岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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日韓併合を詠う:石川啄木の短歌

2010年06月18日 23時59分59秒 | 私が選んだ近現代の短歌
・地図上の朝鮮国にくろぐろと墨をぬりつゝ秋風を聴く・

 『啄木歌集』(岩波文庫)「短歌拾遺」

 地図に墨をぬるというのは、朝鮮・韓国を日本領に併合したということである。それに続けて「秋風をきく」とあるからには、そこに悲しみを感じているということだろう。

 少なくとも啄木は「朝鮮の植民地化」を嘆いていたことになる。日韓併合条約にさまざま見解があることは僕も知っている。

 「批准書を交換していないから条約は無効だ」「いや、当時批准書を交換しないのは珍しくなかった」・・・。では勝海舟はなぜ咸臨丸で太平洋を渡ったのか。勿論、日米修好通商条約批准書の交換のため。ではなぜ「日韓併合条約」は・・・と言いたいところだが、少なくとも同時代の日本人が「植民地化」という意識をもっていたことはこの作品から読み取れる。

 どのくらいの人が感じていたか、その比率はこの場合関係ない。そう感じていた日本人がいたという事実が重要なのだと思う。

 石川啄木といえば「生活派」と呼ばれるが、「社会詠」の開拓者の側面もあった。そういうことを感じさせる一首である。

 結句の「秋風を聴く」がいかにも短歌らしい表現である。「秋」を詠った作品は古来多いが、うら悲しさや寂しさの象徴として詠われることが多い。啄木といえど、そういった短歌の伝統をふまえて作歌しているのも注目点のひとつではあるまいか。


 社会詠ではあるが、表現方法はまさしく浪漫派だ。



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