礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

松尾文夫氏、ドーリットル空襲・隊長機を目撃

2015-08-19 05:43:13 | コラムと名言

◎松尾文夫氏、ドーリットル空襲・隊長機を目撃

 先月一九日以降、断続して、松尾文夫氏の『銃を持つ民主主義』(小学館、二〇〇四)という本を紹介した。松尾氏は、小学生のころ、ドーリットル空襲の隊長機を目撃したという。本日は、『銃を持つ民主主義』から、その体験を回想しているところを紹介してみたい(八~一〇ページ)。

 初めてアメリカ人の顔を見たのもこのころである。それも東京を中心とする本土奇襲爆撃で日本軍部を動揺させ、ミッドウェイ海戦での敗北を誘発したことで歴史に残るドーリットル爆撃隊のパイロットとの対面であった。
 真珠湾奇襲攻撃後の戦勝ムードがまだ色濃くただよっていた一九四二年〔昭和一七〕四月十八日の昼すぎ、私は現在も新大久保駅近くの山手線内側に存続する戸山国民学校(現戸山小学校)の校庭に出ていた。三年生になったばかりで、土曜日の授業が終わった直後だった。山手線の反対側に広がる戸山ヶ原演習場に近い、いまでは一大エスニック・タウンとなっている百人町に住み、歩いて通っていた。
 突然、東の保善商業、海城学園の方向の空から大きなエンジン音が聞こえ、双発で尾翼の両端がたてに立った見たこともない、巨大な飛行機が現われ、あっという間に西の新宿の方に消えていった。つまり私の目のななめ上を右から左に飛んでいった。
 本当に地上すれすれを飛んでいた。二階建ての校舎にぶつからんばかりだつた。おかげで風防ガラスでおおわれた操縦席の手前側、機内では進行方向右側にすわっていた白人の乗組員の顔がよく見えた。濃い茶色の革の飛行服を着て、白い顔と高い鼻がはっきり記憶に残っている。機体はカーキ色で胴体にブルーの星の標識があった。
 アメリカの飛行機だとわかったのは、飛行機が去ったあと東の空に高射砲からと思われる黒い弾幕が張られ、さらにすこしたって空襲警報のサイレンが鳴りわたったときである。そのときでもまだ「敵機来襲」という恐怖感はわいてこず、巨大な飛行機に初めて接した興奮の方が大きかったような気がする。本当に恐ろしくなったのは、家に帰って母親にことの次第を報告すると、こわい顔で「一切他言しないように」と強くいい渡されたときからである。その夜何度もうなされたことを昨日のことのように覚えている。
 私が遭遇したこの飛行機が東京初空襲のドーリットル爆撃隊の隊長機であったことを裏付ける幸運な材料がある。作家の吉村昭氏が二〇〇一年七月発行の『東京の戦争』(筑摩書房刊)のなかで、同じ日、ほぼ同時刻に日暮里の自宅の屋根うえの物干台で凧を揚げているときに、「凧がからみはしないかとあわてて糸を手繰った」ほどの超低空で目の前を通過した双発機を見たと書いているのである。吉村氏はこの飛行機がドーリットル爆撃隊のB25のうちの一機であり、二人の飛行士は、オレンジ色のマフラーを首にまいていたと証言している。しかもこの吉村証言は、戦記作家である半藤一利氏が米側の資料まであたって詳細に検証し、その結果を発表した「月刊文藝春秋」二〇〇二年五月号の「4・18東京初空襲あの爆撃機は?――『東京の戦争』歴史探偵調査報告」と題する記事のなかでその大筋を確認している。
 半藤氏によると、空母ホーネットを決死の覚悟で発進したドーリットル爆撃隊B25十六機のうち、東京上空を飛んだのはドーリットル隊長機を含めて六機。各々の航跡を地図入りで再現し、吉村氏の自宅横を飛んだのはまさにドーリットル隊長機そのものであると断定している。隊長機の航跡は日暮里吉村邸下から中野方向に描かれており、わが戸山国民学校付近は間違いなくその線上にある。そして半藤氏の労作によると、私が見た白い高い鼻の乗組員は進行方向右側の副操縦席にいた副操縦士のリチャード・コール中尉ということになる。残念ながら正操縦士席にいた隊長のジェームズ・ドーリットル中佐には、私は対面を果たさなかったということになる。それにオレンジ色のマフラーは私の記憶には出てこない。

 非常に迫力ある描写である。しかし、この文章を読んで、一か所、どうしても引っかかるところがあった。これが非常に気になった。ごく最近になって、これは誤記だったことが判明し、胸のツカエがおりた。
 さて、その誤記の部分は、どこだったのでしょうか。コラムの読者諸氏には、ぜひ、その誤記の部分を指摘していただきたいと思います。

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