A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

【ご案内】「藤永覚耶 展|とどまり ゆらめく keeping : moving」

2012-07-31 09:01:12 | お知らせ
下記の展覧会にテキスト提供&アーティストトークの聞き手として参加します。
お時間ございましたら、ご高覧下さい。

【展覧会】藤永 覚耶 展|とどまり ゆらめく keeping : moving
【会期】2012年7月31日(火) ─ 8月12日(日) 11:00~19:00 ※最終日18:00まで・月曜休廊
【会場】Gallery PARC(グランマーブル ギャラリー・パルク)
http://www.galleryparc.com/
【アクセス】
阪急河原町駅・三条京阪駅より徒歩10分、地下鉄東西線京都市役所前駅より徒歩3分
三条通・御幸町通の交差点北西角[グランマーブル]店舗内2階
入場無料

【イベント】
2012年8月5日(日) 17:00~
藤永覚耶によるスライドを交えた自作解説と、平田剛志(美術批評、京都国立近代美術館研究補佐員)を聞き手に迎えたアーティストトーク。

【概要】(プレスリリースより)
藤永覚耶(ふじなが・かくや / 滋賀・1983~)は、2006年に京都嵯峨芸術大学版画分野を卒業の後、2008年に愛知県立芸術大学 大学院美術研究科油画専攻を修了以降、これまでおもに愛知を中心に定期的な発表を続けています。本展は2011年から再び活動の舞台を京都に移した藤永にとって、はじめての個展となります。

藤永作品の特徴は、まずモチーフ(近年では森や植物)を写真により撮影し、その図像をもとに、布地にアルコール染料インクを用いて点描し、最後に溶剤でその図像を溶かすというプロセスにあります。それは、一見すると「写真をボカす=写真の持つリアリティを鈍くしていく」行為と呼べるものであり、作品の画面にはどこか不明瞭で抽象的なイメージが出現しています。しかし、藤永は「写真のピントが鮮明に合った箇所よりも、ボケやブレにリアリティを感じる。それは再現的なリアリティではなく、個人の先入観や価値観をぬぐい去った等価な世界に立ち戻るような真実味を持った感覚である」として、そのボケたイメージにリアルではなく「真実味」を見いだすと言います。
私たちの目に見える世界は、常に時間が流れ、その時々の光量や目の焦点によって、色・形といった知覚・認識すら不確かな「うつろい」の中にあるといえます。その一瞬を切り取り、すべてに焦点があった写真は、本来は知覚し得なかった世界の「イメージ」であるとともに、私たちはそのイメージから擬似的なリアリティを再現・変換しているといえるのではないでしょうか。

等価の点(情報)の集合である写真を、目と手によって点(図)に置き換え、溶かすことであらわれたボケた図像は、写真の持つリアリティやドキュメント性、作家の意図や意識、見る者の主観や想像など、私たちの知覚や認識を超えた世界の「ありのままの姿」を留めているのかもしれません。藤永は2009年より、その展示方法にも展開を試みています。布地のまま空間に吊り下げられた作品は、透過光や風の影響を受けてより不定形にゆらぎ、その一様でない姿を体験させるものとして取り組まれてきました。

これまでおもに愛知を中心に活動してきた藤永にとって、京都での初の個展となる本展では、平面作品を中心に構成し、その魅力を紹介いたします。また会期の8月5日(日)には、平田剛志(美術批評、京都国立近代美術館研究補佐員)氏を聞き手に迎えたアーティストトークを開催し、自作解説とともに、今後の作品展開についてのお話をうかがいます。

藤永覚耶Website
http://kakuyafujinaga.com/

memorandum 090 芸術の未来

2012-07-30 06:09:05 | ことば
 芸術の未来は、もうそんなに長くはない。なぜなら、すべての芸術が集団的なものとなったのに、今ではもう集団生活なんて存在しないからである(せいぜい、死んだ集団があるにすぎない)。そしてまた、肉体とたましいのあいだの真の結びつきがたち切られてしまったためでもある。ギリシアの芸術は、草創期の幾何学や運動競技と同じ時代の産物であったし、中世の芸術は職人たちの時代、ルネサンスの芸術は、機械時代の初めとそれぞれと一致していた……1914年以降、完全な断絶が生じている。喜劇すらも、ほとんど成立不可能なありさまである。かろうじて、風刺詩に余地が見出されるばかりである(ユウェナーリスの理解がもっとやさしかったのは、あれはいつのことだったか)。芸術の再生ということは今ではもう、非常にアナーキーのただ中からでなくては望み薄であろう。――おそらくは、叙事詩がよみがえることだろう。というのは、不幸のために、多くの事柄が単純化されてしまっているだろうから。……だから、あなたが、ダヴィンチやバッハを羨やんでも致し方がないのである。今日では、偉大であろうとするなら、もっとちがった道を歩むより仕方がない。しかも、それは、孤独で、晦渋で、どんな反響も呼ばぬものでしかありえないであろう……(ところが、反響がなければ、芸術もないのだ)。
シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫)』田辺保訳、筑摩書房、1995年、pp246-247.

 ヴェイユが、芸術を「孤独で、晦渋で、どんな反響も呼ばぬものでしかありえない」と、預言しえていることに驚く。

ちなみに、文中「1914年以降」とあるのは、第一次世界大戦の勃発を意味していると思われる。

また、「ユウェナーリスの理解がもっとやさしかったのは、あれはいつのことだったか」に出てくる「ユウェナーリス」とは、「健全なる精神は健全なる身体に宿る」や「パンとサーカス」の言葉で知られるデキムス・ユニウス・ユウェナリスのこと。
 「健全なる精神は健全なる身体に宿る」とは、本来は「健やかな身体に健やかな魂が願われるべきである」の意味である。
 ナチス・ドイツはこの言葉をスローガンとして掲げ、身体を鍛えることによってのみ健全な精神が得られるかのような意味へと改竄し、軍国主義を推し進めた。結果、本来の意味は忘れ去られ、誤った意味で広まることになった。つまり、ユウェナーリスの理解が曲解・誤解されて今に至っていることを示唆しているのである。


未読日記630 『パウル・クレー : おわらないアトリエ』

2012-07-28 08:36:21 | 書物
タイトル:パウル・クレー : おわらないアトリエ
別書名 : Paul Klee : art in the making 1883-1940
監修:ヴォルフガング・ケルステン
編集:池田祐子, 三輪健仁
デザイン:森大志郎、川村格夫
制作協力:境洋人
発行:[東京] : 日本経済新聞社
発行年:2011
形態 : 439p ; 23cm
注記:展覧会カタログ
   会期・会場: 2011年3月12日-5月15日:京都国立近代美術館, 2011年5月31日-7月31日:東京国立近代美術館
   主催: 京都国立近代美術館, 東京国立近代美術館, 日本経済新聞社, 京都新聞社
   "Katalog 01 : 日本語版 : Japanische Ausgabe" - T.p.
   おもに図版
   年譜・参考文献・作品リスト: p410-437
内容:
ごあいさつ
所蔵者一覧
謝辞
展覧会への序章 / ヴォルフガング・ケルステン / 池田祐子 / 三輪健仁
kapitel 00: 自画像
beitrag 01: 「1919年の「自画像」シリーズ」柿沼万里江
kapitel 01: 現在/進行形||アトリエの中の作品たち
Einleitung: 「アトリエ絵画」ヴォルフガング・ケルステン / 池田祐子 [翻訳]
beitrag 01: 「ミュンヘンのアトリエ写真」池田祐子
beitrag 02: 「天才崇拝・聖域・工房の間で : ヴァイマールとデッサウのバウハウスにおけるクレーのアトリエ」ヴォルフガング・ケルステン / 柿沼万里江 [翻訳]
beitrag 03: 「ベルンのアトリエ 1934-1940」奥田修
kapitel 1.5: プロセス0 | アトリエから技法へ
kapitel 02: プロセス1 | 写して/塗って/写して||油彩転写の作品
Einleitung: 「油彩転写素描」ヴォルフガング・ケルステン / 池田祐子 [翻訳]
beitrag 01: 「視覚原理としての二重性 : パウル・クレー作 <<ホフマン風メルヘンの情景>>」ベッティーナ・ゴッケル / 柿沼万理江 [翻訳]
kapitel 03: プロセス2 | 切って/回して/貼って||切断・再構成の作品
Einleitung: 「切断という創造的行為」ヴォルフガング・ケルステン / 池田祐子 [翻訳]
beitrag 01:「「切断・再構成」→「油彩転写」あるいは「切断」→「油彩転写」→「再構成」」三輪健仁
kapitel 04: プロセス3 | 切って/分けて/貼って||切断・分離の作品
beitrag 01: 「<<Mのための花輪>>と<<庭のリズム>>」奥田修 [著]
      切断・分離作品の再構成
kapitel 05: プロセス4 | おもて/うら/おもて||両面の作品
Einleitung: 「両面作品」ヴォルフガング・ケルステン/ 柿沼万里江
beitrag 01: 「城門の符牒 ― 切断された両面作品」柿沼万里江
      両面作品の赤外線撮影写真
beitrag 02: 「流浪の異形者 ― 台紙で隠された裏絵」柿沼万里江
kapitel 06: 過去/進行形||“特別クラス”の作品たち
Einleitung: 「特別クラス」ヴォルフガング・ケルステン / 柿沼万里江 [翻訳]
資料
パウル・クレー 年譜
[パウル・クレー] 参考文献
[パウル・クレー] 作品リスト
フォト・クレジット

頂いた日:2012年7月26日
 職場で頂いた1冊。


未読日記629 『隠れ処』

2012-07-26 08:04:51 | 書物
タイトル:隠れ処 : My Hideout
著者・発行:小島敏男
訳:南平妙子
発行年:2011.7
形態:1冊:15cm
注記:展覧会会期中に配布された冊子「隠れ処」の和英合本
   2011.5.30(水) - 6.16(土)
   a piece of space APS
内容:
隠れ処
 隠れ処
 空
 雲
 隠れ処、再び
My Hideout
 My Hideout
 The Sky
 The Clouds
 My Hideout, Once Again
図版

頂いた日:2012年7月25日
 著者の方より頂いた1冊。どうもありがとうございます。
本著は、1999年に書かれたテキストをあらためて刊行したもの。小島さんの制作・仕事についての思考が美しい散文によってまとめられている。名文。

印象深いのは、「幼い頃の記憶の中には過去の思い出としてだけではなく、これから生きるかもしれない未来が隠されているのではないか」の言葉である。記憶とはまさに「a piece of future」なのかもしれない。

memorandum 089 見つめることと待つこと

2012-07-25 05:34:56 | ことば
 見つめることと待つこと、それが美しいものにふさわしい態度である。自分で考えつくことができ、欲求するすることができ、願望することができるかぎり、美しいものは出現しない。だからこそ、すべての美の中には、除き去ることができない矛盾、苦、欠如が見出される。
シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫)』田辺保訳、筑摩書房、1995年、p.244.

 自分で考えつくことはたかが知れている。

【ご案内】「紙技百藝2012 アーティスツ・プリントフェア」

2012-07-23 05:43:15 | 美術
 この度、8月23日より京都・名古屋・東京の三都市を巡回するプリントアートフェア「紙技百藝」に審査員として参加することになりました。
 紙技百藝は、多岐にわたる紙の仕事や素材に特化したエントリー制によるプリントアートフェアです。募集ジャンルは、ファインアートを中心とした絵画、写真、版画、現代美術、現代詩を対象としています。
 また、新鋭アートスペースのディレクター、美術批評、評論、企業家、国内外で活躍するアーティストら審査員による紙技アワードも合わせて設立され、来場された観客投票による観客賞も設けられます。
 皆さまのご参加をお待ちしております。

【会期】
大文字プレビューイベント/京都 雅景錐 8月16日(木)
京都 雅景錐 8月23日(木)~26日(日)
名古屋 時折 9月6日(木)~9日(日)
東京 HIGURE 17-15 cas 2013年2月7日(木)~10日(日)

【エントリー予定アーティスト】
詫摩昭人(絵画)、下平竜矢(写真)、菅原布寿史(現代美術)、神崎智子(版画)、川崎輝正(写真)、渡邊光也(絵画、現代詩)、国谷隆志(現代美術)、堀江美佳(写真)、鈴木かおり(版画)、仲摩洋一(絵画)、山下和也(絵画)、吉田ルシア(版画)、大谷楽(絵画)、西島一洋(絵画、現代美術)、斎藤英理(現代美術)、酒井一有(現代詩)、三田健志(写真)、渋川駿(現代美術)、吉田重信(現代美術)、本田このみ(版画)、吉田知古(写真)、Seth High(現代美術)、浅野孝之(現代美術)、刑部信人(写真)、渡邊香弥子(版画)

【エントリーするアーティストの出展料、参加要項について】
エントリー料:15,000円(ともに三都市巡回費用含みます)
参加条件:キャリア、年齢不問(但し、応募多数の場合は要審査)
ジャンル:絵画、写真、版画、現代美術、現代詩(アニメ系不可)

【エントリー・作品送付の締切】
2012年8月10日(金)

【出展作品サイズについて】
1)A4シートサイズまでの作品/枚数10シートまで提出可能

【審査員】(予定)
馬場伸彦(甲南女子大学文学部メディア表現学科教授)
平田剛志(美術批評/元カロンズネット編集長)
天野雅景(写真家、雅景錐/クリエイティブ・ディレクター)
岡本光博(美術家、クンストアルツト/ディレクター)
下玉利忠(アーティスト・プロデュース・ジャパン、株式会社アイプラッド代表取締役)
水谷イズル(美術家、Project NoA)
村上将城(写真家、時折/ディレクター)

グランプリ(1名) 特典: 次回出展料の免除
準グランプリ(1名) 特典: 次回出展料の免除
錐賞(天野のみ選定) 特典: 雅景錐で企画するグループショウでの紹介
時折賞(村上のみ選定) 特典: 時折にて企画するグループショウでの紹介
審査員賞(天野、村上以外/各審査員1名/5枠)
観客賞(上位4名)
計6カテゴリーより選出

詳細は、雅景錐ウェブサイトをご覧ください。
http://gakeigimlet.org/2012/07/kamiwaza100_2012_main/

memorandum 088 美

2012-07-22 05:51:06 | ことば
 美しいものとは、人がじっと注視できるものである。何時間ものあいだ、見つめていることのできる一基の彫像、一枚の絵。
 美しいものとは、何かしらそこに注意を向けることのできるもののことである。

シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫)』田辺保訳、筑摩書房、1995年、p.242.


そんな作品に出会いたい。