっとき騒【ざわ】めいたと仄聞【そくぶん】している。とすれば、かかる物騒な題名の新刊を世に送れば、彼らはまたまた目を丸くせずばなるまい。可笑【おか】しな話だ。私は戦闘者の自覚を持って、民族派の活動に入って以来、今日まで日々を最後の日、この勝負が最後の時、と常に己にいい聞かせて生きてきている。その詳細については、『友よ荒野を走れ』の中でも書いているし、折あるごとに文字にもしている。人間、明日などという時間を持っている奴は一人もいない。妙な例だが、明日のことが分かるなら、交通事故で死ぬ奴など一人もいやしない。いや、明日のことどころか、五分先、一分先のことすら分からずに生きている、然るが故に人間は、常に饒舌【じようぜつ】となり、怠惰【たいだ】を纏【まと】った日常を生きることになる。人間の真の生とは、常に死と対峙したときのみ光芒を放つのだと、私はいい続けてきた。
 まして我々は、自ら進んで民族派活動家としての道を選択したのではないか。獄に投じられることを恐れて何ができる。生命を賭けることを恐れて何ができる。

 これは、第Ⅰ部「さらば群青」第一章「さらば群青」の冒頭部分。第Ⅰ部第一章は、この本のために書き下ろされたのではないかと思われる。ページでいうと、9~10ページ。
 原雄一さんが、中村泰受刑者に読み聞かせたというのは、たぶん、この二か所のいずれかだったのではあるまいか。
 もうひとつ、紹介したい文章があるが、これは次回。

*このブログの人気記事 2023・5・17(9位になぜか高楠順次郎)

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