岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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斎藤茂吉の短歌の魅力「白き山」

2020年05月11日 11時45分47秒 | 斎藤茂吉の短歌を読む
斎藤茂吉の第16歌集「白き山」

 ここには斎藤茂吉の晩年の代表作が収録されている。
 
 作者は戦争中に戦時詠を旺盛に詠み、終戦後「戦犯歌人」と呼ばれ、歌壇の一線を退いた。この失意を作品化したのが、この歌集である。

 ・「追放」といふこととなりみづからの滅ぶる(ほろぶる)歌を悲しみなむか
 
 歌壇の一線を退いた失意の念がひしひしと伝わってくる。

 ・運命にしたがふ如くつぎつぎに山の小鳥は峡(かひ)をいでくる

 小鳥が山あいから飛び立ってゆく。まるで運命に従うように。小鳥の名前は省略されている。何故か、上の句に心情の中心があるからだ。後に「表現の限定」として佐藤佐太郎に引き継がれた。

 ・オリーヴのあぶらの如き悲しみを彼の使徒もつねに持ちてゐたりしや

 キリスト教の使徒。キリストの弟子たち。ローマ帝国の迫害にあいながら教えを広めていった。迫害されている作者に重ねている。上の句の比喩がなんとも痛々しい。

 ・最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも

 この歌集の一連の最上川の歌で、もっとも知られている作品。「逆白波」という造語、結句の「なりのけるかも」の万葉調。これで吹雪で波が逆巻く夕暮れの情景を見事に表現している。



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