『脱限界集落株式会社』を読んでから、その前編に当たる『限界集落株式会社』を借りて読もうと思ったら、残念ながら貸し出し中。
そこで借りてきたのが、同じ黒野伸一さんの、「となりの革命農家」(廣済堂出版)。
何をやっても長続きしなかった和也が、夫の遺志を継いで有機農業にチャレンジする春菜と出会って、やがて2人で本格的に有機野菜作りに取り組み始める。
だが、しょせん有機農業の素人同士。
うまくはいかない。
だが、失敗し続けても有機農業にこだわって続けて工夫するうちに、少しずつ有機野菜づくりが軌道に乗り始める。
そんな2人のほかに重要な登場人物が、左遷されてその地域にある子会社アグリコジャパンにやってきた理保子。
彼女は、今まで通りの慣行農業とアグリパーク構想で、世界に勝てる農業を立ち上げ、本社に返り咲きをねらおうとする。
そうすることで、左遷にかかわった人たちを見返してやりたい、と思っていたのだ。
最初は、和也たちと理保子ではまったく方向性が違う農業を目指していた。
野菜の味などどうでもよいとしていた理保子だったが、やがて地域の農地が買収されそうになり、裏に大きな権力が隠れていることを知る。
地域の農業・農地を守るということで、地域の人々や和也たちとも結託して取り組むようになる。
前に読んだ「脱限界集落株式会社」もそうだったのだけど、この物語も、当初の主人公の活躍から、だんだん舞台がずれていき、金のない弱者対金のある強者の戦いになっていく。
登場人物は魅力的なんだけど、その戦いが中心になってしまうのが残念だ。
「となりの革命農家」というタイトルなんだから、有機農業にしても、新しい農業経営にしても、もう少しその難しさをえがいてほしかったなあ、と思う。
まあ、最後に、知恵を絞ってまとまってがんばった弱者が勝利する話なので、まるで水戸黄門を見ているような気分になれるのだが。
話の最後には、日本の農業のために、その地域に骨を埋める覚悟をしてとどまり、そのための経営的な仕事を選択した理保子が、格好よく好ましい。
気に入ったのは、
“有機農業は野菜が生育するのを人間が手助けしてやる農法。だから主役はあくまでも野菜“
ということに和也たちが気づいて、おいしい有機野菜を育てることができるようになったところ。
そうやって育てた有機野菜のおいしさに、理保子も目覚めていくのはほっとしたところだった。
本書を読了後、出発点の(?)「限界集落株式会社」も借りて読むことができた。
「限界集落株式会社」「脱限界集落株式会社」「となりの革命農家」。
3冊の本を読んで、著者の黒野伸一さんは、こうして農業でがんばる若者たちを主人公にして、痛快な小説を書いて、農業に携わる人たちに元気を与える作家なのだなあ、と実感した。
話がいずれもハッピーエンドになるのはちょっぴり安易かもしれないが、3冊とも読後感は爽やかである。
読んで心がほっとする作品、楽しかった。