A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

TOUCHING WORD 035

2008-03-25 22:42:48 | ことば
しかも習慣はすべてを弱めるものだから、私たちにある人のことを最もよく思い出させるのは、まさしく私たちが忘れてしまったところのものということになる(中略)。だからこそ記憶の最良の部分は私たちの外部にあり、雨もよいの風や、ある部屋のかびくさい臭いや、ぱっと燃え上がったときの焔のにおいのなかなど、私たち自身のなかで知性が使い道も分からずに無視してしまった部分、過去のなかで最後までとっておかれた最良のもの、すべての涙が涸れ尽きたと思われるときもなお私たちに涙を流させるもの、そうしたものを見出すことのできる至るところに存在しているのだ。
(p.457 『失われた時を求めて3 第二篇 花咲く乙女たちのかげにⅠ』マルセル・プルースト 鈴木道彦訳 集英社/集英社文庫ヘリテージシリーズ2006.5)