礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

「勁草全書」発刊のことば(1949)

2018-10-09 05:14:13 | コラムと名言

◎「勁草全書」発刊のことば(1949)
 
 何年か前に、古書店で、矢部貞治著『政治学』(勁草書房、一九四九)という本を買い求めた。勁草全書の一冊で、巻末に、「『勁草全書』発刊のことば」という一文がついている。
 いかにも、その時代を感じさせる文章である。本日はこれを紹介してみたい。
 ちなみに、私が買い求めた本には、「From the author / Sept.25th,1949」という書き込みがあり、「東畑」という蔵書印が捺してある。たぶん、矢部貞治〈ヤベ・テイジ〉が東畑精一〈トウバタ・セイイチ〉に贈呈したものであろう。

  『勁 草 全 書』発刊のことば
 文化国家建設という目標を高く掲げて、祖国再建の大道を邁進している我国文化の現状は果してその名に恥じない発展過程にあるでありましようか。私は残念乍ら〈ナガラ〉未だ真の文化国家に値する状態と言えないと思います。
 特に最近に至つては、文化の先駆たるべき出版事業が経済情勢の悪化に伴い、益々苦しい環境にあるを以てしても、その一面を物語つていると言えましよう。茲において、私共は出版のもつ文化的役割を再認識し、新しい意慾と知性を以て日本文化の新しい歴史を創造しなくてはならないと思います。
 かかる秋〈トキ〉、この出版界を吹き荒ぶ〈スサブ〉疾風に耐えて、勁草の本分を発揮すべきは現在に於て他にないと信じます。勁草書房が先に「法学叢書」「法学普及講座」の企画を発表し、順調に発刊を続けているが、これに次ぐ第三弾として江湖に送らんとする「勁草全書」の意図も亦ここに存するといえましよう。
 之は従来の我社出版の特色を生かすと同時に、新制大学教科書並に参考書としての最高峰を目指しつつ、又一般の教養書として寄与するところ決して尠しとしないでありましよう。
 即ち、安部能成〈ヨシシゲ〉、和辻哲郎、天野貞祐〈テイユウ〉、我妻栄〈ワガツマ・サカエ〉四先生の御監修を頂き、その執筆陣は、名実共現在我国学界の最高権威を網羅して編集の完璧を期した次第であります。
 経済情勢の悪化はこの事業の前途に幾多の困難を伴うこともありましよう。けれども私は、社会の一勁草としての自己の使命達成に向つてその荊棘〈ケイキョク〉の道を踏み越えて進むの外はないのであります。
 願わくば世の読書子並に学生諸兄の御期待と絶大なる御声援を念願いたします。
  昭和二十四年九月     勁 草 書 房/主幹 逸 見 俊 吾

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