タイトル:わたしいまめまいしたわ 現代美術にみる自己と他者
企画構成・カタログ編集:東京国立近代美術館(大谷省吾、蔵屋美香、鈴木勝雄、保坂健二朗、三輪健仁)
デザイン:服部一成、山下ともこ、田部井美奈
発行:
東京国立近代美術館
発行日:2008年1月18日
金額:1,200円
内容:
版型・頁数 B4版 縦36.4×横25.7cm/52p(表紙含む)
1.「わたしはひとりではない」蔵屋美香
2.「アイデンティティの根拠」三輪健仁
3.「暗い部屋と「わたし」」鈴木勝雄
4.「揺らぐ身体」保坂健二朗
5.「スフィンクスの問いかけ」保坂健二朗
6.「冥界との対話」鈴木勝雄
7.「SELF AND OTHERS」蔵屋美香
8.「「社会と向き合うわたし」を見つめるわたし」大谷省吾
出品作品リスト
購入日:2008年2月16日
購入店:
東京国立近代美術館 ミュージアムショップ
購入理由:
東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館のコレクションを中心として「わたし」をめぐる考察を展開した展覧会。
見る前は、いわゆるコレクションを活用した常設展示のテーマ展といった内容と思っていた。だが、予想は裏切られ、思いのほか楽しめた内容に近美のレベルの高さを感じることとなった。
私が予想もしなかった点とは、展覧会がひとつのストーリーとして構成されているということであった。「わたし」をめぐって「自己」と「他者」「社会」などのキーワードを作品を通じて(展示することによって)考察するエッセイとして構成されているのだ。これは、作家の側からすると反感を買われるかもしれない。なぜなら、そのような意図を想定して制作したわけではないからだ。だが、展覧会とは多かれ少なかれストーリーとして構成されている。しかし多くの場合メッセージは後方に隠れ、あくまでも作品が鑑賞者に自由に受け取られるようになっているだろう。
しかし、今回のこの「わたしいまめまいしたわ」展は、作品同士及び空間ごとに明確に一本のストーリーが流れ、鑑賞者を誘導していく。コレクション中心と聞くと、いつも見ている作品ばかりか、と思ってしまう。そこをコンセプトを強く打ちだし構成したことが功を奏しているのだ。そして、思わせぶりな回文タイトルの意味が展覧会のエンディング作品を見ることで、すべてがつながり私は軽くめまいをおぼえた。いままで何度も見てきた作品が展示の仕方次第で、このような変化を見せることにいままでの美術体験にゆさぶりをかけるといってもいい体験を得ることができた。地味な印象の展覧会だが、内容的にはかなり高度で知性あふれる展覧会になっている。
思わず「地味」などという言葉を使ってしまったが、このような思い切った展示ができるのも良質な作品をコレクションとして持っているからこそできることを忘れてはならない。レベルの低い作品からは、このような思考もまた誘発しえないはずだからだ。
最後にカタログについて触れておこう。展覧会カタログではめずらしいB4サイズで図版が大きく掲載されているのはうれしい。だが、すべての作品を掲載しているわけではなく、図版やテキストも雑誌風に自由にレイアウトされている。服部一成氏のデザインは私も好きなのだが、今回はやや遊びすぎな気もしないではない。しかし、教育普及的な面のあるコレクション展としてはこれでいいのかもしれない。美術初心者には難しい研究論文もなく、重たさもないので映画のパンフレット感覚で手軽に見れる内容である。値段も手ごろで、デザインもシャレている。こういう内容的、デザイン的な「軽さ」が実は美術にはもっと必要なのかもしれない。