A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

memorandum 169 寛容

2015-04-30 23:09:45 | ことば
 宗教があるのは、現世ならびにあの世でわれわれが幸せになれるそのためにである。来世で幸せであるには、何が必要か。正しくあることである。
 われわれの本性の悲惨が許容する範囲で、この世で幸せであるには、何が必要か。寛容であることである。

ヴォルテール『寛容論 (中公文庫)">寛容論』中川信訳、中央公論新社(中公文庫)、2011年、154頁。

【ご案内】『民族藝術 VOL.31』

2015-04-27 23:18:49 | お知らせ
民族芸術学会『民族藝術』VOL.31に「吉田初三郎の戦時観光案内図――鳥瞰図にみる軍事施設」を寄稿させて頂きました。お近くでお見かけしましたら、お目通し頂けると幸いです。
 また、抜刷が少数ございますので、ご希望の方にはお送りさせて頂きます。お気軽にお知らせください。

―――――
タイトル:民族藝術 VOL.31 2015
編著:民族藝術学会
編集:醍醐書房
題字:田中一光
デザイン:共同印刷工業株式会社
発行:豊中 : 民族藝術学会
発行日:2015.3
形態:210p ; 30cm
内容:
特集 イメージの力
〈シンポジウム〉
吉田憲司「イメージの力・再考」
小川勝「イメージの力の発見――先史岸面画からのアプローチ」
齋藤亜矢「イメージの働きを考える――チンパンジーとヒトの描画研究からのアプローチ」
松本絵理子「イメージの働きを考える――人間の視覚認知からのアプローチ」
〈シンポジウム〉
岡田裕成「接触領域の芸術~美術・音楽・芸能」
後小路雅弘「アジア美術におけるゴーギャン的なるもの」
伊東信宏「「東欧演歌」研究序説」
矢内賢二「歌舞伎と「西洋」との接触――「漂流奇譚西洋劇」の大失敗」

民族藝術学の諸相
平田剛志「吉田初三郎の戦時観光案内図――鳥瞰図にみる軍事施設」
枝木妙子「友禅図案における〈キネマ柄〉の考察――立命館大学アート・リサーチセンターの所蔵品を中心に」
茂山(善竹)忠亮「善竹彌五郎の肉声――NHKアーカイブスに残された音声資料について」
福持昌之「剣鉾の剣の意匠についての一考察」
由比邦子「台湾サオ族の杵搗き音楽に見る伝統の保持と生き残るための観光化」
松本由香・佐野敏行「インドネシア・アチェの服飾工芸にみる伝統と津波後の変化」
山下暁子「タイの音楽家プラシッド・シラパバンレン(1912-99)について――「語られ方」の検証」
久岡和枝「シャルヴァ・ムシュヴェリゼ(1904-84)の混声合唱曲『プシャウリ』(1934)にみる山岳民の表象――20世紀グルジア音楽におけるモダニズム」
緒方しらべ「アフリカ美術研究におけるつくり手へのアプローチの試み――ナイジェリア南西部の都市で生きる「アーティスト」の事例から」
柳沢史明「アフリカ美術研究における西洋人表象と「コロン」」
下休場千秋「民族藝術と開発援助活動――エチオピア・シミエン国立公園の事例」
板垣順平「土産品開発と民族藝術――エチオピア・シミエン国立公園における土産品開発を通じて」
海野るみ「歴史の技法――南アフリカ・グリクワの人々の実践と「民族芸術」」

民族藝術学の現場
乾淑子「装幀の美」
加藤玖仁子「今野ミサ・平和の祈り」
外舘和子「創るとは何か――台湾が示唆する工芸、陶芸の未来」
深津裕子「世界の生命樹をめぐる旅」
北村仁美「相照らす場の創出」
森口まどか「正統派 抽象画家 三輪なつ子」
田原由紀雄「国際化時代のアイデンティティ――森野泰明作陶60年に寄せて」
鈴木慈子「それぞれの近代」
中塚宏行「作家の眼 高橋秀――気への形象」展に寄せて」
吉村良夫「根源的な生命感を求めつつ現代の美を探り続けて」
薗田郁「手の届く伝統芸能――台湾の人形劇、布袋儀」
加藤瑞穂「今に生きる「具体」」
川田都樹子「共存か、逆襲か、「アートの陰謀」か――アウトサイダー・アートをめぐる旅行記」
佐々木千恵「くらしの悦びから生まれることば:「工悦邑展」」
吉原美惠子「小池博史ブリッジプロジェクト「風の叉三郎―Odyssey Of Wind―」のあとさき」
竹口浩司「声なき声を響かせるために」
後小路雅弘「アジアのビエンナーレ/トリエンナーレ――光州と福岡」

第11回木村重信民族藝術学会賞
河合徳枝「鈴木正崇著『ミャオ族の歴史と文化の動態――中国南部山地民の想像力の変容』
大会報告
岡田裕成「第30回民族藝術学会大会報告」
彙報



未読日記1026 『フラジャイル』

2015-04-26 23:26:07 | 書物
タイトル:フラジャイル 弱さからの出発 (ちくま学芸文庫)
著者:松岡正剛
カバーデザイン:ミルキィ・イソベ
発行:東京 : 筑摩書房
発行日:2005.9
形態:474p ; 15cm
注記:底本: 筑摩書房刊 (1995.7)
    その他のタイトルはジャケットによる
内容:
なぜ、弱さは強さよりも深いのか?
なぜ、われわれは脆くはかないものにこそ惹かれるのか?〈「弱さ」は「強さ」の欠如ではない。「弱さ」というそれ自体の特徴をもった劇的でピアニッシモな現象なのである。部分でしかなく、引きちぎられた断片でしかないようなのに、ときに全体をおびやかし、総体に抵抗する透明な微細力をもっているのである〉という著者が、薄弱・断片・あやうさ・曖昧・境界・異端など、従来かえりみられてこなかったfragileな感覚に様々な側面から光をあて、「弱さ」のもつ新しい意味を探る。

目次
1 ウィーク・ソートで?
2 忘れられた感覚
3 身体から場所へ
4 感性の背景
5 異例の伝説
6 フラジャイルな反撃
あとがき
文庫版あとがき
解説「弱々しさの勧め」高橋睦郎

購入日:2015年4月25日
購入店:紀伊國屋書店 梅田本店
購入理由:
 木野智史展DMテキストのための参考文献として購入。実家にあるかと思いきや家になく、新たに購入した。
 きっかけは木野の作品が陶芸としてはフラジャイルな印象を受けたことが原因である。そこで、タイトルに「フラジャイル」を冠した本書を読んでみようと思い立った。本書を読み始めて、松岡が弱さについて「部分でしかなく、引きちぎられた断片でしかないようなのに、ときに全体をおびやかし、総体に抵抗する透明な微細力をもっているのである」と書くとき、鮮やかな結論を得た気になり、思考は動きだした。その顛末は当該DMでご確認ください。

 本書は博学な松岡正剛らしく、豊富な事例と内容でスピードよく読ませる力がすばらしい。だが、結論めいたものは第1章で語られ、あとは各論が続くという構成であった。そこに、思想・哲学的な方向性は見られず、編集的というか、文献学的な紹介に終始しているのが松岡流なのかもしれない。「フラジャイル」のは、とてもおもしろい概念・着想なのに、思い出話や文献紹介で終わるのが、なんだかもったいない。
 またインテリゲンチャらしく、自分の同級生に誰それがいるとか、作家やアーティストに「友人の」と但し書きをつけるあたりは、80年代的なのか。
 参考文リストもなく、引用文献の頁数や書誌情報もない。著者は研究者ではないし、ターゲットも一般読者を想定しているのだろうから不要なのかもしれないが、これだけ本を取り上げておきながら、書誌情報を欠くとは、それもまたフラジャイルゆえなのだろうか。引用の礼儀というものもあるのではないかと思うのだが。


未読日記1025 『テンプス・フーギット 大山崎山荘とヤマガミユキヒロの視点』

2015-04-25 23:00:59 | 書物
タイトル:テンプス・フーギット : 大山崎山荘とヤマガミユキヒロの視点
並列書名:Tempus fugit : Oyamazaki Villa and eyes of Yukihiro Yamagami
企画編集:川井遊木
展示会場撮影:草木貴照
デザイン・印刷・製本:ニューカラー写真印刷
発行:[大山崎町 (京都)] : アサヒビール大山崎山荘美術館
発行日:2015.4
形態;16p : 挿図 ; 26cm
注記:展覧会カタログ
    会期・会場: 2015年3月21日-6月28日:アサヒビール大山崎山荘美術館
    主催: アサヒビール大山崎山荘美術館
    作品リスト: p15-16
    ヤマガミユキヒロ略歴: p16
内容:
図版
「テンプス・フーギット―大山崎山荘とヤマガミユキヒロの視点」川井遊木
作品リスト
ヤマガミユキヒロ略歴

頂いた日:2015年4月25日
 アサヒビール大山崎山荘美術館よりご恵贈頂きました。どうもありがとうございます。
 アサヒビール大山崎山荘美術館で現代美術展は久しぶりに見たが、実にすばらしかった。まず、タイトル「テンプス・フーギット」がすばらしい。以前に見た「山荘美学 日高理恵子とさわひらき」(2010年12月15日~2011年3月13日)もすばらしかったが、山荘にゆるやかに流れる時間と映像の時間が共鳴し合い、この美術館と映像は相性がいいのではないだろうか。展示品との相性もよい。ヤマガミユキヒロは新作として美術館に差し込む光、所蔵品のルーシー・リーをモチーフとするなど、「静」に潜む時間を描きだすことに成功した。

 一方、図録については小規模館ということもあって、ギャラリーが発行するような簡易な内容で少し期待外れだった。デザインは印刷会社なので致し方ないとしても、展覧会歴は大幅に略され、参考文献もない(私がかつて書いたテキストも当然記載されない)。インスタレーションビューには白いスツールが入って映像作品より目立つ・・。

 とはいえ、図録を制作しない美術館もあるので、図録がないよりはいい。なかにはテキストも掲載されない図録があることを考えると、本書にテキストがあることは本当にすばらしいことだと思う。しかし、欲を言えば、このテキストもまた今後のヤマガミユキヒロ展の図録で参考文献に記載されないとなると、ないも同然となってしまう。よく批評がないと言われるが、参考文献を載せないということは、批評・研究を見えなくさせることだと思う。

未読日記1024 『もうひとつの見方』

2015-04-23 23:01:24 | 書物
タイトル:もうひとつの見方―奈良の障害のある人の表現
監修:阿部こずえ、岡部太郎、森下静香(一般財団法人たんぽぽの家)、宮下忠也
編集ディレクション&編集:多田智美(MUESUM
編集:永江大(MUESUM
アートディレクション:原田佑馬(UMA/design farm
デザイン:西野亮介(UMA/design farm
撮影:濱田英明、藪本絹美
印刷・製本:山田写真製版所
発行:奈良 : たんぽぽの家
注記:本書は「平成26年度障害者の芸術活動支援モデル事業(厚生労働省)」の一環として制作しました。(奥付より)
発行日:2015.3
形態:79p ; 26cm
内容:
はじめに
奈良県の障害のある人の表現活動の現状について
「表現が生まれる場と見る視点」岡部太郎、森下静香
EVERYDAY WORKING ENVIRONMENT Photo by Hideaki Hamada
WORKS(作品収録) 古谷秀男 山康史 山野将志 伊藤樹里 藤田雄 若大介 澤井玲衣子 中村真由美 田千惠子 武田佳子
「収録作品の魅力と背景について」宮下忠也

頂いた日:2015年4月22日
 たんぽぽの家よりご恵贈頂きました。どうもありがとうございます。
 本書は、3月に開催された同名の展覧会図録でもある。私もトークイベントに参加させて頂き、大変貴重な経験をさせて頂いた。トークの時にもお話させて頂いたかもしれないが、私は本書収録の作品を「障害」の有無では見ていないし、申し訳ないことに障害の有無を問わずアーティストの人格・性格、プライベートにあまり興味がない。人見知りで人付き合いの悪い私にとって、人よりは作品に興味があるからである。
 今展では、澤井玲衣子、若大介の作品から受けた色彩と言葉に魅かれた。この業界ではよく知られているアーティストのようだが、すばらしい作品だった。
 なお、本書は「障害とアートの相談室」ホームページから全ページダウンロードできる。

未読日記1023 『なやんで ひらいて 2歩すすむ ためのハンドブック』

2015-04-22 23:59:33 | 書物
タイトル:障害とアートの相談室 : なやんで ひらいて 2歩すすむ ためのハンドブック
企画・執筆:阿部こずえ、岡部太郎、森下静香(一般財団法人たんぽぽの家)
編集ディレクション&編集:多田智美(MUESUM
編集:永江大(MUESUM
アートディレクション:原田佑馬(UMA/design farm
デザイン:廣田碧(UMA/design farm
漫画&イラスト:ニシワキタダシ
協力:井尻貴子、太田明日香
印刷・製本:山田写真製版所
注記:本書は「平成26年度障害者の芸術活動支援モデル事業(厚生労働省)」の一環として制作しました。(奥付より)
発行:奈良 : たんぽぽの家
発行日:2015.3
形態:62p ; 21cm
内容:
はじめに
A 価値・意味:なぜアートに取り組むの?
B 道具・画材・素材/環境/支援:創造的な活動が生まれる環境とは?
Column「創造的な環境をつくる」
C 仕組み/資金:マネジメントの視点も重要です!
Column「表現を社会につなぐマネジメント」
D 保存・記録/発表:社会に発表していきたい!
Column「展覧会開催までのステップ」
E 権利/仕事:権利を守り、仕事につなげたい!
さいごに

頂いた日:2015年4月22日
 発行元よりご恵贈頂きました。どうもありがとうございます。
 タイトルはわかりにくいが、内容は障害のある人のアート活動を支援する40人の実践者の取り組み事例を掲載したもの。アート関係の事例は、各論が多く、概論として明快な解決案があることの方が少ないので、こういった具体例をまとめることは有意義だろう。
 内容は漫画やイラストも用いられて、アートマネジメントの本としても読めて、わかりやすい。ホームページから全ページダウンロードできる。

未読日記1022 『バーネット・ニューマン : 十字架の道行き』

2015-04-20 23:15:00 | 書物
タイトル:バーネット・ニューマン : 十字架の道行き : レマ・サバクタニ
タイトル別名:Barnett Newman : the stations of the cross : lema sabachthani
編集:Miho Museum
制作:株式会社エヌ・シー・ピー
編集協力:株式会社福本事務所
印刷:日本写真印刷株式会社
発行:[甲賀] : Miho Museum
発行日:2015.3
形態:99p ; 34cm
注記:展覧会カタログ
    会期・会場: 2015年3月14日-6月7日:Miho Museum
    主催: Miho Museum, ワシントン・ナショナル・ギャラリー, 京都新聞
    主要参考文献: p83-87
    折り込み図あり
内容:
「ごあいさつ」辻惟雄
「ごあいさつ」アール・A・パウエル3世
「ステイトメント」バーネット・ニューマン(三松幸雄訳)
「14留の十字架の道行き、1958-1966年」バーネット・ニューマン(三松幸雄訳)
「観者の道行きの留」ハリー・クーパー
「バーネット・ニューマンの〈十字架の道行き〉」大島徹也
図版
「対話:バーネット・ニューマンとトーマス・B・ヘス」(1966)より」バーネット・ニューマン(三松幸雄訳)
バーネット・ニューマン テクスト抄(三松幸雄訳)
年譜
個展歴
〈十字架の道行き――レマ・サバクタニ〉展示歴
主要参考文献

購入日:2015年4月19日
購入店:MIHO MUSEUM
購入理由:
 日本が《アンナの光》を失って、日本人が「レマ・サバクタニ(わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか)」と言ったかどうかわからないが、日本で5年ぶりのバーネット・ニューマンの個展が関西で開催される「奇跡」が起きた。それも、ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵の《十字架の道行き》14点である。開催館は、西洋美術も近現代美術も縁がないMIHO MUSEUMという特殊な場所だが、「宗派」が違うからこそ実現したのかもしれない。
 正直、展覧会のボリュームや質という点からは同時期開催されている「曽我蕭白『富士三保図屏風』と日本美術の愉悦」展の方が充実している。バーネット・ニューマン展は、1作品14点、1室のみの展示なので、展覧会としては物たりなくもある。だが、それでもニューマン作品目当ての巡礼者ならぬ鑑賞者が絵の前で過ごす経験は「愉悦」の時間だろう。
 一方、日本美術教の来館者たちは展示室に入るとことごとく、「わからん絵やな」「なんやこれ」などと唾を吐き捨てるように言い残して出ていく。ある意味で絵画が「審判」、「受難(Passion)」を受ける場に立ち会い、観者の感情・情念(Passion)も問い直される場であった。

未読日記1021 『みつめる写真館』

2015-04-19 23:12:16 | 書物
タイトル:みつめる写真館
別タイトル:LOOKING INTENTLY:A PHOTOGRAPHER'S GALLERY
著者:林直
翻訳:川田尚人
デザイン:石山さつき
発行:東京 : 冬青社
発行日:2015.3
形態:1冊(ページ付なし) ; 26×27cm
内容:
父のアンソニーカメラ
ランドセル
感謝
3つのヴァイオリン
リュックサック
小さくなった鉛筆たち
治療器具
アラジン

Saxophone
テディベア
マトリョーシュカ
スニーカー
ボンボン入れ

茶鋏と箕
黒竹の思い出
折本
絵本とボタン
写真
ねてわん
地図
初めて手にした時刻表
相棒
文庫手帳
かまぼこ屋のそろばん
父の時計
パパへ
初孫が最初に履いた靴
夏の麦わら帽子と、冬のフェルト帽
ハンドメイドのピエロ
父の父と父
お母さんのピアス
妻の仕事場
抱き枕
憧れのがま口
丹前
時計とひざ掛け
切手帳
太鼓
そのときを待つパレット
秘密の花園
姉から譲り受けた父のお土産
本物
パーレットカメラ
手帳
$レジスター$
理容師と日本刀
鍛冶屋の右手
おじいちゃんのカメラ
「母のミシン」鳥原学
「みつめる写真館」林直

購入日:2015年4月18日
購入店:ブルームギャラリー
購入理由:
 写真家・林直が長年継続してきた「みつめる写真館」プロジェクトの写真をまとめた写真集。捨てられずにいる大切なものを写真館で記念撮影するように撮影された白黒写真が本当に美しい。展覧会でみたプリントもまたすばらしかった。どれもものを撮っているだけに見えて、ものが経てきた時間や空気感を捉えた写真となっている。
 また、写真に添えられたテキストは短いながらも簡潔にものの情報や思いを伝え、所有者やものが生きた時代へ想像・想起させていく。テキストを読んで意外と多かったのが、誰かから贈られたり、譲られた品々であった。人から人へと渡っていくものは、それだけ思いが深く、会ったことのない人のポートレイトのようでもある。たとえば、ミシンを撮影した「妻の仕事場」のテキストは、亡き妻へのラブレターとしても読めるほど、愛情溢れる文章であった。だが、テキストだけ読むと気恥ずかしい面もあるが、写真と合わせると持ち主の感情が抑制されてバランスがいい。本書のウェットになり過ぎないスタイルは、本書のタイトルに付された「みつめる」ことにあるのだろう。ものを「みつめて」きた人(所有者)とものを撮影するために「みつめる」写真家のみつめた時間の厚みが、程よくブレンドされているのである。そして、本書をみつめる読者は考えるだろう。私にもみつめてきたもの、みつめてきた時間があったことを。

未読日記1020 『Cape Watershed/残響』

2015-04-18 23:41:17 | 書物
タイトル:Cape Watershed/残響
シリーズ名:落石計画 ; 第7期
デザイン・編集:藤永覚耶、貞包将彦
編集協力:井出創太郎、高浜利也、矢島与萌
撮影協力:佐藤琢巳
発行:[根室] : 落石計画実行委員会
発行日:2015.3
形態:1冊 : 挿図 ; 30cm
注記:展覧会カタログ
    会期・会場: 2014年8月7日-8月11日:旧落石無線送信局 (現・池田良二スタジオ)
内容:
「「場」と生きる―呼吸するアート」寺地亜衣
赤本啓護
安齋歩見
岩瀬晴香
木曽浩太
北嶋勇佑
貞包将彦
佐藤琢巳
佐野明子
田中藍衣
田中彰
田中元偉
所彰宏
冨岡奏子
中村真理
藤永覚耶
松村かおり
山口麻加
山田大空
矢島与萌+オクチシ隊
井出創太郎+高浜利也
池田良二

頂いた日:2015年4月18日
 出品作家・編者の方よりご恵贈頂いた1冊。どうもありがとうございます。
 井出創太郎さん、高浜利也さんを中心に始まった落石計画も第7期に入り、カタログも徐々に厚さがでてきた。今回も田中藍衣、中村真理、藤永覚耶など気になる作品があった。毎回行きたいと思いつつ、都合があわずに失礼し続けている。カタログに掲載された現地の写真には、神韻とした桃源郷のような風景が広がる。この風景を経験したら自分はどうなるのだろうという恐れと楽しさに想像が膨らむ。落石計画に行くという計画が計画倒れになるのか、実現する計画になるのか、観者の人生計画をも問うている展覧会である。

未読日記1019 『ワンダフルワールド』

2015-04-13 23:22:54 | 書物
タイトル:ワンダフルワールド : こどものワクワク、いっしょにたのしもう : みる・はなす、そして発見!の美術展
別書名:Wonderful world : sparkle is everywhere! Let's see, talk, discover, and share the fun with everyone!
編集:山本雅美
展覧会インターン:秋山文、佐下橋容代、吉田佳寿美
翻訳:ギャビン・フルー
デザイン:北村直子
会場撮影:木奥恵三
制作:山田写真製版所
発行:東京 : 東京都現代美術館
発行日:c2014
形態:30p : 挿図 ; 26cm
注記:展覧会カタログ
    会期・会場: 2014年7月12日-8月31日:東京都現代美術館
    出品作家: 橋本トモコ, クワクボリョウタ, 船井美佐, 金澤麻由子, 武藤亜希子
    主催: 東京都歴史文化財団東京都現代美術館
    タイトルは奥付による
    作家略歴: p25-29
    出品リスト: p30
内容:
ごあいさつ
「ワンダフルワールド こどものワクワク、いっしょにたのしもう みる・はなす、そして発見!の美術展」山本雅美
図版
 橋本トモコ
 クワクボリョウタ
 船井美佐
 金澤麻由子
 武藤亜希子
作家略歴
出品リスト

頂いた日:2015年4月13日
 出品作家の方よりご恵贈頂きました。どうもありがとうございます。会期中、カタログは販売されてなかったので、会期後にインスタレーションビューを収録した記録集&カタログ。
 展覧会は子どもを対象とした内容だが、大人でも十分楽しめるものであった。基本的に思うのは、「こども」目線で制作をすることと、「こども」目線で展示をすることは異なると思う。橋本トモコ、クワクボリョウタの2氏は、それほど「こども」を想定した制作はしておらず、どちらかといえば「こども」の目線や視線を意識した展示であった。それゆえ、両者の展示は、「おとな」や「こども」という対象や枠組みを変えてもクオリティとしてすばらしいものであった。とくに天井高のある都現美の展示室を生かした橋本トモコの展示は、絵画を見ることの魅力をあらためて「発見」させてくれる展示であった。
 一方、他のアーティストは、制作(または展示)において「こども」を想定したことで、これまでの作品・展示と雰囲気の異なる印象を与える点があったことは否めない。
 「ワンダフルワールド」の境界線は、「こども」と「おとな」の境界なのだろうか。その境界を軽々と行き来し、越境する作品こそが「ワンダフル」ではないだろうか。