祖国とは国語講談社このアイテムの詳細を見る |
【一口紹介】
出版社/著者からの内容紹介
文化も伝統も、日本という国はすべて言葉の中にある
国語こそすべての知的活動の基礎だと説く「国語教育絶対論」のほか、母・藤原ていの名著『流れる星は生きている』の原点を親子三代でたずねる「満州再訪記」、ユーモアあふれるほのぼの家族エッセイなど、話題満載
混乱の中で脱出した満州の地を訪れることは、長い間、私の夢であった。母の衰えが目立つようになったここ数年は、早く母と一緒に訪れなくては、と年に何度も思った。母が歩けなくなったり、記憶がさらにおぼろになったら、二度と私は、自分の生まれた場所を見ることはできない、と思うようになっていた。他方では、80歳を超え、体力低下とわがまま増大の著しい母を、連れて旅することの憂鬱も感じていた。――(本文より)
【読んだ理由】
大ベストセラー「国家の品格」の著者の本。
【印象に残った一行】
『日本人特有の美しい情緒は、これからの世界が必要とする普遍的価値である。産業革命以来、世界は欧米主導のもと、論理、合理、理性をエンジンとして、ただひたすら走り続けてきた。その間、帝国主義や共産主義は亡び、いま資本主義もおおきな転機にさしかかっている。
論理、合理、理性が極めて重要なものであることは言うまでもない。ただ、戦争、経済混乱、家族崩壊、拝金主義、核兵器、環境、治安、麻薬、テロ、エイズ、などといった、最近の世界の荒廃を見ると、これだけで人類がやっていけないことも明らかになってきた思う。
この苦境を打開するために、日本人一人ひとりが自然への繊細な感受性、自然への畏怖、もののあわれ、なつかしさ、などといった情緒を身につけ、論理や合理の他にも大切なものがある、ということを世界に発信し教えていくことが求められる。これこそが、日本人が今後果たしうる、最大の国際貢献と思う。成否は国語にかかっている。』
『特に国語はすべての知的活動の根幹である。国語は、思考の結果を表現する手段ではあるばかりか、国語を用いて思考するという側面もあるから、ほとんど思考そのもといってよい。これが十分な語彙と共に築かれていないと、深い思考が不可能となる。また国語を通して様々な文学作品に親しみ、そこから正義感、勇気、家族愛、郷土愛、愛国心、他人の不幸に対する敏感さ、美への感動、卑怯を憎む心、もののあわれ、などの最重要の情緒が身につけられる。日本の文化、伝統を知り、アイデンティティーを確立する際にも国語は中心となる。これらの中核となるのは、小中学生のうちに全力で基礎を固めておかないと手遅れになる。経済界の言うような瑣末な知識を小学生に与えるのは、まさに愚民化政策と言えよう。』
『祖国愛という視座を欠いた言説や行為は、どんなものも無意味である。これの薄弱な左翼や右翼は、日本よりも日中関係や日米関係を大事にする。これの薄弱な政治家やエコノミストや財界人は、軽々しくグローバリズムに乗ったり、市場原理などという歴史的誤りに浮かれたりして、祖国の経済ばかりか、文化、伝統、自然を損なって恥じない。これらの薄弱な教師や父母は、地球市民などという、世界のどこでも相手にされない根無し草を作ろうとする。これの薄弱な文部官僚は、小学校の国語や算数を減らし英語やパソコンを導入する。(中略)現在わが国の直面する困難の大半は、祖国愛の欠如に起因すると言ってよいだろう。祖国愛と国益主義を峻別し、すべての子供にゆるぎない祖国愛を育むことは、国家再生の急所と考える。』
【コメント】
著者の明快かつ説得力をもった論理展開には胸のすく思いがする。
小学生から英語を教えよう(現実にはそうなるらしいが)と声高に叫ぶご仁に読んでもらいたい。