日本男道記

ある日本男子の生き様

火事息子

2007年10月28日 | 私の好きな落語
【まくら】
林家正蔵の十八番中の十八番と言われている噺。
聞きどころは、後半の親子対面の場面。火事好きで、道楽者になったために勘当された息子が、火事だと聞いて活躍してくれる。その息子への感謝と、会えた歓びを必死にこらえて、世間の手前口では厳しいことを言う父親。素直に慈愛を見せる母親。それに感謝している息子。三人が醸し出す人情の機微。

【あらすじ】
神田三河町の、伊勢屋という大きな質屋。
ある日近所で出火し、火の粉が降りだした。
火事だというのに大切な蔵に目塗りがしていないと、だんながぼやきながら防火に懸命だが、素人で慣れないから、店中おろおろするばかり。
その時、屋根から屋根を、まるで猿のようにすばしこく伝ってきたのが一人の火消し人足。
身体中見事な刺青で、ざんばら髪で後ろ鉢巻に法被という粋な出で立ち。
ぽんと庇の間に飛び下りると、
「おい、番頭」
声を掛けられて、番頭の左兵衛、仰天した。
男は火事好きが高じて、火消しになりたいと家を飛び出し、勘当になったまま行方知れずだったこの家の一人息子・徳三郎。
慌てる番頭を折釘へぶら下げ、両手が使えるようにしてやった。
「オレが手伝えば造作もねえが、それじゃあおめえの忠義になるめえ」
おかげで目塗りも無事に済み、火も消えて一安心。
見舞い客でごった返す中、おやじの名代でやってきた近所の若だんなを見て、だんなはつくづくため息。
あれは伜と同い年だが、親孝行なことだ、
それに引き換えウチの馬鹿野郎は今の今ごろどうしていることやら……
と、そこは親。
しんみりしていると、番頭がさっきの火消しを連れてくる。
顔を見ると、なんと「ウチの馬鹿野郎」。
徳かと思わず声を上げそうになったが、そこは一徹なだんな。
勘当した伜に声など掛けては、世間に申し訳がないとやせ我慢。
わざと素っ気なく礼を言おうとするが、こらえきれずに涙声で、
「こっちィ来い、この馬鹿め。……親ってえものは馬鹿なもんで、よもやよもやと思っていたが、やっぱりこんな姿に……
しばらく見ないうちに、たいそういい絵が書けなすった……親にもらった体に傷を付けるのは、親不孝の極みだ。この大馬鹿野郎」
そこへこけつまろびつ、知らせを聞いた母親。甘いばかりで、伜が帰ったので大喜び。
鳥が鳴かぬ日はあっても、おまえを思い出さない日はなかった、どうか大火事がありますようにと、ご先祖に毎日手を合わせていたと言い出したから、おやじは目をむいた。
母親が法被一つでは寒いから、着物をやってくれと言うと、だんなはそこは父親。
勘当した伜に着物をやってどうすると、まだ意地づく。
そのぐらいなら捨てちまえ。
捨てたものなら拾うのは勝手……。
意味を察して母親は大張り切り。
「よく言ってくれなすった、箪笥ごと捨てましょう、お小遣いは千両も捨てて……」
しまいには、この子は小さいころから色白で黒が似合うから、黒羽二重の紋付きを着せて、小僧を供に……と言いだすから、
「おい、勘当した伜に、そんななりィさせて、どうするつもりだ」
「火事のおかげで会えたんですから、火元へ礼にやります」

出典:落語のあらすじ 千字寄席

【オチ・サゲ】
ぶっつけ落ち(意味の取り違えがオチになるもの )

【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『火事と喧嘩は江戸の華』

【語句豆辞典】
【臥煙(がえん)】
定火消、大名火消で働く火消人足のことで、町火消は刺子を着ているのに、こちらは褌ひとつで消火にあたった。倶利伽羅紋々(くりからもんもん)の彫り物をして、平常は押し売りやら、ゆすりたかりを働くので、嫌われ者だった。

【この噺を得意とした落語家】
・八代目 林家正蔵
・五代目 古今亭志ん生
・六代目 三遊亭圓生
・三代目 古今亭志ん朝

【落語豆知識】
【開口一番】寄席.落語会で最初演じられる物または人おもに前座が勤める。
 




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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
なんとなくオヤジの心理が.. (地理佐渡..)
2007-10-28 19:10:48
こんばんは。

話の流れから、オヤジの心理ってこうだよなぁと、
感じました。あとで子供みたいだと自分の意地っ
張りを振り返ったりです。
いやいや、笑い話ですが、人事とは思えぬ心理を
つかれたような気がします..(笑)。
で、話の最後の落としどころがまた良いです。
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Re:なんとなくオヤジの心理が.. (日本男道記 )
2007-10-28 21:06:56
こんばんは!

子を思う親心がよく表現されている噺だと私も思います。

落語には笑いの中にも、色々教えられます。
特に人情噺には。
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