◎満州語のumeは日本語のユメと音義・用法が似ている
昨日に続いて、山中襄太『国語語源辞典』(校倉書房、1976)の紹介である。
本日は、ふたつの項目を紹介させていただこう。
えびら【菔】 矢を入れて背負う具。[考]大言海は,蚕を飼うカゴを意味するエビラの ように,もと竹で編んだので,エビラヤナグヒといったを,略してエビラといった語だろうと説明している。そしてそのエビラについては,葡萄葛(エビツラ)の略で,もと葡萄の蔓で作ったものかという。しかしこの説明は,どうもうなずきがたい点がある。満州語にエビラとそっくりのjebele(エビレ,矢筒)という語があるのと関係があるのではなかろうか。満州語の史書「満文老檔」(I,p.443)に,beri(弓)jebele be(矢筒を) beye ci (身から)ume hūwakiyara (ゆめ離すな),「満州実録」(p. 282)に,jeb ele(矢袋),beri (弓),niru(矢)など。〈110ページ〉
最後に、『満文老檔』(まんぶんろうとう)という史書から例文の引用がある。満州語のことはよく知らないが、これを見ると、満洲語の語順は、日本語と同様である。しかも、満洲語の「ume」は、日本語の副詞「ゆめ」とよく似ている。
そこで次に、「ゆめ」を引いてみた。
ゆ-め【努力,努,勤】 大言海――斎(イ)めノ転音。類書纂要「努力,用心也」。強ク禁止スル意ヲ云フ語。物毎ニ斎ミ慎ミテ,何ニテモヒタスラニ其事ニツトムル。慎ミ務メテ。決シテ。神武即位前紀 「努力(ユメ)慎焉」万葉集7「佐保山ヲオホニ見シカド今見レバ,山ナツカシモ,風吹クナ勤(ユメ)」「努力(ユメ)疑フコト勿レ」「努力(ユメ)ナ怠リソ」。[考]斎(イ)メすなわち謹ミメ,注意セヨの意と解して,よく通じるようである。皇極紀4年4月に「慎矣慎矣(ユメユメ)勿令人知」,同6月に「努力努力(ユメユメ)急須応斬」とあるなど,謹ンデの意で,よくわかる。この語は,もとは肯定で結んでよかったのだが,後にはほとんど禁止で結ぶ習慣になったようである。偶然の類似か,関連があるかは未定だろうが,音義用法もよく似た umeという語が,満州語の史書「満文老檔」に,さかんにでている,たとえば――ulin be ume gūnire(財-を-ユメ-思うな)erdemu be gūni (徳-を-思え),bahara be ume nemisere (得る-を-ユメ-貪るな)tondo be nemse(正-を-貪-れ)(I, p.60)など。このumeにも,あるいは斎(イメ,ユメ)の義があるのか。別にまたumaiという形が,「満洲実録」(p.202)に次のようにでている―― muse juwe gurun (吾等-両-国)daci umai ehe aku bihe(始めから-ユメ- 悪く-なかった)。しかしumeという形は,さかんにでている。たとえば jui be ume wara(児-を-ユメ-殺すな)など。〈613ページ〉
『国語語源辞典』は、こういうふうに、たいへん興味深く、たいへん勉強になる辞典である。このあとも、折に触れて、項目を紹介してゆきたい。
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