礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

ナチス指導政治の本家本元は日本(大谷美隆)

2015-08-18 04:22:51 | コラムと名言

◎ナチス指導政治の本家本元は日本(大谷美隆)

 昨日の続きである。大谷美隆の論文「ナチス憲法の特質」(一九四一)を紹介している。本日はその二回目(最終)。本日、紹介するのは第三節「結語」の全文である(一三四~一三五ページ)。

 第三節 結 語
 以上を以て大体主なるナチス・ドイツ憲法の特質を述べた。之を要するに、ナチス・ドイツは、従来各国の憲法とは全く異なる新しい型の政治を創設したのである。従来の個人主義自由主義の憲法では、行き詰つたので新しい政治型を創設したのである。これをドイツでは、「指導者原理」と云ふてゐるが、私は、「指導政」と名付けてゐる。即ち「独裁政」「民衆政」に対し「指導政」と称する新しい政体が出来たのである。中世君主政は、独裁政であつたが、立憲政治となつてからは、民衆政となつた。然るにドイツ人には、民衆政は適合しないし、それではドイツ国は没落する外はない事となつたので、ヒトラーが、新しい指導者原理と云ふ指導政を唱へ出し、遂に成功して、指導政治を行ふ様になつたものと見るべきである。此所に革命的意味が存在するのである。
 併し私は、吾〈ワガ〉日本は、三千年前から既に指導政であつたものと思ふ。天皇政治は決して独裁政ではない。さりとて民衆政でもない。吾国が君主国である限り民衆政と云ふことは許されない筈である。何となれぱ、真に民衆の多数決を以て政治を為し得るならぱ、天皇には統治権は無い事となるからである。然らば日本は如何なる政体かと云へば、即ち「指導政」である。天皇は日本民族の指導者であらせられる。其天皇の指導政治を輔弼し奉る者が国務大臣である。斯様〈カヨウ〉に考へれば、吾国こそ「指導政」の本家本元である。西洋では八年前にヒトラーが初めて遣り〈ヤリ〉出した政体であるが、吾国は三千年前の神代〈カミヨ〉から行はれてゐる。其本家の筈の日本が、実は民衆政の真似をして、議会中心主義とか、天皇機関論とかを唱へてゐたのである。
 然るに、漸く最近、眼が醒めて、昭和十年〔一九三五〕以来の国体明徴運動となり、天皇機関説が排撃せられ、昭和十五年〔一九四〇〕から、新体制運動となつて、個人主義自由主義を廃棄して、全体主義統制主義に換へられることとなつた。これを政治上に於て云ふと、従来の民衆政的遣り方を変へて、「指導政」と改めることが新体制である。これで初めて、本当の日本の政治形体に還つた事になるのである。
 斯様に考へると、ナチス・ドイツの憲法は、日本の憲法解釈にも重大なる示唆を与へるものと云はねばならない。勿論同じではないけれども、重大な参考となるものと云はねばならないのである。(一六・八・一三)

 大谷美隆は、ナチス・ドイツの政治体制を、指導者(ヒューラー)を中心とした「指導政」と位置づける。さらに、日本の政治体制もまた、実は、三千年前も前から、天皇を中心とした「指導政」であったとする。
 この大谷の解釈で興味深いのは、日本の政治体制は、三千年前も前から、天皇を中心とした「指導政」であったと捉えている点ではなく、むしろ、一九三五年の国体明徴運動が起こる以前、あるいは、一九四〇年に「新体制」に移行する以前の日本は、「民衆政の真似」をしていたと捉えている点だと思う。
 すなわち大谷は、この間、日本の憲法状況に、大きな変動があったことを認め、かつそれを、「本当の日本の政治形体に還つた」と解することで、全面的に肯定している。
 この論文を読んで、私としては、次の三つの課題をみづからに課し、今後、それらについて検討してゆきたいと考えている。そのひとつは、こうした大谷の「理論」は、ドイツの国法学者オットー・ケルロイターの理論、あるいは、彼の日本政体理解を踏まえているのではないかと思われるが、これについて研究してみたい。
 ふたつ目に、一九三五年(昭和一〇)の天皇機関説事件、国体明徴運動を推進した勢力は、それに二年先立つ、いわゆる「全権委任法」の成立=ヒトラーの独裁承認(一九三三年三月)というドイツの政治状況を、多分に意識していたのではないかと思われるが、これについても研究してみたい。
 この大谷美隆は、戦後においても、憲法学者として研究生活を送っていたようだが、その憲法学説は、戦後、変化したのかしなかったのか、確認してみたい。これが、三つ目の課題である。

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